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休日日記②横浜は遠きにありて思ふもの

土曜日

前日は災害級の大雨が降り続いた。起き抜けにスマホのニュース通知を見て、明け方にようやく大雨警報が解除されたことを知った。テレビを付けると全国の洪水被害の様子が続々と報じられていた。線状降水帯というのは台風以上に恐ろしいものかもしれない。

何はともあれ僕はこの土曜日の天気予報を2週間前から毎日チェックしていた。今日は横浜スタジアムに行く。横浜DeNAと埼玉西武の交流戦があるのだ。
ちなみにこの日のチケットは2ヶ月前の発売日に購入していた。たまのビジター観戦はいつも以上に気合いが入る。僕はこういう日のために関東が本拠地のロッテ、巨人、ヤクルト、DeNAの球団のチケットサイトに登録している。(もっとガチのファンはチケットを取るために相手チームのファンクラブに登録していたりする)

横浜スタジアムの話をする前に、僕の応援する埼玉西武ライオンズの本拠地の話をしておきたい。ライオンズは埼玉県所沢市のベルーナドームという球場を本拠地にしている。ベルーナドームは「自然環境共存型スタジアム」というコンセプトを打ち出した、自然豊かな狭山丘陵に位置する球場だ。

……と言うと聞こえはいいが、つまりは山の中にポツンと球場があるのだ。球場の周りには鬱蒼とした森林が広がっているばかりで飲食店などはほとんどなく、コンビニも一軒しかない。車で行く場合は球場に向かってひたすら山道を登っていくのだが、「俺は野球を見に来ているのか、それともハイキングに来ているのか」と毎回不安になる。
電車で行く場合は球場の目の前に「西武球場前」という駅があるのだが、山の中へ向かうことに変わりは無い。西武線の始発駅である池袋駅から西武球場前駅間は約35分、乗り合わせが悪いと40分以上かかる。しかもそこは西武線以外の路線からは遠く離れた陸の孤島、まさに西武帝国の独裁エリアである。試合終わりはほとんどの観客が一斉に西武球場前駅になだれこみ、かなり混雑する。

ベルーナドームの特異な点は立地だけではない。「ドーム」と名がついてはいるが、ベルーナドームは屋内球場ではない。球場をすっぽりと円形の屋根が覆っているだけで、屋根とスタンドの間には大きな隙間がある。よって雨は凌げるものの常に外気に晒されており、空気の滞留しやすい球場の構造と丘陵の気候が相まって「夏は一段と暑く、春先や秋は一段と寒い」というなかなかに過酷な環境なのである。(夏場のデーゲームを観た友人は熱中症になりかけた)

しかしライオンズは僕の贔屓球団だ。もちろんベルーナドームの良い所もたくさんある。2年前に完了した大改修によって球場内には12球団最多の店舗数を誇る飲食売店が軒を連ね、BOXシート席や屋内のビュッフェ付きのVIPラウンジがあったり、子どもの遊具エリアがあったりして楽しみ方の幅が広い。球場周りには何もない立地だが、球場の中の充実ぶりは他球団のファンにも堂々と胸を張れると思う。




話は戻って、今回向かうのは横浜スタジアムである。
ビジターの試合は特別感があってワクワクする。ましてセリーグの球団の本拠地で試合を観られるのは1年でも交流戦のわずかな期間しかない。しかも横浜スタジアムで西武戦が、土日に開催されるのは4年ぶりのことで、まさにオリンピック並みの大イベントなのだ。

横浜にはグルメの宝庫・横浜中華街がある。海辺に美しい街並みが広がるみなとみらいがある。さらに元町や山手といった異国情緒溢れるお洒落なエリアがあるかと思えば、野毛や伊勢崎町のような昔ながらの渋い飲み屋街も姿を残している。
コスモワールドという遊園地では観覧車やジェットコースターに乗れる。最近では万葉倶楽部というスパ施設も出来た。
そして、その横浜に横浜スタジアムがあるのだ。つまりグルメと観光と遊園地と風呂とプロ野球を一つの街の中で味わえてしまうのである。この辺は自然環境共存型スタジアムとは一線を画していると言わざるを得ないだろう。




雨も止んだ土曜日の昼下がり、A氏、B氏と共に横浜スタジアムに参戦した。二人は僕より少し年上の野球ファン仲間である。

横浜スタジアム



B氏は前日に急遽夜勤仕事が入ってしまったとかで、睡眠時間2時間の過酷なスケジュールにも関わらず来てくれた。「もうこの歳、無理はできないんですけどね」と目を充血させながらも決して観戦をキャンセルしないB氏に野球ファンの矜持を感じた。



横浜スタジアムは決して大きな球場ではないが、場内に入るといつも胸が高鳴る。青空と人工芝のコントラストが美しい。東京オリンピックに合わせて増設されたウィング席が空に向かって突き出ている。

青空の下のグラウンドは美しい






試合が始まった。DeNAの先発は今期のNPBの話題をかっさらっている元サイ・ヤング賞投手のバウアーだ。埼玉西武はエースの髙橋光成で迎え討つ。
ちなみに今朝家を出る前に2023年版のパワプロで今日の試合のシミュレーションをしたところ、埼玉西武は初回からバウアーを打ちまくり2回途中8得点を奪ってノックアウトした。
だからきっと、いけるはずだ。入り口で買った崎陽軒のシュウマイ弁当を頬張りながら試合のゆくえを見守った。

肝心の弁当の中身を撮り忘れました




しかし今日も今日とて現実の埼玉西武は打てない。ここ数試合炎上する登板が続いていたバウアーだったが、主砲の中村剛也と文春砲を喰らった某選手のいない飛車角落ちの西武打線は自分のリズムを取り戻すにはちょうど良い相手だったようだ。鋭い変化球に次々と倒れていく打者たち。汗ばむ気候とフラストレーションの溜まる試合展開に、西武ファンのA氏はビールを次々と飲み干していった。僕は胃を痛めていたので、隣で生唾を飲み込みながら飲酒は自重しておいた。

A氏のやけ酒が続く中、気がつけばバウアーに8回を2失点と抑えこまれた。外崎と平沼のソロ本塁打で2点を取り瞬間的な盛り上がりはあったものの、DeNA打線との力の差は歴然だった。現在首位打者の宮崎、今季覚醒した関根など強力な野手陣を見ていると、数年前に山賊打線と恐れられた西武打線が懐かしくなった。

終わってみれば試合は6-2のスコアで完敗した。それでも久々の横浜スタジアムの観戦は十分満喫できた。客席は満員御礼で凄まじい熱気だった。

しかしどうしても球場の敷地が狭いため、場内の売店やトイレはどこも行列ができていた。こうしてビジター観戦に来ると、ベルーナドームの充実した飲食ブースやトイレの数の多さのありがたみがわかったりもする。

土日のチケットは早めに取らないと完売してしまう


試合が終わり、夜勤明けの疲労と睡魔で「7回以降の記憶が無い」と話すB氏は先に帰った。本当にお疲れ様です。




その後、せっかく横浜まで来たから、とA氏と二人で横浜中華街に繰り出した。我々の野球観戦はここからが本番である。


野球観戦のあとに美味い中華が食えるなんて最高だ。横浜は欲望の街に違いない。
中華街には欲望に支配された試合帰りの同志達が散見された。DeNAのファンのみならず、埼玉西武のユニホームを着たファンが横浜中華街を歩く姿は新鮮である。

僕は食通とは程遠いのだが、一応僕が知っている限りの店の候補を挙げたところ、比較的食の細いA氏と胃を痛めた僕の意見が一致した。「中華粥を食おう」と。

僕たちが向かったのは中華粥の老舗の謝甜記(シャテンキ)という店だ。優しくも深い味の中華粥で胃を労ってやりたかった。しかし店に着くと、まだ夕飯時には早いというのに10組を超える客が並んでいた。ハッと思い出した。そういえば先週、ドラマ『ソロ活女子のススメ3』でこの謝甜記が取り上げられていた。元から有名店ではあるのだが、テレビの影響もあって混んでいるのかもしれない。


しかしここは名店がひしめく横浜中華街である。プランBも強力だ。


胃に優しい中華其の二。
僕とA氏は京華飯店という店に落ち着いた。そこで注文したのは海老ワンタンだ。澄んだ中華スープにぷりぷりの海老のすり身が入ったワンタンが浮かんでいる。ワンタンをじゅるっと流し込む。噛むたびにエビのうま味が口いっぱいに拡がる。久しぶりに食べたが本当に美味しかった。しかもコスパも良い。

京華飯店の海老ワンタン





「このあと、何しましょうか?」A氏に問うた。
「海、見たいよね。」先輩からの答えである。




30過ぎの男二人は、山下公園へ向かった。




すげえ、海だ。
ちょうど日が暮れて、ベイブリッジの下の方から薄暮が顔を覗かせている。みなとみらいのビル郡にも灯りがともってきた。

心地よい海風に吹かれて




このシチュエーションとあっては、どうしても我慢できなかった。やむを得ない。ほんの一瞬だけ断酒を解除することに決めた。


コンビニで缶ビールを買って、芝生の上でA氏と乾杯した。
手を繋いで歩くカップルたちを眺めながら、久しぶりに冷たい炭酸を喉に流し込んだ。横浜の心地よい海風に吹かれて、渡部はファーストの守備が上手くなったよね、なんて話をした。

A氏に奢ってもらった缶ビール 我慢できなかった




改めて言おう。試合には敗れたが、横浜という街は最高である。でも、僕は狭山丘陵も嫌いじゃない。明日こそは勝とうぜ、ライオンズ。

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