【#短編小説】まともに歩けないのならヒールなんて履くなと言う奴をぶっとばせピンヒール
星空が穢されることを嘆くことができなくなったら、人間は終わりだ。星空なんて、もうずっと見上げてないけれど。
つまり、なにが言いたいかというと……
「足が痛い、とても痛い!」
白衣のミュージシャンに憧れて、ピンヒールを買った。そいつが初日にへし折れてしまったのは、多分、通販で買った安物だからだろう。
がんばって歩いたせいで、靴擦れだらけ。乙女の足は痛みと分泌液でぐちゃぐちゃで、まるで泣いているみたいだ。
「無理して履くからだよね」
「ああいう子ホント無理」
今の声は、性別が同じやつらの声だ。
ああ、あいつらか。ぺたんこの靴なんて履きやがって!
「大丈夫?」
性別が違うやつが、私に救いの手を伸ばす。
「どうしたの?」
いや、見ればわかると思うけど……まあ、ありがたいけど…………一体あなたは私に何をしてくれるの? 靴、買ってきてくれるの? まさか、おぶって歩くなんて言わないよね? あんなの、ドラマの中だけの……
「そこに俺の車あるからさ」
予想外! 予想外の現実的展開です!
「結構です」
キッパリ断る私、かっこいい。
「まともに歩けないならそんな靴履くんじゃねぇよ」
捨て台詞を残し去っていく男の背中に、折れたヒールを投げつける……想像をしながら、私は靴を脱いで、歩き、だす。
「見てあの子。泣いてる、可哀想」
うるせぇ。憐れむならその高そうな厚底靴と、動物でつくった鞄をよこせ。
その夜、ベッドの上で私は邪悪な妄想をした。巨大化して、あいつらを踏み潰す妄想を。もちろん、ピンヒールで。
ドスーン! ドスーン!
そうだ、私は悪役だ。
かっこつけて生きようぜ。
おしまい
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