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客から始まり、手伝いを経て、スタッフになった「外国人」

日本に来て今年で16年目。
高校2年生の留学を起点に、日本語学校、大学を経て、社会人(自由人?)になって8年。
海外で放浪していた期間を除けば、静岡での生活が故郷であるフィラデルフィアで育った年数よりついに長くなってしまった今では、どれだけ貴重な出会いに恵まれて来たか、どれだけこの土地の人間に支えられて来たかを痛切に感じている。

その中、 不思議と僕の人生に影響を与えたのはITADAKIだった。
出会いは10年遡って、「ITADAKI」になる前、2007年に開催された「浜石祭り」だった。ギターを弾き始めて間も無く、友人に誘われ、由比駅前で待ち合わせしてから、浜石岳の山頂にある会場までワクワクしながらヒッチハイクした。20代前半、青春の真っ盛り。今の日本野外フェスの大御所となる素晴らしいミュージシャンの大集結で、次から次へと響き渡る気持ちいい音にヤラレっぱなしで、どのバンドもかっこよくて、日本にもこんな文化あったんだと感心した。

子供の時から音楽がとにかく大好きだった。年齢と共に好みが変わり、ボブ・マーリーやエリック・クラプトンを聞いて育ち、中学はオルタナティヴとパンク、高校はブレイクビーツ。今はヒップ・ホップやハウス、ジャズ、ソウル等を加え、聴く幅が倍になったけれど、あの日、それまで日本にないと思っていた「新鮮な」音、新しい空間に出会ったと強く思った。今思うと、「自分は産(うぶ)だったな」という気がしてならないが、初体験というのは誰もが必ずある物で、これからも「産な自分」を追求したいなと思う。ジャンルはともかく、良い音楽がありすぎて今全部ここに書けないけれど、強いて一個言えば、あの日のおかげで井上陽水の「少年時代」にも出会えた。

その後、場所も名前も変わり、今度は日本平の山頂に移った。
当時はその麓に住んでいた事もあり更に身近な物になった。会場までの道がすぐ家の近くを通っていて、渋滞を避けようと客の車が家の目の前まで混み合うようになった覚えもある。
この頃、犬式やB:ridge Styleをよく聞いていて、天草が内田BOBの「小さなトマト」をカバーしているのを初めて耳にして、クラったのも覚えている。自分でも下手ながらライブで弾かせてもらったりもした。進路や恋愛で真剣になり、個人的に思い出深い時期でもあった。

会場がまた変わって、吉田公園になってから、何回か友達の出店の手伝いという名で侵入して、はしゃいでいた。意識としてはそうであっても、本当はやる事がいっぱいあって夜になるともうヘトヘト。飲食の出店はああ見えて本当はとても大変で、以前とは違う角度から野外フェスが見れたし、改めて提供する側へのリスペクトを抱いた。

また数年が経ち、ある日連絡があった。ITADAKIのスタッフからだった。「コーリー、通訳の事で力貸してくれないか」とだった。実は自分はダンスをやっていて、19歳の頃から仲間と組んでいるクルーでよく夜の静岡のクラブでショーケースしたりして来た。その中でBOOM BOOM-BASHという箱のつながりで、なんだかんだITADAKIのボスや他のスタッフさんと仲良くさせてもらっていた。通訳を最初にお願いされた時はスケジュールが合わず、未だにできなかった事をすごく後悔している。なぜならその年のラインアップになんと、Raul Midon、Donovan Frankenreiter、Wild Marmalade、Fishbone、Emi Meyer、Jesse Harris…まじかよ。。。あんな勢揃いはもう二度とないかもしれないけれど、その後、外タレとのやりとりで徐々に関わるようになり、今はウェブサイトの翻訳を担当し、毎年一週間前から現場に入り、泊まり込みでスタッフと一緒に会場を作り上げて、楽しく貢献できている。炎天下で駐車場の線引きやったり、猿みたいにメインゲートの鉄骨を登って飾りをつけたり、雨に降られながらキャンプ場にペッグを打ちまくったりと、皆といい汗かいていっぱい笑ってうまいお弁当食べて充実な一週間を送る。当日はステージ裏で楽屋の準備をしたり、出演者のフリースペースでドリンクを出したりして、かなりおいしい位置にいる。

客から始まり、手伝いを経て、スタッフになった「外国人」である僕は、珍しい視点でITADAKIという現象を見て来た。

英語で”pinnacle“という好きな単語がある。「頂上」「頂点」「絶頂」という意味。言うまでもないが正に「頂」である。「頂きます」という二重の意味は残念ながらないけれど。場所はもう「頂上」ではなくなったし、日本の野外フェスの「頂点」なんて大げさを言いふらせない。しかし、10年間も静岡人だけでなく、全国の音楽好きに笑顔と感動を与え、たくさんの家族に掛け替えのない思い出を提供し、絶えず上を目指すITADAKIは、確実に「絶頂」である。

2017年にオフィシャルHP内に掲載された記事です

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