見出し画像

柳橋・江戸下町探訪記〜山本周五郎『柳橋物語』をたどる〜

宝塚歌劇月組公演『川霧の橋』の原作小説である、山本周五郎の小説『柳橋物語』。

私自身も東京の下町の出身であるからか、月組公演『川霧の橋』を見て周五郎の世界の沼にハマってしまい、作品の舞台となった場所を先日散策してきた。

博多座正面に掲げられた公演の大看板

森下、清澄白河の間あたりから、徒歩で“柳橋”を目指した。Google mapを頼りにしつつも、江戸下町の風情がまだ残るこの界隈を堪能しようと、色々な小道も入ってみた。

すると、さっそく吉良上野介の館跡を発見!
お名前は、学生時代に授業で習った記憶があるため聞き覚えはあったが、一体どんな人だっけ……覚えてない……。
調べによると

江戸時代前期の高家旗本。赤穂事件で浅野長矩により刃傷を受け、隠居後は赤穂浪士により邸内にいた小林央通、鳥居正次、清水義久らと共に討たれた。1703年没。

ざっくりだが、こんな方だそう。

吉良邸跡 正面
吉良邸跡 本人像

散策中にたまたま吉良邸跡を見かけた時は、歴史好きの心をくすぐられ、たまたまふらっと立ち寄っただけだったのに、散策後に周五郎の『柳橋物語』を読んだら、まさかの吉良さんが討たれた云々かんぬんのエピソードがあってびっくり!

江戸時代と言えども期間は長し、その中でも1700年前後が舞台の作品なんだな〜そんな出来事があった時なんだな〜と後から思い、作品への理解に深みが増した。

その後、またまたふらっと見つけたのが回向院。これまたなんという偶然。江戸時代前期の1657年に、江戸時代最悪の惨事とも言われる江戸の町を焼き尽くした大火事が起こり、その犠牲者たちを弔う目的で建立されたそう。

回向院 正面
回向院 説明書き

中に入ると、多くの墓石が立ち並び、中には鼠小僧(!)のものまで。お墓なので撮影はしなかったが、手を合わせて、お参りをさせていただいた。

『柳橋物語』劇中で起こる火事とはまた別の火事であろうけれども、“火事はお江戸の名物”と言われるほど、江戸の人たちは火事に人生を翻弄されていたことがヒシヒシと伝わった。

私は火事には遭ったことがないし、現代の建築技術的に何百軒、何千軒と燃え広がることはほぼ有り得ない。こんな安全で豊かな時代で生きていられるのは当たり前のことじゃなくて、つい200〜300年前までは火事で命を落とすことがある意味当たり前だったわけだから、技術の進歩に感謝しなければな……なんてしみじみと考えてしまった。

さて、さらにずんずんと歩みを進めると、はい!隅田川を股にかける大きな両国橋!

両国橋の両国側のたもと

東京の下町で二十数年生きてきているので見慣れた川ではあるけれど、やはり大きい隅田川!

『柳橋物語』で起こる火事の日は、隅田川が満潮で流れも早く、幸次郎がいとも簡単に流されてしまったほど。私が行った時は穏やかな流れだったけれど、この大きさで流れが早かったら、人間一人では到底太刀打ちできないだろうなと痛感。

しかも幸さんは、おみっちゃん(小説ではおせんちゃん)と源六さんを火事の大混乱の中で避難させて、せっせかせっせか働いて、二人を守り続けていたわけですから。体力も底をついていたわけで。そりゃあ流されちゃうよなぁ(涙)でも幸さんにはお願いだから生きていて欲しい(涙)と感情がせめぎ合い忙しかった……。川のたもとでこんなこと考えているのは私ぐらいだろう(笑)

隅田川を東日本橋側に渡り切って、少し右側に進むと、最大の目的地 柳橋が!!!

柳橋 東日本橋側のたもと

一人で行ったけど、大感動&大興奮でソワソワ。

当然江戸時代から何度も建て替わっているだろうけれど、柳橋は変わらずこの場所から江戸の人々を見守り続けてきてくれたのだなぁ……幸さんとおみっちゃんも(フィクションですが)この場所から同じ景色を眺めたのだろうなぁ…と、めちゃくちゃ感傷に浸ってしまった。

幸さんとおみっちゃんも見たであろう橋からの眺め

コロナ禍ということもあり、残念ながら屋形船は営業していなかった。営業が再開したら是非乗ってみたい。

船宿 小松屋
(恐らく)遊女の簪を模したミニオブジェ

東京の下町に住んでいても、船宿や屋形船がたくさん停まっている様子は見たことがなかったので、過去にタイムスリップしたような気分でとても楽しかった。

柳橋を浅草橋方面に渡った後は、神田川沿いの柳原の方を眺めたり、蔵前方面に歩きながら、当時の茅町や天王町のあたりを色々な道をクネクネと入りながら探索した。

蔵前駅がゴール。ここから電車で帰宅。

月組公演の方は見ていたけれど、小説の方は見る前に探索してしまったにも関わらず、偶然にも小説に出てくる吉良邸に出くわすことができたり、江戸の火事と関係が深い回向院にも出会えたり。
調べていなかったのにたまたま巡り会えて、なんだかご縁を感じた。

舞台の『川霧の橋』はもちろんのこと(8回観劇済!)、小説の『柳橋物語』にもどっぷりとハマってしまった。その勢いで、もう一つの原作である『ひとでなし』を収録した短編集の『あんちゃん』や、周五郎の代表作の一つと言われる『さぶ』まで購入してしまった。

周五郎作品の中毒性の高さよ。恐れ入ります……。

柳橋近辺は、また作品の登場人物と触れ合いたくなった時に訪れるとしよう。

この記事が参加している募集

舞台感想

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?