小川至 Itaru_Ogawa

ピアニスト、楽譜作成、文筆、その他色々。武蔵野音楽大学→同大学院→チャイコフスキー音楽…

小川至 Itaru_Ogawa

ピアニスト、楽譜作成、文筆、その他色々。武蔵野音楽大学→同大学院→チャイコフスキー音楽院研究科留学。クラシック音楽を軸に現代の音楽にも時々足を踏み入れますが、研究領域として北欧音楽(フィンランド中心)を主に扱っています。ここではこれまでに書いた文章や翻訳などを掲載していきます。

最近の記事

フィンランド音楽における「フィンランド性」とは何か?

「『フィンランド的要素』―もし実際にそれが実証的な感覚に存在するとしても―は、それは特異な性質ではない。それはそれぞれが異なる方法の中で付加された多数の要因の総体である。」 ―1992年2月、FMQへのミッコ・ヘイニオの分析的論文から +++++  ある国の音楽が持つ国民的性質の特異性を定義することへの問いかけは、変化や統合に直面しているヨーロッパにおける論題の1つである。しかしそれは同時に答えることが非常に難しいものの1つでもある。まず第一に、我々の音楽におけるフィンラ

    • フィンランドの歴史における女性作曲家たちの祭典/第6部:ソフィ・リテニウス

      ヌップ・コイヴィスト=カーシク著(2020年9月25日掲載) ソフィ・リテニウス(1847-1926)は、フィンランドの声楽と音楽教育の歴史において独自の役割を果たした、多作家かつ精力的な小学校教師であり、作曲家であった。 +++++  ソフィ・リテニウスは、トゥルクの旋盤職人であるヘンリック・リテニウスの家に生まれた。彼女の家族は、父親は熱心なアマチュアのフルート奏者、ソフィの兄のアントンは家でヴァイオリンを弾くという音楽一家であった。ソフィは禁止されていたにも関わら

      • フィンランドの歴史における女性作曲家たちの祭典/第5部:アレクサンドラ・ゼレズノーヴァ=アルムフェルト

        ヌップ・コイヴィスト=カーシク著(2020年1月23日掲載) 作曲家、アレクサンドラ・ゼレズノーヴァ=アルムフェルト(1866-1933)は、サンクトペテルブルクにおけるフィンランド人コミュニティの一員であり、自身のキャリアをフィンランドの外側で築きあげた。彼女の生涯と作品を概観すれば、我々の音楽史に対するコスモポリタンの持つ特徴への理解を深め、20世紀への変わり目におけるサンクトペテルブルク、バルト海沿岸における見地も与えてくれる。 +++++  アレクサンドラ・ゼレ

        • フィンランドの歴史における女性作曲家たちの祭典/第4部:イダ・モーベリ

          スザンナ・ヴァリマキ著(2019年10月11日掲載) イダ・モーベリ(1859-1947)は、大きな響きを生み出すアンサンブルを駆使しながら、人間の感情に触れることを望んでいた。彼女の作品は、そのほとんどがオーケストラや合唱曲、あるいはその両者のための作品である。彼女の作品の主題は、主として個人的な精神の移ろいに関係したものである。 +++++  モーベリは、芸術が超越的な精神世界への入り口となると説く神智学に影響を受けた。彼女は成人になってからも、フィンランド及び国外

        フィンランド音楽における「フィンランド性」とは何か?

          フィンランドの歴史における女性作曲家たちの祭典/第3部:ラウラ・ネーツェル

          ヌップ・コイヴィスト=カーシク著(2019年8月9日掲載) 作曲家、ラウラ・ネーツェルは当時、著名な音楽家であると同時に、慈善家としても讃えられていた。フィンランド東部のサヴォ地方で生まれ、ストックホルムでその生涯を送った彼女は、この地で多作な作曲家として、またさまざまな慈善団体における旺盛な活動家として知られるようになった。 +++++  ラウラ・ネーツェルは自身の生涯のほぼすべてをスウェーデンで過ごしたが、彼女のルーツは当時のロシア帝国におけるフィンランド大公国にあ

          フィンランドの歴史における女性作曲家たちの祭典/第3部:ラウラ・ネーツェル

          フィンランドの歴史における女性作曲家たちの祭典/第2部:アイネス・チェチュリン

          スザンナ・ヴァリマキ著(2019年5月2日掲載) フィンランド・ヴァイオリン作品におけるレパートリーのパイオニアであり、ヨーゼフ・ヨアヒムの学派のヴィルトゥオーゾ-これは作曲家でありヴァイオリニストであったアイネス・チェチュリン(1859-1942)に当てはまる、格好の呼び名である。彼女はヘルシンキ音楽学校(現在のシベリウス音楽院)の最初期における花形学生であり、後に傑出した国際的なキャリアを築いていった。 +++++  1884月4月2日、オペラ歌手であり声楽教師であ

          フィンランドの歴史における女性作曲家たちの祭典/第2部:アイネス・チェチュリン

          フィンランドの歴史における女性作曲家たちの祭典/第1部:男女平等のために戦う活動家たち

          スザンナ・ヴァリマキ、ヌップ・コイヴィスト=カーシク著 (2019年2月8日掲載) フィンランド音楽の歴史において、作曲を行った女性は意外にも数多くいる。19世紀から20世紀初頭までの時期だけを見ても、30人近くもの興味深い人物を見出すことができるだろう。本シリーズはこれらの女性たちの生活と音楽について論じている。これは読者諸君が、フィンランドの古典的な作曲家における、未だ調査されていない大部分を学ぶ上で、非常によい機会である。この最初の記事は導入の役割を果たしており、こう

          フィンランドの歴史における女性作曲家たちの祭典/第1部:男女平等のために戦う活動家たち

          作曲家として活躍したフィンランドの歴史における女性たちを紹介する連載企画

          スザンナ・ヴァリマキ、ヌップ・コイヴィスト=カーシク著 (2019年2月8日掲載) あなたは20世紀初頭に活動していたフィンランド人女性作曲家の名前をいくつ挙げられるだろうか?19世紀ならどうだろう。30人?あるいは3人だろうか。FMQ(フィンランド音楽季刊誌)におけるこの連載記事は、フィンランドの歴史的な女性作曲家についての知識を深めるのに役立つことだろう。 +++++  2020年代が目前に迫る今、コンサートのプログラム、教育の学習内容、歴史の記述における男女差別を

          作曲家として活躍したフィンランドの歴史における女性たちを紹介する連載企画

          ユハ・T・コスキネン:自身の音楽について―そしてその向こう側へ

          耳を澄ますこと―縁側 「3か月という(日本における)教職期間の間に、私は地理的にも精神的にも遠く離れた文化の間に橋を架ける方々へ、尊敬の念を深めました」と、作曲家ユハ・T・コスキネンは記している。このコラムは、作曲家や音楽家が自分の音楽について語るシリーズのうちのひとつである。 +++++  過ぎ去っていった「コロナウイルスの一年」は、プロフェッショナルな音楽家にとっては、キャンセルと大きな落胆以外、何もありませんでした。私はフリーランスの作曲家として、この状況を共にし

          ユハ・T・コスキネン:自身の音楽について―そしてその向こう側へ

          シベリウス:《樹の組曲》に見る楽譜の歴史―初版からシベリウス全集版まで―

          はじめに  ジャン・シベリウスの《樹の組曲》というピアノ曲をご存知でしょうか?5曲からなる作品で、その全てにひとつひとつ、樹木の名前が添えられています。中でも第5番〈樅の木〉は日本でもプロ・アマ問わず広く演奏される作品で、お弾きになったことがある方も多いのではないでしょうか?短いながらとてもドラマチックな音楽ですよね。7つある交響曲や交響詩《フィンランディア》で有名なシベリウスですが、ピアノ弾きにとってのシベリウスはこの〈樅の木〉の作曲家と思っている方も少なくないはず。日本

          シベリウス:《樹の組曲》に見る楽譜の歴史―初版からシベリウス全集版まで―

          イルマリ・ハンニカイネン―『フィンランドの伝記辞典』(2011)から邦訳

          イルマリ・ハンニカイネンはシベリウス音楽院設立当時からのピアノ教授であり、フィンランドにおける重要な世代を担う音楽家たちを育てました。ハンニカイネンの作品に見られる強い感情的な要素は、彼をフィンランドの最も重要な作曲家のひとりたらしめています。彼はフィンランドのピアノ音楽を印象主義的な色彩感で一新してゆきました。  イルマリ・ハンニカイネンは1892年にユヴァスキュラで生まれました。彼はペッカ・ユハニ・ハンニカイネンと声楽教師であったアッリ・ハンニカイネンの三人目の子供でし

          イルマリ・ハンニカイネン―『フィンランドの伝記辞典』(2011)から邦訳

          セリム・パルムグレン―『フィンランドの伝記辞典』(2011)から邦訳

           セリム・パルムグレンはフィンランドのピアノ音楽を確立した人物であり、ピアノ協奏曲を作曲したフィンランドで最初の作曲家である。彼は想像力溢れる芸術家でありながら優れた解釈も持っており、また自身の作品の解釈者としても国際的な名声を集めていた。1930年代と1940年代においてパルムグレンはフィンランドの音楽界の中で非常に影響力のある存在となっており、シベリウス音楽院の初代作曲科の教授を勤めていた。  セリム・パルムグレンはポリで生まれ、裕福な中流階級に育った。とりわけ彼の母、

          セリム・パルムグレン―『フィンランドの伝記辞典』(2011)から邦訳

          ウーノ・クラミとピアノ協奏曲第2番

          本稿は2017年2月26日に東京・第一生命ホールで開催された、アンサンブル・フラン創立40周年記念演奏会のプログラムに載せて頂きました。フィンランドの作曲家ウーノ・クラミのピアノ協奏曲第2番(ソリスト:秋場敬浩氏、指揮:新田ユリ氏) についての文章です。 はじめに  ウーノ・クラミ(1900-1961)はフィンランドの代表的作曲家のひとりである。日本ではほとんどその名を聞くことはないが、その生前から確固たる高い地位と一般聴衆の人気を誇る、偉大な作曲家なのである。1953年

          ウーノ・クラミとピアノ協奏曲第2番

          フィンランド音楽小史―作曲家を中心にめぐって―

           これはフィンランドが独立100周年となった2017年に、9月24日と11月4日に計3回に渡って開催された「FINLAND 100 MUSIC HISTORY」というイベントの際にプログラムに掲載された、フィンランドのコンパクトな音楽史です。本掲載にあたり、各ページへのリンク、動画の埋め込みなども追加で行いました。10,000字に近い文字数のため、web上でどれだけの方が読んで下さるかわからないけれど、この文章を通じて一人でも多くの方がフィンランド音楽に対する造詣を深めてくれ

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          フィンランド音楽小史―作曲家を中心にめぐって―

          自己紹介と私のnoteの使いかた

           はじめまして。ピアニストの小川至(おがわいたる)です。演奏のかたわら、自分のライフワークである北欧音楽(主にフィンランド)について、文章を書いたり翻訳したりしています。これらの文章はこれまで様々な媒体に掲載して頂いたものもあれば、研究のためだけに使用され、そのままお蔵入りしてしまっているものもあります。ここではそうしたものの公開の場として行ければと思っています。どうぞよろしくお願い致します。  筆者のプロフィールなどは現在準備中のHPに掲載予定(一日でも早く!)!  動

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