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ドコで開放してんだ #キナリ杯

私達は、南の島にいた。
ビーチには、開放的な観光客が溢れていた。
中でも目を引くのは、ペラペラのビキニや、ノーブラにワンピの眩しい女性達だ。

私だって放たれたい。
楽園に降り注ぐこの太陽の下で。

しかし、そうはいかなかった。
あんなペラッペラの布1枚に支えられる代物ではないのだ、私のこの乳は。
あんな布には、きっと荷が重いだろう。
乳の重量? いや、むしろ逆だ。
むしろこんなに少量のくせに、ちゃんと収まれないほどの崩れっぷりなのだ。
ビキニは自信を無くすだろう。
ノーブラなんて以ての外だ。
ワンピも自信を無くすだろう。

昼間はパッキパキの補正下着に、夜は下垂防止ナイトブラに閉じ込められ、旅行中このお二人が日の光を浴びることは無かった。

でもこれは、仕方のないことなのだ。
一人目に三年以上吸われ続けてごらんなさい。
『えっ、あなたそれは長過ぎよ、断乳の為にコレでも貼って帰りなさい』と産婦人科で言われ、乳首にアンパンマンの絆創膏を貼らされるも、速攻でベリッと剥がされ通常通り吸われてごらんなさい。

やっと一人目が断乳し落ち着いた所で、二人目も完全母乳で昼夜問わず吸われてごらんなさい。
ほら見てごらんなさい。
搾り取られたこのお二人は、カクンと憔悴仕切っている。

『妊娠線も、垂れた胸も、セルライトも大歓迎。自信を持つことが一番よ。』
いつかのこのハリウッド女優の言葉に、私は感銘を受けた。希望が持てると思った。
しかしあれは勘違いだった。私が女優なら秒で豊胸してる。

この疲れ果てたお二人を目の前にして、どう自信を持てと。
私は隠すことにした。ひたすら隠していくことにした。それが開放的な南の島だろうと。

         ∇∇∇

14日間のバケーションが終わりを迎える。
私達は、南の楽園に別れを告げ、たくさんのお土産や思い出と共に機内に乗り込んだ。
『楽しかったね。』『また来ようね。』

家族の座席は、2つに別れてしまった。フライト予約がギリギリだったため、席がもう空いてなかったのだ。
通路を挟んで斜め前の夫の席で次男はあやされていたが、しばらくするとグズり出した。
私もグズりたいほど疲労困ぱいだったが仕方がない、夫の手に負えなくなったので私が引き継いだ。
なかなか収まらずフェンフェン泣くので、授乳ケープにコロンと入れる。
徐々に泣き止み、次男はどうやら寝たようだった。
私の記憶もここで切れた。
疲れ果て、深い眠りに入っていった。

        ∇∇∇

ボンッボンッとド突かれて起こされた。
体はダルいし、目がちゃんと開かない。
ネックピローで叩いてきた夫を鋭利な目つきで睨んだ。
『何よもう。ド突かないでよ。』
通路の向こうから夫が険しい顔で口をパクパクさせている。
『何なのよ。ハッキリ言いなさいよ。』
それでも彼は更に険しい顔でパクパクし続けた。
遂にしびれを切らした彼はネックピローをバサッと置くと、尖らせた人差し指で二回ズンズンッと指差して来た。

……私の胸付近を。

下を見て驚愕。
そこにはなんと、露わになったお二人の姿。
吸い付いていた次男も剥がれ、覆ってたケープも剥がれ、お二人はカクンと頭を垂れていた。
座席は通路側、トイレ付近、人通り多。
きっと何人もの目に晒されたんだろう。
私が爆睡している間、『あ…すみません…こんなお見苦しいものを…』と頭を垂れ続けるお二人が想像できた。
南の島で開放せずにドコで開放してんだ。

        ∇∇∇

機内という空の上の密室で起きた事件。

逃げ場の無い中、冷ややかな視線に耐え続けたお二人に謝りたい。
隠し通すとか言っといて、荒波にリリースしてごめん。
そんな予定じゃなかったのに、そんな姿にしてごめん。
何のお手入れもせずに放置してごめん。
手遅れになった姿に悲鳴を上げて、補正下着に詰め込んでごめん。
ハリウッド女優だったらこんな胸、秒で豊胸してるわとか言ってごめん。

後に、あのハリウッド女優はトレーニングを開始し、パーフェクトボディに返り咲いたとネットで読んだ。
たるんでてもオッケー説はどこへ。
置き去りにされた感は強いが、結局、自分の体は自分で一生かわいがってあげなきゃいけないらしい。

一日でも早く、お二人が恥ずかしさと辱しさから浮かばれるよう、もう少し私もあがいてみます。

ぇえ…! 最後まで読んでくれたんですか! あれまぁ! ありがとうございます!