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ロボットのいる空間

近年、「非接触」の時代背景から高機能な接客ロボットは街中で当たり前の存在になり、一方、家庭ではお掃除ロボットやペットロボットが日常に溶け込んでいます。AIはロボット進化の原動力で、生成AIが着目されている今、ロボットの高機能化・高性能化への期待も著しく高まっています。
しかしAIに代表される高度な技術を持たなくとも、存在が人と社会の相互作用を深め、コミュニケーションを推進するロボットもあります。最近出会ったそうしたタイプのロボットを紹介します。

■弱いロボット
昨年、日本科学未来館のイベント「きみとロボット ニンゲンッテ、ナンダ?」が開催されました。(※すでに会期は終了)
https://www.miraikan.jst.go.jp/exhibitions/spexhibition/kimirobo.html

一堂に会した130体のロボットの歴史と先進技術に興味津々で臨んだ結果、実は最大のインパクトを受けたのは「弱いロボット」でした。

「弱いロボット」は、豊橋技術科学大学の岡田美智男教授により提唱されました。ゴミを見つけるが捨てられない、ティッシュ配りができずモジモジする、個体が寄り添い小声でささやく、など本来ロボットに期待される合理性や効率からはかけ離れた挙動をします。上手に飼い主に安らぎや愛着を与えるペットロボットとも異質です。
しかし弱いロボットは、周囲の人々を手助けへと向かわせ、和やかな空気やコミュニケーションを生みます。善意や共感など人の心理の根幹に働きかけ、感情を豊かにし、人が人に対するような行動を起こさせます。
https://www.recruit.co.jp/blog/guesttalk/20200325_429.html

■分身としてのロボット
また、先日、分身ロボットカフェ『DAWN ver.β』を訪れました。
https://dawn2021.orylab.com/
このカフェは、身体の不自由や病気、家庭の事情などの要因で住む場所からの移動が困難な人々の「移動の制約を克服する」という、ダイバーシティ実現の社会実験が常設店舗となったものです。メディア記事でご存知の方も多いでしょう。

国内外の各地から「パイロット」と呼ばれる働き手が"OriHime"という小型の分身(アバター)ロボットを操作してカフェでの案内、接客、システム説明に従事します。この分身はシンプルな風貌と首や両手の動き、音声・映像機能が特徴です。
カフェの配膳ロボットも、パイロットが遠隔操作します。
どちらもAI非搭載で、人間の分身として移動を代行し、コミュニケーションを支援します。

最初は「自分の感受性でリモート会議との違いが分かるか?」と懸念しましたが、会話を続けるとOriHimeがパイロット自身にしか見えなくなり(そうなるお客様は多いようです)、視線を合わせ話が弾みました。ディスプレイ上の人物動画でなく眼の前で話す物理的な実体に、人の体温を感じるのかもしれません。
一方で、パイロット側も、分身であるOriHimeを通じ自身がカフェの中にいる感覚を持つそうです。分身のカメラを操作し自在に周囲を見渡せるためでは、とのことでした。その没入感の高さと、話し相手と分身の心理的一体感も伴い、パイロットが分身のいる場所へと運ばれるのでは、と考えました。

このカフェでは、今後も新たな実験的取り組みが続けられるそうです。

■ロボットのいる空間に漂うもの
分身ロボットはダイバーシティ実現といった目的を持ち、弱いロボットはいわば「無用の用」ですが、どちらもAIには頼らず、人のあり方を変えています。

こうした気になるロボットたちは、活躍の場を世界のどこに広げ、人々の生き方を変えていくのでしょうか。人間は、ロボットと生きる未来に失われてはならないものを捉えているでしょうか。そんなことも考えさせられます。

利便性や効率など最終的な便益だけではなく、ロボットのいる空間そのものも観察してみてください。そこに漂う感情やコミュニケーションにフォーカスすると、新しい発見が生まれるかもしれません。

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利便性や効率だけでなく、人の感覚や気持ちに寄り添うモノやサービスの実現はより重要になっていくでしょう。私たちITIDも、人の欲求起点で未来の価値を構想するお手伝いをしています。

シニアマネージャー 新井 ゆかり