京王井の頭線の話。


井の頭線沿いに、長いこと住んでいる。
初めは三鷹台。それから駒場東大前。池の上。それで今は下北沢。

井の頭線に乗って出かけると、気持ちがいい。線路と家並みの距離が近くて、穏やかな街の息遣いが聞こえてきそうな、のんびり感。

とくに秋から冬の、乾いた冷ややかな日差しの下で見る街の景色はいつも新鮮で、うつらうつら電車に揺られながら車窓を眺めていると、うっとりした気分になる。

下北沢を出た電車は明大前に向かうまで、間近に迫った家並みを縫うように進む。落書きのされた白い板塀、蔦の絡んだ小家、真っ赤に染まった鶏頭の生垣、ベランダに干されたくたびれた洗濯物。明大前駅で沢山の人が降り、沢山の人が乗ってくる。

それらを抜けて永福町あたりに差し掛かると、ぐっと東京の住宅街らしい、集合住宅の群が増える。開けた平地にアパートが並んで、コンクリートの外壁が午後の日差しをたっぷり浴びて輝いている。

久我山を抜けると辺りは井の頭公園一帯の穏やかな緑。初夏の季節はなんとも気分がいい。

そうして繁華街の古いテナントビルや、学習塾の看板が見えて来て、一度電車が調整のために速度を落とすと、そこはもう吉祥寺。電車はゆっくりと、駅ビルの2階のホームに滑り込んでいく。開いたドアから吐き出され、人の群れの一部になって改札をくぐって、階段を降りれば、駅ビルのお菓子屋さんの甘い匂い。
あ、吉祥寺。と思う。

渋谷と吉祥寺の間を結ぶ、程よく都会的で、程よくのんびりな路線です。井の頭線。
やっぱり乗ると落ち着くよ。

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