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恥ずかしい思い出

 若いころの思い出話は舌噛んで死にたくなるくらい、恥ずかしいものばかりだ。

 勤め先で、ボーナスが出たので、バイトに食事をおごるという話になった。
 せっかくなので、普段いけないような高級レストランに行こうということで、話がまとまり、調べて予約を入れた。
 たしか銀座のレストランだった。
 ロック好きで、話が合うバイトである。
 ちゃんと予算を計算した。コースの料金が○○で、飲み物が別料金の○○くらいで、追加オーダーしても、なんとかなるお金を財布に入れた。
 お金は問題ない。きっちりと支払える。

 当日、そのレストランに行った。
 私たちは、普段着で行った。そこには、つまらない自負もあった。高級レストランだって、普段着で行く。それがロックだ、と。ロックのスピリッツであり、ロックのアティチュードだ、と。要するに、視野が狭く、バカなのだ。TPOをわきまえない。
 だいたい私たちは、ロック・ミュージシャンではない。ただのファンだ。そこをうっかりすりかえて勘違いしている。
 周囲のテーブルでは、スーツを着たお客が日本経済や社会情勢を静かに語り、食事をしていた。おそらくすべてが日本経済や社会情勢話だったわけではないと思うのだが、場慣れしていない私は、みんながみんな、そんな話をしているように聞こえた。
 料理が出てくるあいだ、私たちは、レッド・ツェッペリンの話をしていた。

 ああ、恥ずかしい。

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