書評_中村

腰痛の本だし関係ないと思っていたら、どう生きるかの本だった 『人生を変える幸せの腰痛学校』(プレジデント社)

「どうしよう、私、腰、痛くないしな……」
人生を変える幸せの腰痛学校』という本があると知って、私は、その本を読もうかどうか迷っていた。

 私は、天狼院という書店のライティング・ゼミを、昨年の6月から受講し、文章の勉強をしている。そして、そこには、メディアグランプリという仕組みがある。

 ゼミで習ったある法則を用いて文章を書き、基準をクリアすると天狼院書店のHPに掲載してもらえる。そして、それらの記事のPVを書店スタッフや他の受講生たちと競うのだ。その結果、毎週ランキングが出るのだけれど、私は、1年をかけて、少しずつ、いい順位が取れるようになってきた。

 しかし、どう頑張っても、まだ、その1位を取ることができない。
筆力や面白さが足りないとか、タイトル決めが下手とか、様々な理由があるけれど、そのランキングが発表される度に、上位の方の記事を読ませていただくと、はーっとため息が出てしまう。

 うまいのだ! そして、面白いのだ!

そんな中、いつものようにメディアグランプリの発表を覗いて、ガツンとやられた。

 何だ、これ?

 その週に、1位を取った記事こそ「『思考は現実化する』を実験してみた」という記事だった。その記事を書かれた方の名前を拝見し「伊藤かよこ」さんの存在を、初めて知った。

 こんな面白い記事が書け、しかも、自分の体で実験しちゃう人ってどんな人なんだろう?

 密かに興味を持っていたら、私に天狼院書店を紹介してくれた友だちから
「伊藤かよこさんって知ってる? メディアグランプリで、今週1位取った人みたいなんだけど」
とメッセージが来た。
う……私は、まだ1位を取れていない……。
ひっそりと、傷つきながらも、その方の経歴を聞くと、本を出されている方だとわかった。また、鍼灸師、アドラー心理学など、たくさんの興味深い言葉が並び、私は、あんぐりと口を開けた。
「すごいね……」
そして、その本を読んでみたいと思った。

 しかし、問題があった。
その本は、腰痛の本だと言う。
今、腰の痛くない私には、関係のない本だろうか?
だけど、気になる……。
読んでみようか、どうか、迷っていた時、その本を絶賛する声と同時に、反対の意見もあると知った。
きっと、本気なんだ! 本気だからこそ、支持者とその反対の意見が存在するのだと感じた。
小説の形であると知って、ますます興味が湧いた。
それなら、腰が痛くない私でも楽しめそうだ!

 ページをめくるごとに、ストーリーに、どんどん惹き込まれていった。
6人の“腰痛難民”が、とある整形外科医のクリニックで、『慢性腰痛改善プログラム』を受けるのだけど、その登場人物が、様々なタイプの老若男女なので、読者は、その誰かに感情移入して、このプログラムを疑似体験できるつくりになっている。
私は、物語の中盤で、子どものいる38歳の主婦に共感した。また、終盤では、58歳の女性と一緒に使命に燃え、感動さえしてしまった。

 え? 腰の話でしょ? 腰も痛くないくせに、何、感情移入しているのよ!
そんな風に思われただろうか?
しかし、実際に読んでみると、これは、もちろん、腰痛の話ではあるけれど、それと同時に、どう生きるか? という本なのだと感じた。

 この本の冒頭で、著者は「①痛みの原因とメカニズムを正しく理解すること」と、「②適度に身体を動かすこと」が、世界の最先端の治療現場で行われているたった二つのことだと言っている。
そして、物語を読み進めると、それらは、「認知行動療法」と「運動」という言葉に置き換えられる。
「認知行動療法」とは、腰や腰痛に関する不適切な考え方や行動を変えるという方法だということだ。

 また、痛みの原因というのは、脳の暴走であり、だからこそ、痛みに集中しないこと、腰を治したいと思わないことが大切なんだと続く……。
それから、自分自身を無力ではないと信じることや、今までやったことがないこと、具体的には、この本に載っていることを信じて、まずはやってみることが必要と書いてある。

 私は、なるほど、なるほど、と読み進み、時々、登場人物と一緒に、怪訝な顔をしてみたり、また納得されられたりしながら、なぜか、生きる力が湧いてきた。

 この小説を読み終わって、著者の伊藤かよこさんは、腰痛や他の痛みに苦しんでいる人を本当に救いたいんだと、感じた。知識やメッセージを、どうしたらたくさんのそれを必要としている人に伝えられるだろうか? と、たくさん考えて、この小説という形にしたんだろうなということが、わかった。
なぜなら、多くの人は、楽しく学びたいと思っているはずだから。
読みやすい文章であり、惹きこまれるストーリーだから、スーッと、頭と心に入って来やすいんだと感じた。

 それに、この本のある魅力に気がついた。
登場人物の話す言葉の中に、たくさんの、胸にググッと迫ってくる名言が隠されているのだ。
私の心に響いた言葉を、ここに書き記したいところだけれど、きっと、それらの言葉は、ストーリーの流れ中で味わった方が、ずっといいと思うのでやめておく。
 
 もうひとつ、この本のすごいところは、フィクションという形を借りながら、真実がたくさん書かれているということだ。
実際に、著者の伊藤かよこさん自身が、長年、腰痛に悩まされていて、入退院を繰り返すほどだったそうで、その時の、この治療方法に対する不信感や戸惑いも書かれている。
だから、もし、この本に懐疑的な人も、まずは、読んで試してみられることをお勧めしたい。

 ここまで書いて、私は、腰こそ痛くなったことはないけれど、長年、ある不調に悩まされていたことを思い出した。
それは、慢性蕁麻疹だ。
5年ほど前に、発症してから、今から、1年前まで、ずっとアレルギーの薬を飲んでいた。
このまま、ずっと薬を飲み続けるのだろうか? と、ため息をつきながら、朝晩かかさず飲んでいたのだけれど、なぜか、1年位前から、薬を飲むことをよく忘れるようになった。
時々、痒くなって、慌てて飲んでということを繰り返して、毎月行っていた皮膚科に4か月後に、薬がきれたので行ったのだ。
主治医に怒られるんじゃないかとびくびくしてしながら、診察室に入ると
「薬を飲むことを忘れるくらいよくなったということじゃない。よかったわね」
と、笑顔で、主治医に言われたのだ。

 私は、拍子抜けするのと同時に、ホッとしたことを覚えている。
今となっては、なぜ、薬を飲むことを、忘れがちになったのか、全く覚えていないけれど、蕁麻疹のことを考えることよりも、私にとって気がかりな何かしらができたのだろう。
そして、結果的に、「薬を飲まなくても、大丈夫であること」と、「もし、薬を飲み忘れて赤くなったり痒くなったりしても、また薬を飲めばよくなるということ」を、私自身や脳が認識してリラックスできたから、だんだんと改善してきたのだと感じた。
腰痛ではないけれど、「認知行動療法」については、なんとなくわかった気がする。

 腰の痛い人はもちろん、自分自身がそうでなくても腰を痛がっている大切な人がいる人、また、人生を変えてみたいと思っている人や、単純に、面白い小説が読みたい人にも、この本をお勧めする!

 私自身、この本に出会って、本当によかったと思う。
なぜなら、もし、この先、腰痛になったとして、緊急の処置を必要とする重篤な疾患や、内臓疾患や感染症のサインではないとわかった場合は、落ち着いて行動できそうな気がするからだ。
また、腰痛で苦しんでいる人が、このままずっと治らないのだろうかと、私の周りで、もしも落ち込んでいたとしたら、この本の存在をお知らせできることを、嬉しく思う。
 そして、私も、伊藤かよこさんのように、自分が書く文章で、人を幸せにするお手伝いが、できたらいいなと、改めて思う。

この記事は、ライティング仲間の中村美香さんが書いてくださいました。
私が美香さんの文章のファンで、「腰痛学校」の感想を書いてくれませんか? とお願いしたところ、こんなに素敵な文章に仕上げてくださいました。
美香さん、ありがとうございました!!


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