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翻訳古典小説無料版

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2017年7月の記事一覧

The Lost King~失われし王ルイ=シャルル第一部(10)レマン湖

Ⅹ. レマン湖 黄色の大型四輪馬車は大過なくヴォランに到着し、其処で馬を交換した上で、また旅を続けた。更に5マイルを行った処で、ラサールが行動を起こすに至った推論を充分以上に裏付けるかのように、竜騎兵隊と三名の文民がやって来た。彼らの姿を目にしたラサールは、騎乗御者に指示を与える為に窓から身を乗り出した。 「不審尋問された時にはだ、いいかい、君が知っているのは、これだけだ。君はディジョンから来た。これは事実。そして出発からここまで、客は俺しか乗せていない。君が金を手に入れて

The Lost King~失われし王ルイ=シャルル第一部(9)追跡

Ⅸ. 追跡 ド・バッツの決断が下されたのが、極めて差し迫った時点であったのは明白である。  政府の要員中、少年の逃亡を知らされていた者がどれだけいたのかは正確にはわからないが、少なくともバラスとフーシェは事態を把握し、後者が極めて困難な捜索を行なっていたのは確かである。ド・バッツの読み通り、公共の安全【註1】という名目の下に放たれた密偵たちが、捜索対象である少年の正体を告げられていたとは考え難い。恐らく彼らは、偽のルイ十七世を擁立する王党派の陰謀があると説明され、黄色い髪と

The Lost King~失われし王ルイ=シャルル第一部(8)絵筆に別れを

Ⅷ. 絵筆に別れを ラサールは、彼自身に責任を帰すべき現在の状況に不安を感じてはおらず、彼が何らかの保身策を講じたり、それまでの生活様式を変更したような形跡は見られなかった。  自らの愚行によって立場の危うくなったショーメットは、沈黙を破って己の首を危険にさらすような挙には出ず、それどころか保身の為に、シモンの私欲のお陰で失敗したと思い込まされたぺてんを取り繕い続けるはめに陥っていた。ラサールによって容赦なく騙されたシモンは、実行に移せばあの画家もろともに自分自身もギロチン

The Lost King~失われし王ルイ=シャルル第一部(7)誘拐犯たち

Ⅶ. 誘拐犯たち シモン夫妻に新居としてあてがわれたのは、タンプル門からは目と鼻の先、元はテンプル騎士団の馬屋であった粗末な小屋の、その二階にある三部屋から成る貸間だった。手押し車を転がしながらのラサールの道行きも、当然の事ながら短いものであった。  母性的なマリー=ジャンヌは、薬物を飲まされた上に窒息しかねぬ扱いを受けた子供の身を案じ、我が目で安全の確認をしたいと切望して、シモンの強硬な反対にあった。彼女の方もまた、容易に屈服はしなかった。タンプル塔で不測の事態が発生して