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翻訳古典小説無料版

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#スカラムーシュ

『スカラムーシュ』英国オリジナル版 第Ⅲ部 第ⅳ章 幕間狂言

はじめに今年は英国で "Scaramouche" が刊行されてから丁度100年ということで、日本で翻訳刊行されたバージョンからはカットされている章、オリジナル版では第Ⅲ部第3章「議長ル・シャプリエ」と第4章「ムードンにて」の間にはさまっていた CHAPTER IV. INTERLUDE をざっと訳してみました。 オリジナル英国版についてはこちら↓ 第Ⅰ部 第1章の未訳部分についてはこちら↓ 第Ⅲ部 剣  第ⅳ章 幕間狂言 数日後、ル・シャプリエがアンドレ=ルイの許に返礼

『スカラムーシュ』英国オリジナル版第Ⅰ部第ⅰ章 共和主義者 冒頭

はじめにラファエル・サバチニの代表作『スカラムーシュ』は英国で刊行されたオリジナル版とアメリカで刊行された短縮版の2バージョンが存在したのですが、流通量的には圧倒的に米国版が多く、現在では英国内で新たに刊行される際は米国版を底本としている模様。 海外で翻訳される場合の底本もほとんどが米国版で、日本で現在手に入る大久保康雄 訳と、加島祥造 訳はどちらも米国版が元になっており、恐らくこれまで英国オリジナル版が翻訳された事はないのではと思われます。 五年ほど前にこの件を知り、続

The Lost King~失われし王ルイ=シャルル第一部(3)市民ジョゼフ・フーシェ

Ⅲ. 市民ジョゼフ・フーシェ ド・バッツとラサールの共謀の結果として、革命暦第Ⅱ年雪月初旬――キリスト紀元でいえば、1793年12月の終わり近く――のある日、この美術学生は、サントノーレ通りの薄汚い建物の四階まで階段を登る事となった。愛想は良いがやつれた面持ちの若い女性がノックに応えてドアを開けると、彼は市民議員ジョゼフ・フーシェ【註1】は御在宅でしょうかと尋ねた。  予定された作戦の足がかりとなる人物として、ド・バッツはショーメットに狙いを定める事に決めたのだが、丁度、そ

The Lost King~失われし王ルイ=シャルル第一部(2)男爵ジャン・ド・バッツ

Ⅱ. 男爵ジャン・ド・バッツ 十月同日の夜、アルマンチュー男爵ジャン・ド・バッツは、ショワズール公爵邸 【註1】の裏、メナール通り某所にある、豪奢だが落ち着いた部屋で書きものにいそしんでいた。彼はカーテンを引いて蝋燭の明かりで作業しており、室内では暖炉に赤々と火が燃え盛り、丸太に混じった松毬の発する芳香が漂っていた。  この驚嘆すべき人物、当時のヨーロッパにおいて、最も果敢に王党派を利する為の活動をしていた男は、秘密工作員としては類を見ぬ豪胆を備えていた。彼はまるで、危険に

The Lost King~失われし王ルイ=シャルル 第一部(1)ルイ十七世陛下

Ⅰ. ルイ十七世陛下 コミューン【註1】の代理官アナクサゴラス・ショーメット【註2】は、自分に任せれば国王をひとりの人間に作り変えて見せると自信満々に断言していた。  長椅子に座って短い脚をぶらぶらさせながら、時に支離滅裂になりつつも、下賎な表現を用いて雄弁に陳述している亜麻色の髪をした器量良しな八歳の少年。市民ショーメットは、己の崇高なる錬金術の成果をじっくりと眺めた。それは彼の心からの信念を裏付けるものだった。すなわち、例え王族のように堕落した救いようのない素材であろう