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おとぼけビ~バ~『SUPER CHAMPON』は、ひとりきりのわたしがあなたとたまたま出会って、ためになるようなならないような話をして、しばらくして別れてまたひとりきりになった、その一連の時間にちょっとだけあるきらめき(を歌にしてJASRAC)

奇天烈漫才師・コウテイの出囃子を彷彿とさせるベースラインに導かれ、「わたし産むとしたら犬」「孫の顔見せて 見せてから戻す」というパワーワードへと展開していく「アイドンビリーブマイ母性」から、おとぼけビ~バ~のニューアルバム『SUPER CHAMPON』は幕を開ける。油断も隙もありゃしない、18曲21分。制作期間はコロナ禍を含めても2年以上、幾度となくスクラップ&ビルドを繰り返しながらも、決して間延びさせたり、薄く引き伸ばしたりすることだけは断固拒否した上で生まれた傑作だ。

バンドの監督・あっこりんりんが日々を過ごす中で感じたけったいな常識、風習、同調圧力などから生まれたシリアスでヘビィな心情を、持ち前の諧謔精神を活かしてしなやかにさらけ出していく不敵な歌詞。そんな歌詞を乗せながらも、先の見えない変拍子にストップ&ゴーが随所に盛り込まれたテクニカルな構成、おいでやす小田も感心するであろうやかましいギター、ロック・オペラ風であったり、近所の井戸端会議風だったりするコーラスの組み合わせによってスピーディーに、かつ人懐っこい表情を浮かべて駆け抜けていく強烈なパンク・サウンド。関西ゼロ世代前後の肌触りを知る者として名前を挙げるならば、THE FUTURES『分裂音塊』、ZUINOSIN 『蕊』に似た凄み、がある。

ハードコアとユーモアが歌詞とサウンドの両面から、そしてあっこりんりんのトリッキーで愛嬌のあるボーカルと、よよよしえ、ひろちゃん、かほキッスによる鉄壁の演奏から、不規則な規則性をもってメッタメタにチャンポンされていく、この歪な快感。その場でのスパークを大切にするライブとは異なる方法論で制作された音源ならではと言える、各楽器の音の鳴らし方や重ね方にこだわり抜かれたミックスも功を奏し、非常に中毒性の高い作品となっている。

曲は短いがタイトルは長いものも多い。だが、曲に込められた主旨が的確に表現されている。「サラダ取り分けませんことよ」「穴兄弟で鍋パーティー」「ヤリチン武勇伝ちゃう口を慎め」「一級品の間男」など、日常会話なら喋る相手を選ぶ内容を見事に音楽へと昇華しているのも特徴だ。

『SUPER CHAMPON』楽曲リスト
01. アイドンビリーブマイ母性
02. ヤキトリ
03. サラダ取り分けませんことよ
04. パードゥン?
05. 穴兄弟で鍋パーティー
06. リーブミーアローンやっぱさっきのなしでステイウィズミ
07. 携帯みてしまいました
08. あなたとの恋、歌にしてJASRAC
09. 呼ばんといて喪女
10. あらあんたえらいええ時計してそれどこで買いはったん
11. ジョージ&ジャニス
12. 一級品の間男
13. ヤリチン武勇伝ちゃう口を慎め
14. 孤独死こわい
15. ジジイ is waiting for my reaction
16. DM送ってやろうか
17. DM送ってやろうか Part2
18. レッツショッピングアフターショー

なかでも、男性音楽マニア(かぶれ)からのマウンティング行為に着想を得た「ジジイ is waiting for my reaction」、ポップさとシャープさが新たなステージを予感させた「PARDON?」、そしてコロナ禍での追い詰められた状況をあっこりんりんがリアルに綴った「孤独死こわい」は、現在のおとビ~の演奏力と状況が真摯に伝わる楽曲と言えるだろう。この3曲は「母性」と共にMVも制作されており、リード曲ともなっている。


女性4人が集まって演奏して、その立場から歌詞を書いているだけで、ガールズライオットだとか、ウーマン・パワーだとかいったラベリングをされてしまうことに対し「遠慮しときます」とかわしながら、この音を聴いている老若男女に別け隔てなく想いの丈をぶつけ、共感されたり、賛同をもらったり、嫌がられたり、ビビられたりする「あなた」と「わたし」の純度100%のカンバセーション装置、およびおとビ~側からの秘密の共有として『SUPER CHAMPON』は成立している。取り扱っている事象が極端であるから、聴く者がどのような人生を歩んできたかで、聴かれ方には相当なグラデーションがあることだろう。例えば、野性爆弾のオチで言うところの「宇宙ーッッ(キーボード音と共に)」のように。ある人にとっては切実で壮大かもしれないし、別の誰かにとってはちっぽけで取るに足らない虚無であるかもしれない。

だが、あっこりんりんとメンバーたちはめげない。ストリーミング・サービスやCDを通してこのサウンドを聴いているアナタにだけ伝えたいものがあり、すべてありのままを伝えようとして懸命に歌い、叫び、ささやく。その姿は尊く、何よりも人間らしい。だから惹かれてしまう。

あまりつらつら書いても、それは21分のアルバムには勝てない。そしてあっこりんりんにもこう言われるであろう。

「あらあんたえらいええ時計してそれどこで買いはったん」

――そろそろ発車の時刻が来たようです!(ユリQ)




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