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僕の気になる彼女は【短編小説】2000文字

高校生になったら彼女ができるだろうか。
入学前まで考えていたのは、勉強についていけるだろうか、友達できるだろうか、部活どうしようか、ではなく。
ドラマもマンガも音楽も、ニュースにだって。男と女の恋愛が軸になってること、結構あるじゃないか。
だからそう考えてしまう。別に変なことじゃないだろ?

「アツシ、今日は雨が強いからバスにしなさい。」
自転車よりバスでの通学が多くなる6月。
濡れた傘で車内の湿度が上がっている。僕が乗るバス停からは座れない。
立っている人がいるんだから、せめて傘を閉じてくれ。
濡れた傘を触ってくるくる巻くのは嫌だろうが、制服のズボンにあたるんだよ。
そう、そこの女子みたいにちゃんとくるくると巻いて、手で持って。
こんな些細なことがきっかけで彼女が気になるようになってしまった。
同じ学校。今はここまでしか知らない。

「イズミくんって彼女いるの?って聞かれるんだけど、マジなんなん。」
同じサッカー部の木村がまた言ってる。
「お前の雰囲気?なんか他校とか、年上とかの彼女いそうな。」
同じサッカー部の林がまた言ってる。
今は3年生が引退後の新チームに1年でレギュラーに入ることが優先。
だったのに。
学校からの帰りのバス。いつものように木村や林と一番後ろの席に座ってたら、目にとまってしまった。
お腹の大きな女の人にさっと席を譲った彼女。
どうぞ、とか言って譲ったのかはわからない。声は聞こえなかった。
女の人が頭を下げてお礼をして、彼女は少し頷いたように見えた。
それから帰りのバスで彼女を探してしまう。
同じ学校。木村に聞いたら終点の駅まで乗ってるらしい。
「今度さ、彼女いるかって聞かれたら、好きなやついるっぽいって言っていいか?」
否定はできなかった。
「声かけてみろよ。お前ならいけるんじゃね?」
何がいけるのか。ただ、気になるだけなんだ。

「うちら帰りにカラオケ行くんだけど、タクミたちも一緒にいこー。」
部活に入っていない同士の男女グループ。
俺ら4人と佐藤たち4人で入学してから週1,2は一緒に遊んでいる。
最初はこの中でデキたりしねーかな、と思ったけど。
「そうそう、あたしの友達の友達が、タクミのこといい子だねって。」
は?いい子って。
「あたしも聞いた話だからよくわかんないんだけど、言ってた。ほら、カラオケいこー。」
おい、お前興味なさすぎじゃん。
なんとか聞いた話によると、誰かもわからないその子が、俺が用務員のおっちゃんを手伝ってハシゴを運んでいるのを見たらしい。
たまたま近くにいたから頼まれて1回手伝ってやっただけなのに。
いい子って言ってくれたその子に申し訳ない。
って、誰だよ?
同じ学校。友達と体育が一緒の1組か2組らしい。
誰か聞いてくれって頼むべき?

今日は彼女の隣に立った。
相変わらずの雨は今日もバスの窓を叩く。
湿度を下げようと冷房が効いている。彼女は肩をさすってる。
彼女の上にある冷房の風向を変えたら、彼女が僕の方を見た。
「ありがとう。」
小さな声。僕には出ない高い声。
今日は学校まで一緒に歩いてもいいだろうか。

自主練をしてたら木村も林も帰っていた。
そういや、先に帰るぞって言ってたような。
あいつらがいないとバスの一番後ろの席は座り辛くて、彼女がよく座る席の近くに座ってみた。
期待してしまう。

友達に聞いてもらったら、その子は1組だった。
「え?気になるの?呼んでこようか?」
そうなるよな。いい!いい!って言って自分のクラスに戻った。
呼んでもらってどうする?お礼でも言うのか?いい子って言ってくれてありがとうって。

いいな、と思うところが見つかって、気になって。
いいな、と思うところが増えていって、大切になって。
いいな、と思うところを独り占めしたいと思ったら、それは彼女にしたいということなのか?
でも、自分の彼女になるってことは合意を得る必要があるということで。
高校生になったらって考えていた自分が幼かったことに気づく。
そういえば、ドラマもマンガも音楽も、ほとんどは高校生を経験した大人が作ってるんだよな。
ニュースに出てくるのも大人だ。

彼女はバスの前に電車にも乗っているらしい。
「ちょっと遠いんだけど、学校見学で気に入っちゃって。学校近いの羨ましいな。」
バス停から学校までがいつもより短く感じるほどだった。
また、と言って別れたのは1組の下駄箱前。
今度は名前を聞こう。

彼女と目があった。
「今日は一人なんだね。」
いつも一緒にいる木村と林はうるさいもんな。
期待はしていたんだけど、いつもより遅いバスに乗ってきたから聞いてみた。
「部活に外部コーチが来る日は遅くなっちゃうの。うちのバド部。」
今日は理由をつけて終点まで行ってみようか。

放課後、用務員のおっちゃんがまたハシゴを運んでいた。
危なっかしくてまた手伝ってやった。
別にいい子って言われたからじゃないから!
第2体育館までって結構遠くて後悔したけど、久しぶりにスマッシュの音を聞いて感傷に浸ってしまった。
「またハシゴ運んでるんだね。」



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