雑文集

・なぜ日本ではこんなに夏目漱石の小説がもてはやされるのだろうか。もちろん漱石の小説が面白いことはみとめるが、ちょっと不思議に思うのだ。主に漱石が朝日新聞で作品を連載していた、というところが関係しているのではないか、となんとなく思っている。


・谷崎潤一郎が大学に通っていたころ、時々講師か何かをつとめていた漱石を見かけることがあったそうだ。彼の何かのエッセイ(青春時代か、あるいはもっと晩年になってからのもの)に書かれてあった。しかし言葉を交わすことはなかったそうだ。


・柄谷行人はマルクスの思想に非常にこだわったそうである。そしてこの柄谷が東浩紀の師匠というわけだ。

・坂口安吾は小林秀雄を批判した。小林秀雄の文章は「教祖の文学」だと批判したのだ。いわく小林秀雄は死者しか相手にしない。生きてる人間は怖いなどといって触れようともしない。遥か昔に作られた、苔の生えたようなものばかりを盾にして、その裏からこっそりと自分の見解を語るのは教祖の文学ではないかと、まあそんなような感じのことを言ったのだ。私は小林秀雄の文章は、楽しむことはできたが理解することはできなかったので安吾の言っていることが正しいのかどうかということはわからない。もっと研究をしなくてはいけない分野である。

・80年代はニューアカの時代だ。柄谷行人と浅田彰の時代だ。そしてそれはバブルの時代でもある。プラザ合意とルーブル合意、三公社民営化、中曽根長期政権、バブル経済、地上げの時代である…

・日本の歴史「大正編」で読んだ武者小路実篤のエピソードが忘れられない。実篤は俗悪な現世に絶望し、田舎に共産主義的な「桃源郷」を作った。そこは自給自足で生活を営む、外の世界からは隔絶されたコミュニティを作ろうという理想の下に建設された。この理想に共鳴した若者が実篤の下に集まってこの共同体が発足したというわけだ。さて、で実際に共同体が発足したわけであるが、若者たちは一生懸命に働く者たちとそうでない者たちにわかれてしまった。これはまあ当然のことかもしれない。人が集まればその中に怠け者が混じってくるというのはどうしても仕方のないことだからだ。さて、昼間一生懸命に働いた者たちはくたくたになってしまうので夜はやばやと床についてしまう。しかし昼間怠けた者たちは体力がありあまっているからなかなか眠らない。それで何をするかというと共同体の「長」たる実篤の下へ行き、話をするのである。これが毎日繰り返され、実篤はやがて2つのグループの内どちらか片方をあきらかに優遇するようになった。さて、どちらのグループが優遇されるようになったか?…これが昼間怠けて、夜に実篤と話をするグループの方が優遇されるようになってしまったのである…。「実篤は真面目に働く人々を馬鹿にして、ひどい奴だ」と言ってしまうことができるのなら話ははやい。しかし毎日毎日夜遅くまで一緒に夢を語り合った若者に情がうつらない人間が果たしてどれぐらいいるだろう?ほとんどの人間、特に日本人は、実篤のような状況におかれたらやはり実篤のように行動してしまうのではないだろうか?部活のコーチも、大学の教授も、企業の社長も、政治家まで、人間であるからにはそのように行動してしまうのではないだろうか?そしてそうであるがゆえに本当の意味での「平等」が現世に実現することは不可能なのではないか?私は今では「賄賂」だの「斡旋」だのという言葉を聞く度にこの実篤のエピソードを思い出し、暗い気分に落ち込むようになってしまった。

・小林秀雄は「何を問うべきか」と質問した学生に対し「君、そんな抽象的な質問はしてはいけない。何を問うべきか、ということだけは君が決めるんだ」とかなんとかそういう返答をしたらしい。しかし「何を問うべきか」ということがわからないからこそ人は人に質問するのではないだろうか?「何を問うべきか」ということがひとたびわかってしまえば人は勝手に成長していくものである。(なんか全然内容は違うかもしれない)

・マルクスの著作を未だにちゃんと読んだことがない。彼の著作が世界の思想に世界に非常に重要な影響を与えたということはわかっているのであるが、なかなか実行に踏み切ることができないのである。


・北一輝は実質的には社会主義者であり、そして戦後の日本国憲法はあたかも彼の提言を採用して作り上げたがごときものになっている…と言ったのは三島由紀夫である。

・プルースト、ジョイス、フォークナー。この辺が意識の流れを使って小説を書いた作家ということでいいのだろうか?人間の意識の内部も言語で満ちているという考えにどうしても私は同意することができない。私の内部には確かに言葉もある、しかしそれ以上に視覚イメージも、聴覚イメージも、触覚も味覚も嗅覚も処理しきれないほどにあふれているのである。

・谷崎はバルザック全集を読破したとのこと。となればセラフィータもおそらく読んだことがあるはずだ。このことは私にとって結構重要なことなのである。

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