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生まれ変わって

台風で眠れなかった夜、久しぶりに長い長い夢を見た。

その覚え書き。


「えりは今日アメリカに行ってもらう」高校生になっていた私は突然担任からこう告げられた。はじめの一瞬こそクエスチョンマークが頭に浮かんだが、すぐに殺されるんだと理解した。学校で一番優秀な人が餌食にされるのだろう。理由は分からないが偉い人との関係があるのだ。

もう母には会えないと思った。殺される前に会っておこうかとも思ったが、会ってしまえば余計つらくなると思い、いろいろな思い出の品と手紙だけ残して、友人に託すことにした。一人だけ先輩にも手紙を書いた。

こんなことになるなら優秀でいなければよかったと思った。勉強、運動もとの能力もあるかもしれないが、ある程度は努力もあり常に上位で居続けたが、それが仇になるとは思わなかった。

担任に詰めよった。「わたし、殺されるんですよね」担任は何もこたえない。さらに詰め寄ると、そうするしかなかった、しょうがなかった、というような趣旨のことを言った。どうやら毎年一人犠牲者が出ているらしい。やはり権力者には抗えないのか。

クラスメイトの前で担任に詰め寄っていると廊下に校長が現れ、いよいよ行かなければならないのだと悟る。教頭は私のそばに来て「どうしたの?」と謎の笑みをたたえながら尋ねる。「今から殺されるんです」というと、物分りのいい子だねと言われる。こんなところで物分りがよくてたまるか。

死ぬことの実感が沸かなかった。怖いという気持ちより、憤りが大きかった。何故わたしなのか。頑張ってきたのにそれがネックになるなんて不公平だ。涙が溢れ、クラスメイトにお礼を言い、母によろしくと伝える。校長に連れて行かれるところで記憶が途切れた。


気がつくと、また教室にいた。代わり映えしないクラスメイト。変わっているのは咳の配置とわたしの隣にいる生徒。仲良さげに話しかけてくる彼女は誰なのだろう。わたしは殺されたのでは無かったのか。どうしてまた教室にいるのだろう。

回ってきた名簿を見て理解した。えりという名はそこになく、代わりにレイという名前があった。きっと誰かの何かの力で私は殺されずに済み、しかし素性を隠すため名前を変えられたのだ。クラスメイトは何も知らない顔をして触れてこないがきっとわたしが知らない何かを知っている、と感じた。クラスラインのグループ名までも変更されていた。

トイレに行くと他の生徒が噂ばなしをしているのが聞こえた。わたしのことだ。「あの人があれの人らしいよ」「すごい元気ないね、活力がない」「今からまで戻ってきた人はみんなそうなるらしい。元気ある人が連れて行かれるんやって」なるほど。確かに鏡で見る私は以前より随分顔色が悪く、病人のようだ。

連れて行かれるのは優秀な人ではなく、何事にも全力で活気に溢れた人だったのかもしれない。だけれどまたそうなってしまったら「アメリカに連れて行かれて」しまう。わたしはこの青白く元気なさげな雰囲気のままこれからも生きていこうと誓った。

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