幻想交響曲
ベルリオーズの『幻想交響曲』のレコードを
きみにプレゼントしたくて
ふたりで
大阪南港へ行ったことがあった
全てから離れてしまったぼくは
きみとだけは幻を交換できると思った
きみはクリフ・リチャードも
ハーマンズ・ハーミッツも
ニール・セダカも知っていた
ぼくらは埠頭を歩いた
海からの風が
きみの髪を激しくなびかせ
かたちのいい額をあらわにした
交差点で信号を待っていた時
ぼくはきみにレコードを渡した
レコードを持ったきみと
アビーロードのように
横断歩道を渡った
それから
宿命の経路を辿るように
ずいぶん長い間
ぼくらは歩き続けた
きみはあの時のことを
まったく憶えていないと言う
『幻想交響曲』は
押し入れの奥で
レコード・ラックに収まっている
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