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ある部族長の肖像

なぜそこに自分がいたのか
全く憶えていない写真がある
高校の教室で
三人の同級生と一緒に写っている
こちらを見て薄笑いを浮かべている
私が高校生だった頃の顔をしている
この薄笑いを浮かべている私のような私は
今の私のような私なのだろうか

バンクーバーの公園に
トーテムポールが立っているとは
予想していなかった
先住民族の大きなテントの中を
案内してくれた
部族長のようなあの人に
一緒に写真を撮らせてくださいと
頼めばよかった

空白だらけの問診票に
生年月日と氏名を
ボールペンで書き足して
受付に提出した
名前が呼ばれるまで
長椅子に座って待ち続ける
気になって仕方がない
写真のなかで薄笑いを浮かべていた高校生は
今もどこかにいるのだろうか
問診票は
どの私のことを問いかけていたのだろう
何も答えなかった問診票で
診察して貰えるのだろうか

曲がった嘴をして
翼を拡げて
トーテムポールの頂上にいたのは
鷲だったか
妖怪だったか
また部族長のようなあの人に会ったら
今度こそ頼もう
写真を撮らせてくださいと


トーテムポール

 

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