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2021年5月の恋唄

走り幅跳の踏切板が
ネット通販で
21,890円で売っていた
白い踏切線がよく見えるように
踏切板を地面にはめ込む
跳ぶにはまず
踏切線まで走らなければならない
世界記録は
8メートル95センチ
あと5センチで9メートル
この世のありとあらゆる欺瞞と偽善を
粉砕するに十分な飛距離だ

窓を開けると
雀が飛んでいった
今が五月だということを
季節はほとんど忘れている
アクリル板の向こうにいる君に
話しかけると
声だけが透き通ってゆく
こころはこちらに残ったまま
感動や勇気を与えるとか
絆を取り戻すとか
贋金のような言葉を
転売するな

一番大切なことを忘れていてもいい
いつかまた想い出すまで
こころに渇きを
限界まで充填して
空に象嵌する
太陽と月と記憶の都市を

跳べ
踏切線まで走れるか

 (詩集『月のピラミッド』第5章「再生のための十篇」より)


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