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AmazonMusic、やっちまったな

11/1からアマプラ会員向けのAmazon Music Primeが刷新されて、「配信楽曲が1億曲以上に」という提灯記事がニュースサイトに並んだ。今はUnlimitedに加入してしまっているのでAmazonMusic Primeがどれくらい使いにくくなったのか検証出来てないのだが、この記事を読んで思わず天を仰いだ。

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2211/02/news145.html


シャッフル再生って罰ゲーム?


プレイリストの順番通り再生出来ないだけでなく、プレイリスト外の関係ない曲まで勝手に入れ込んで再生される模様。AmazonMusic、やっちまったな。君たちにそれは100年早い。


詳しくは↑で書いたが、上記3社の中でも最も、フィルタリングが自分勝手で稚拙なAmazonMusicが勝手にプレイリスト外の楽曲を入れ込んできたところで消費行動は活発化しないしむしろ余計な怒りを買うだけで、利用者離れを起こすのが関の山だ。能動的に選びたいユーザーに対してそれ以外の楽曲を推して、気に入ってもらうという行動がどれだけ難易度高いか、わかってないからあんな稚拙な関連アーティスト表示なんだろうけれども、まずはフィルタリングを内容ベースフィルタリングから協調ベースフィルタリングに変更し、リスナーの視聴傾向をしっかり学び直してから出直してこないとお客さんは減る一方なのではないか。

アーティストや楽曲を検索して特定の曲を流そうとしても、シャッフルで違う曲が再生される。ユーザーが作成したプレイリストも同様で、プレイリストにない「傾向が似た曲」も交えてシャッフル再生する。曲送り、曲戻し、シークバーの操作は上限があり、回数を超えるとUnlimitedの登録ボタンが出現する。この他、オフライン再生機能も撤廃された(厳選プレイリストは可能)。

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2211/02/news145.html

「傾向が似た曲」の定義は?


「傾向が似た曲」の定義がそもそも怪しすぎる。歌物ならボーカルの声の周波数帯とかも基準に入ってるのだろうか? 使ってる楽器の種類や過去のコラボレーションの相手とかの情報も入ってるんだろうか?「グリーン・ディを聴くユーザーはオール・アメリカン・リジェクツやフー・ファイターズを聴く」くらいの知能で考えた「傾向が似た曲」で止まってそうなのがAmazonMusicだから、その発想ラインで提案される「傾向が似た曲」はユーザーからすると「似てねえから!」になる可能性がとても高い。少なくともSpotifyレベルの発想力だったらグリーン・ディを聴くユーザーがセント・ヴィンセントを聴く可能性は高いと判断できるだろう。でも今のAmazonMusicのレベルじゃきっと無理だ。

この仕様変更についてアマゾンジャパンに確認したところ「『もっと多くの楽曲を聴きたい』というお客様の声にお応えし、新しい音楽との出会いに機会を増やしていただくためです」と回答。また、「多くのプライム会員のお客様はバックグラウンドで音楽を再生するというリーンバックなリスニングスタイルを好まれているので、そのニーズにも対応させていただきました」としている。

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2211/02/news145.html

この広報のコメントが既に「迷子になってる感」を出している。Unlimitedに誘導したいのならリーンバックじゃなくむしろ、前のめりに音楽を聴くユーザーを獲得していく方法を考えないと、これでUnlimitedに課金する理由が「オンデマンドで再生できる」「ハイレゾで聴ける」「ミュージック・ビデオが観られる」しかなくなってるわけで(アマプラ会員に確認してもらったところ、私のミュージック・ビデオのプレイリストは見られるようになり聴けるようにもなったけど、ビデオと音声の切り替えボタンは出てこないから動画は観られないそうです)、リーンバックな、ながら聴きリスナーをいくら集めても、「ハイレゾで 聴けます Unlimited(字足らず)」に移行しようとは思わないはずだ。

お得意様のクラシックリスナーは

昨日はTwitterではクラシックリスナーの阿鼻叫喚と怒号が飛び交っていた。

今までAmazonMusic Primeは、最新のポップ・ミュージックは対象外でもジャズやクラシックは比較的不便を感じずに聴けるジャンルだったため、ジャズ、クラシックの潜在的ユーザーが多かったようだ。私自身もUnlimitedに入るまではAmazonMusicで聴くのはジャズかクラシックだった。私のような初心者はとりあえずいいアルバムやアーティストを探すのが目的なのでシャッフル再生でも困りはしないのだが、クラシック愛好家たちの反発と怒りは予想以上だった。確かに、インディーロックのアルバムだってまずは最初から最後まで通して聴くのが作り手への礼儀である。そこには1枚を通したストーリーがあるのだから、順番に聞くのは当然だ。そしてクラシックは、その意味合いがより強いジャンルと言える。

Primeユーザーの中でもっともUnlimitedに近いのは

潜在的に多くいたクラシックリスナーほど、Unlimitedで課金した時の満足感は大きかったはずなのだ。空間オーディオもビットレートの高いハイレゾも、ロックよりずっと、クラシックの方がその差を体感しやすい。Unlimitedに移行してもらう理由が明確にある。しかしそのクラシック・リスナーに「不便を感じる」を通り越して怒らせてしまったのでは、戦略として明らかな失敗なのである。

身の丈を知らないAmazonMusic

またプライム会員は、新しい音楽を発見するディスカバリー機能を好む傾向にもあるため、今回の仕様変更を実施したようだ。

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2211/02/news145.html

その機能が上記3社の中でいちばん稚拙なAmazonMusicが、ユーザーが新しい音楽を発見するのを好む傾向があるとわかっていて今までその提案の拡充を放置してきていたとしたら、中の人たちは何を考えているのか。まあこれはワールドワイドでの仕様変更だから、米国の協調ベースフィルタリングの精度の高さと日本のそれとを同列に並べて語るのもナンセンスではあるし、上記の発言も米国本社からこう言えと指示された内容を言ってるだけで、日本のユーザーの傾向をきちんと精査した上での発言でないのは明らかなのだが。日本のAmazonMusicの中の人たちはもっと危機感を持った方がいい。今までの装備のまんまで米国に言われた通りの仕様変更にだけ乗っかっていたらユーザー離れは加速する一方だろう。

これまでは曲数を絞ることで、Unlimitedと差別化していたAmazon Music Primeだが、立ち位置を“Unlimitedの機能限定版”に変えることで、サブスクリプションへの加入を強力に促す方針に転換したようだ。とはいえ、特典扱いではあるもののAmazon Music Primeは有料会員向けのサービスであり、完全無料で使えるSpotifyのフリープランなどとは性質が異なる。今回の仕様変更が有料会員サービスのユーザー体験として適切なのか、議論が起こりそうだ。

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2211/02/news145.html

実際問題としてAmazonMusic Primeを有料会員向けサービスとして捉えるのは極めて適切だと思う。しかしその一方で、Amazon側はアマプラ会員向けのおまけとしてPrime VideoPrime Musicがあると考えてないだろうかと私は以前から怪しんでいる。そうでなければAmazonMusic Primeのサービス内容がこんなに中途半端なものでやってきて、そしてここにきてSpotifyの無料会員向けサービスと同等のことをやり始めるのは腑に落ちない。そもそもAppleMusicはロスレス、ハイレゾ・ロスレス配信開始後も追加料金はなしだったが、それに対してAmazonMusicはAmazonMusic HDと銘打ってUnlimitedを売り直し、追加料金月額880円を支払うとハイレゾ再生ができるというシステムにした(開始当初は780円だったのが値上げされた)。

じゃあAmazonMusic Freeは?

ここで大きな矛盾が生じる。AmazonMusicにはAmazonMusic Freeという、ログインの必要もなく、アマプラ会員じゃなくても使えるAmazonMusic Freeというのもあった。配信楽曲数はごく少なく、AmazonMusic Primeでも貧弱な印象だからFreeで使う人はあまりいなかったかもしれないが、Freeが正真正銘の無料サービスであり、Spotifyの無料版と同等であるべきものだ。そしてSpotify無料版と同等のサービスを提供し、追加料金なしのAppleMusicと同程度の月額料金を取られているのがAmazonMusic Primeであり、更に月880円上乗せするとAppleMusicと同等のサービスが受けられるのがAmazonMusic Unlimitedと言える。これはサービス・メニューの構築の時点で迷子になって失敗したとしか言いようがない。
AmazonMusicの中の人たちには今一度、AmazonMusic Primeの立ち位置を再考するところから再スタートをしていただきたい。

今日の1曲


今日のパンが食べられます。