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発酵食品

和歌山県の煙樹ヶ浜に神社がある。そこの宮司のご子息Y君が同級生だ。

他県からここの高校に転入して偶然彼と同級生になった。

彼は私のことを「お主(おんし)」と呼びかける。自分のことは「わし」と言い、聞き取りにくい和歌山弁に混じって非常に古風な言い回しをするので最初は戸惑った。

仲良くなってくると、いろいろ生活のことなど教えてくれるようになった。

和歌山ではお祭りの日に、『熟鮓(なれずし)』を食べる。飲み物は甘酒だという。

「救急車が間違いなく動いていることを確認してから食べる。」などと冗談を言ったがその時は現物を目にすることはなかった。

時が経ち、社会人になってからは良く出歩くようになった。

ある日、滋賀県の堅田に行く機会があった。お土産を物色していると、『フナ寿司』があった。

同行者は、露骨に嫌な顔をしていたが、和歌山の『熟鮓』を思い出し、購入することにした。

お土産に『フナ寿司』を家庭に持ち帰ったが、誰も食べようとしない。私一人で贅沢にも一匹丸ごと食べてしまった。

濃厚な熟成チーズを食べている感覚だった。その後なんども食する機会があったが、いつも美味しくいただいている。

『フナ寿司』は通常子持ちといってメスが喜ばれるが、地元の人はオスが好きだという。子持ちのメスは卵を持たせたままなので、内臓を除去できない。オスは内臓処理をしているのでスッキリした味を楽しめるということだった。

どちらも好みの問題であると思う。

堅田の『フナ寿司』と御坊の『熟鮓』を考えながら地図を眺めていたら面白い事実を発見した。

紀伊半島を南北に発酵文化があることに気付いた。

煮干し、フナ寿司、サバ寿司、奈良漬、味噌、醤油、なれ鮨、甘酒、梅干し、たくあん、鯖のなれ鮨、目刺し等目につくものを並べてみると心当たりのあるものばかりだ。

このまま西南に進めてみると鹿児島の鰹節、フィリピンのバゴオン(オキアミの発酵)、ベトナムのニョクマム(魚醬)、タイのナンプラー(魚醬)と発酵文化圏が続く。

古来、歴史を調べるのに遺跡の調査は欠かせない。最近は人骨、歯などのDNA検査をすると今までとは違った歴史上の新事実が発見されている。

それに合わせて住民の食の嗜好を調べてみると面白いと思う。

人間の食に関するこだわりは、生命に直結していたせいで、かなり民族間での偏りがあると思われる。

紀伊半島を南北に通して発酵文化が発達しているのが興味を引く。海流に乗ってたどり着いた、いろいろな民族が混じり合っていることが感じられる。




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