山下達郎・サザン・ジブリが折り重なる7月
午後の紅茶のCMソングとして、山下達郎の新曲「Sync Of Summer」(7月26日リリース)が流れている。
サビで開放的なバンドサウンドを背に、ヤマタツ印の入ったエコーのかかったボーカルがどこまでも響いていくサマーソング。80年代からこのサウンドを聴くと誰もが彼の音楽だと気づく記名性、これに対して山下達郎は非常に意識的である。
この引用は「CHEER UP! THE SUMMER」時のものであるが、本作のサウンドもそれに連なるものと考えて差し支えないだろう。
自分が観に行ったライブのMCでも述べていたが、この曲の詞のコンセプトは曲名の通り「”あの夏”と今目の前に存在している”夏”がシンクしている」ということである。この曲を聴いた、それこそ「RIDE ON TIME」から聴き続けているリスナーは、音によっても”あの夏”と”この夏”がシンクするだろう。
音楽は一種のノスタルジーをリスナーに感じさせるものであり、それは聴き手を鼓舞したり癒したりする効用が間違いなくある。だからこそ、リスナーはキャリアを経たミュージシャンの作品に「その人らしさ」を意識的にも無意識的にも見出そうとするし、それを果たすのはキャリアを積んだミュージシャンの責務の一つに違いない。
サザンオールスターズが7月17日にリリースした新曲「盆ギリ恋歌」はその責務を果たしている曲だといえよう。
YouTubeのこの曲の紹介文は以下の通りである。
誰しもがイントロのリフを聴くだけで「あ、サザンだな」と思うに違いない一曲。「理解不能の」と「サザン節炸裂の」「これぞ、サザンオールスターズ!!」が並記される異常事態が通常営業なのには笑うしかないが、過去の曲で言えば、「愛の言霊~Spiritual Message~」「愛と欲望の日々」のような楽曲に仕上がっている。
サザンオールスターズのフロントマンである桑田佳祐と山下達郎の関係が深いのは、今更述べるまでもないだろう。また両者と夏という季節との分かちがたさも言わずもがなであるか。
その両者の最新曲がどちらも夏にちなんだ曲であり、内容としても両者の色が出ていながら共通点を感じられ、不思議な縁を感じた。
先述した通り、山下達郎の新曲「Sync Of Summer」の曲のコンセプトは「”あの夏”と今目の前に存在している”夏”がシンクしている」というものであった。それに対しサザンオールスターズの新曲「盆ギリ恋歌」は、
という歌詞からもうかがえるように、「お盆」という日本特有の生者と死者の存在が深く濃く交差する時期を舞台として、性別年齢、はたまた生死を問わずにこの夏を同じく楽しむというムードが大きなコンセプトに据えられている。このあたりはリアルサウンドの記事に詳しいか。
「Sync Of Summer」では個人の心の内で「夏」が重なる実感を、「盆ギリ恋歌」では生死を問わんぬ多くの人で「夏」という季節を楽しもうとしている様子を描いている。一見正反対のように思えるが、そのサウンドはいずれもキャリアを経ての実験と、ブレない記名性をたたえたものとなっている。また、その歌詞の内容もそれぞれのスタイルを踏襲したものと言えよう。エロスとタナトスといえば、サザンオールスターズの、桑田佳祐の詞に見え隠れするモチーフの一つではないか。
エロスとタナトス、そしてキャリアを積んだビッグアーティストによる作品といえば7月14日公開の宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』であるだろう。
いくらでも語り口はあるだろうこの作品ではあるが(やっぱヒコさんのブログはよかった…)、今回は先述した二つの音楽作品との共振を中心に語りたい。
上の柴那典氏のブログに詳述されている通りであるが、この作品の中心人物である眞人が行くことになる「異世界」は生者と死者が交錯する世界であり、また自身の母が少女の姿で存在するという時間軸までもが一通りならざる世界として設定されている。
まさにこの世界設定は、「盆ギリ恋歌」と「Sync Of Summer」のいずれもの性質を十分に汲み上げているものと言えないだろうか。
また、スクリーンに広がる映像に関しても二曲のような様相を呈している。本作では繰り返し過去作のセルフオマージュと言うべきカットが出てくるのだ。そのカットを瞳に映すことは、サザンオールスターズの、山下達郎の楽曲を聴き、「あの頃」の成分を摂取することと同義と言えよう。
一方で、(当然ではあるが)今まで見たことのない世界も『君たちはどう生きるか』には広がっている。特に自分は火の描写や、背景のイラストがモネの「睡蓮」やミケランジェロの宗教画のような瞬間に驚きを覚えた。
ポップカルチャーはノスタルジーによる慰撫のみならず、現状への批評や、創作者個人のトライなど様々な側面をもつ。まだリリース前ではあるが、「金太郎飴」と呼ばれがちな山下達郎の新曲もリスナーにきっと驚きを与えてくれることだろう。
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