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世紀末美術館①

①ナボコフと絵

そしてシンプソンは、深く息をつくと、彼女のほうへ身体を動かして、苦もなく絵の中へ入り込んだ。すぐに激しい冷気で頭がくらくらし始めた。ギンバイカと蠟と、かすかなレモンの香りがした。(中略)
ヴェネツィアの女は流し目に微笑んで、そっと毛皮をなおしてから手を籠に落とし、小さめのレモンを差し出した。輝き始めた彼女の目から目をそらさずに、シンプソンは彼女の手から黄色い果実を取った。そしてそのざらざらした固い冷たさと彼女の長い指の乾いた熱を感じるやいなや、信じられないような至福が内側に沸き立ち、甘く煮えたぎり始めた。
/ウラジーミル・ナボコフ『ラ・ヴェネツィアーナ』、毛利公美訳
※画像は、Sebastiano del Piombo、「Dorothea」(部分)、1512


夜になり描き終えた絵を見た母は顔を返してほしいと言った
/ヨシダジャック『DOT』



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