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無敵艦隊スペイン イニエスタはヒーローになれるのか

W杯ヨーロッパ予選を、他を寄せ付けない圧倒的な力で突破したスペイン代表。その圧倒的手腕を持つロペテギ政権によって、今年もスペインが優勝候補に名乗りを上げていた。しかし、本大会が始まるその矢先、ロペテギ監督の解任された。就任したのは、監督歴がほとんどない、元レアルマドリーDF フェルナンド・イエロ。混沌としたスペイン代表は、いったいどうなっていくのだろうか。


あまりに突然なロペテギの解任

なぜ、圧倒的な手腕を持っていたロペテギが解任されてしまったのだろうか。理由は、ロペテギ監督がW杯後、レアル・マドリード就任するということを、本人が発言したためだそうだ。確かに、スペイン代表は、そのほとんどがレアル・マドリードとそのライバルクラブ、バルセロナのメンバーによって構成されている。監督のレアル就任によって、内部亀裂が起こるのも、想像に難くない。しかし、なぜこの大事な時期に行ってしまったのだろうか・・・。黙っていれば、レアル選手を贔屓しているだったり、内部亀裂や野次は飛んでこないのに・・・。レアルから圧力があった可能性はありますね。怖い怖い。

何がともあれ、新監督のイエロは監督経験がなく、心配な声も多い。しかし、「システム変更はほとんどない」とイエロ氏がいうように、ロペテギ監督が染めていった無敵のスタイルに変更はなく、それらを熟知しているスタッフ陣がいる為、問題はなさそうだ。チームからの信頼も厚く、スペイン選手のことをよく理解しているイエロはむしろ適任だったかもしれない。土壇場でのシステム変更は、むしろ体を壊してしまう。ではそのスペインのシステムとは何か?


スペインの支配的なパスサッカー

無敵艦隊スペインは先祖代々攻撃的なパスサッカー。ルーツとして、バルセロナのポゼッション的なスタイルを多く取り入れている。どんな相手であれ、ボールを持ち、パスを回し、組織的に攻める。ボールを奪われたら、積極的に前からプレスをかけ、チームで連動して、すぐボールを取り返す。個より、組織を重んじるチームだ。

必然的にボール保持率が高くなり、ゲームを支配するようになる。そうなると、全員パスを出す能力やボールを保持する能力、つまり高いレベルのテクニックが必要になる。ボールをうまく扱う能力というのは、パスを出したり、ドリブルを多くするMFの選手が持ちやすい。しかし、スペイン代表の選手はどのポジションであれ、非常に高いテクニックを持っている。CBの選手でも他国のMFレベルのテクニックを持っている。スペイン代表のMFなんて芸術モノだ。スペインほどのパスサッカーを展開するのは、非常に難しい。彼らだからできる芸当なのだ。その中心にイニエスタやイスコといった超絶技巧を持つ選手がいるのだ。


ポゼッションサッカーの弱点とロペテギの革新

しかし、ゲームを支配するパスサッカーにも弱点はある。ボールをパスする事が多くなる分、シュートチャンスが減ってしまうのだ。ゲームを支配しボールを持っているではなく、ボールを持たされている、という状況になりやすい。

スペインほどのチームを相手する場合、まずボールを持つ事を諦めるチームがほとんどだ。相手のボールロストを狙って、カウンターで点を取りに行くプランを練ってくるだろう。カウンターは、ポゼッションとは真逆で、いかに少ない手数で相手のゴールに迫れるか、ということに目標をおいている。つまり、ゲームを支配されても良いから、少ないチャンスで点を取りにくるのだ。スペインが苦戦する試合はこういう展開が多く、初戦のポルトガル戦がまさにそうだった。ロナウドにカウンターで3点取られてしまった。

これはスペインにとって永遠の課題であった。

しかしロペテギはゲーム支配を第一とするスペイン代表に新たな風を吹かせた。

ゲームを支配するパスサッカーに、縦の早さを足し、よりゴールにつながるプレーを増やした。

ボールを保持したり、パスを回したりするのを、横への動きと、よく表現される。ゆっくり横にパスをしながら、じわじわと前へ進んで行くからだ。それに対してカウンターは縦への速さが重要になる。より選手をゴールに近づけるためにどんどん縦へ走らせるからだ。

ロペテギはスペインのポゼッションサッカーを貫きつつ、前への推進力を増やした。横へのパスを減らし、縦へ走り、縦にパスするプレーを増やした。ボールを持たされるサッカーから、より積極的に前に出るサッカーに変わっていった。その結果が、W杯予選圧勝である。ロペテギのスタイルは大きな成功を納めた。


核となるイスコ、イニエスタ

このシステムにおいて重要なのが中盤の2選手、イスコとイニエスタだ。超絶技巧を持つこの両選手が中盤からさらに前のゴールに近い位置でプレーすることによって、様々なゴールのバリエーションを生む事ができる。百にいうとこの2選手がダメだったら、ゴールをするのがとても難しくなってしまう。それほど大事な役職なのだ。

イスコは全く問題ない。26歳と選手として脂がのっており、プレーのむらもほぼない。生き生きとプレーしている。問題はイニエスタだ。34歳になるベテランイニエスタの老衰が顕著に見え始めた。去年から、バルセロナでのプレー時間がかなり減り、フィジカルやスピード面での衰えが際立っていた。モロッコ戦での、不用意なパスからの失点がそれを物語っている。しかし、そのテクニックは今だに超一流で、スペインのゴールもイニエスタを経由するものがほとんどで、決定的なパスも多くやってのける。まさに魔法使いのようだ。

全てはイニエスタ次第

スペインの出来はイニエスタ次第と言っても過言ではないだろう。彼は、老衰によって弱点になりうるかもしれないが、それと同時に華々しく、決定的なプレーも見せてくれる。控えのチアゴやコケも素晴らしい選手ではあるが、イニエスタの領域にはいない。彼は世界と比べても、唯一無二な絶対的な選手なのだ。かえは効かない。

イニエスタは無敵艦隊の偉大な航海士になれるのだろうか。それとも、船底に開く穴になるのか・・・

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