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11:デンマークにおける新規就農

執筆:堀内美佑
2019年1月23日

はじめに

新規就農者の支援は農業の持続的な発展を考える上で最も重要な命題の一つである。本論では、デンマークにおいて就農する際に有用な制度や障壁となる要因等の特徴を明らかにする。手法としては、デンマークの農業関連団体のウェブサイトや公開されている統計データの利用を中心とした文献調査、農業学校関係者の方や実際の農家の方へのインタビュー調査を行なった。結果として、デンマークにおける新規就農において、実際の農業経営に適した教育カリキュラムが提供されていること、農業に特化したキャリアコースがあること、高額な農場価格という障壁、農家と一般の人々との意識の乖離などの特徴が見られた。

1.序論

1.1新規就農の重要性

食料を生産し人間の基本的な生活を支えるという点で、農業は重要度の高い産業である。しかし、農業の担い手の減少は日本やデンマークのような少子高齢化社会では大きな問題となっている。

本研究では、具体的には、土地取得に関する制約や、農業経営に必要な知識の獲得方法、就農に至るまでのキャリアなどを調査する。そしてデンマークにおける農業発展の歴史的経緯や、現在から将来にかけての動向を明らかにしつつ、新規就農の必要性や、就農する際に有用な制度や障壁となる要因等の特徴を考察していく。

なお、農林水産省の調査によると、日本では2000年から2014年にかけて基幹的農業従事者数は240万人から168万人に減少し、平均年齢は62.2歳から66.8歳に上昇している[1]。このような状況の中、労働集約的である日本の農業においては、特に若年層の新規就農者を増やし育成することは、農業の持続的な発展において不可欠であるといえる。ただし、日本の1haあたりの農業従事者数が0.41人(2017年, 農林水産省のデータを基に筆者計算[2])であるのに対し、デンマークでは0.03人(国際連合食糧農業機関(FAO)の2014年のデータとデンマーク統計局の2013年のデータを基に筆者計算[3][4])と日本の数字がデンマークの10倍に近く、労働集約度が高い。このことを考慮すると、両国の新規就農の重要性については一概に語ることはできない。それゆえ本稿では、日本との比較をするのではなく、デンマークの事情について報告することに焦点を当てる。

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