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最高の休息法【書評★4】マインドフルネスを4ヶ月やってみたレビュー

★★★★☆
科学的な裏付けに基づくマインドフルネス入門。物語形式の読みやすさと、巻頭数ページの図解によるわかりやすさは両立。エビデンスを重視した部分が多いが、時折科学的裏付けのない思い込みを事実のように書いてる点は信頼性にもとる。

★の意味
☆☆☆☆☆内容が有害(デマ、フェイク、ヘイトなど)
★☆☆☆☆時間とお金が余ってて、内容が薄くても許せる人向け。
★★☆☆☆人によっては学びがあるかも。勧めるほどではない。
★★★☆☆標準。値段相応の学び。本棚があるなら売らずに手元に置く。
★★★★☆定期的に読みたい。本棚の一軍。
★★★★★誰かれかまわず布教するレベル。(年間数冊もない)


入門書かつ実用書として使いやすい構成

本書の構成は冒頭にマインドフルネスの図解が見開きごとに1種類ずつ紹介されるページが続き、本編は小説形式でさまざまな問題を冒頭のマインドフルネスを使って解決していくという体裁が取られている。

最初の図解の数ページはシンプルかつあっさりした図解で、思わず(あ、もしかして、情弱向けの本か?)と思ったけど、本編ではどういう時に何を目的としてどの手法を使うのかという説明がしっかりなされている。

むしろ一度本編を読んだ後なら、2度目はお目当ての箇所を探さなくてもすぐに実践的な内容を参照できるのでこれは良い構成と言える。

タイトルは休息法とあるため、睡眠や食事タイミングなどを含む養生訓のようなものか、と思いきやその内容のほとんどがマインドフルネス。食事や睡眠についてはそれぞれ別の良書があるので、読者としてはむしろありがたいのだけれど、それならタイトルにマインドフルネスがあってもいいのでは、とは思った。

著者の主張としてはマインドフルネスは単なる瞑想や精神統一ではない。怒りを鎮めるアンガーマネジメントのような対症療法だけでもなく、困難に直面した時の打たれ強さを養うような、一種のストレスに対する予防効果(レジリエンス)も期待できるという。

マインドフルネスというと、ともすればちょっと胡散臭いイメージがつきまとうため、本編中では神経科学を学ぶ大学院生がマインドフルネスにはまっている教授と出会い、会話形式で話が進んでいく。そのため読者の持つ懐疑的な視点が主人公によって代弁され、教授がそれに答える形となり、読者の持つ疑問や不審が一つ一つ解決されていく構成となっている。

実際に本書を使ってみた感想

ここからの書評は実は読んだ直後ではなく、実際に4ヶ月生活に取り入れた後で書いている。自分は筋トレやランニングは比較的三日坊主になりやすいタイプだが、マインドフルネスはそれなりに続けることができた。

というのも、マインドフルネスは種類にもよるが、いつでもどこでもできるため、なんなら寝る前になって、あ、忘れていた、ってなっても布団の中で横になった状態でも可能な点が良い。筋トレやランニングは夕飯食べたり風呂入った時点でもはやヤル気が消滅するので。

本書では複数のマインドフルネスが紹介されているが、どれも共通するのは呼吸だ。「呼吸は意識を今・ここにつなぎとめるアンカーだ」と本書でも指摘されているように、今、ここに錨をおろすことが重点的に説かれている。

座禅のように心を無にするのではなく、雑念が浮かんできたら呼吸を意識し、雑念がどこかに行くのを見送る。呼吸が乱れてもよくて、乱れた時にも呼吸を意識して(あ、呼吸が今乱れているな)と客観的に自己を観察する。

ここまでで実行性が高いこと、つまり誰でもいつでもどこでもやりやすいものであることは理解できた。次に実効性、つまり効果があったかどうか、を考える必要がある。

これについては結論から言うと、ストレスは少なく感じるし、より穏やかになれたとは思うけれども、毎年1月から4月は冬の終わりと共にストレスが消えていく時期だし、今年はそれに加えて運動や日光の取り入れなど冬への対抗手段を山のように用意したし、マインドフルネスだけがストレスの緩和に影響したと考えることはできない。

また前述の通り、寝る前なり、デスクワークをしている時にマインドフルネスをしていたためストレスを翌日に持ち越すことはなかったけれど、日中の出来事で少しイラッとするイベントが発生した時には声に棘が出てしまうというのはあった。ので本書がいうような、持続的に行うことで予防的な効果があるというのはまだ4ヶ月では実感できなかった。

少ないが欠点もある

本書を読み、そして実践することで、認識は大きく変わった。少し怪しげだったマインドフルネスに対して様々な科学的手法で評価されていることが理解でき、胡散臭いものから一つの確立した精神衛生を維持するための手順という認識に変わった。

一方で会話形式なのをいいことに、科学的裏付けのある部分と、エビデンスのない作中人物の主張を組み合わせた三段論法も散見され、嘘を見抜くことに慣れてない読者は盲信してしまうのではという危惧もあった。

例として「脳のある部位の血流が高いとストレスが強い(文献的事実1)」「マインドフルネスを実施するとその部位の血流が低下した(文献的事実2)」「ゆえにマインドフルネスはストレスの緩和に有効である(作中人物の主張)」といった組み合わせである。

いかがだろうか。このロジックの破綻を一読して気付ける人は以下は読み飛ばして良いが、しかし騙される人も少なくないだろう。これはたったひとつの可能性を考えれば虚偽を見破れる。つまり、ストレスを感じると脳がそれを守るために血流を増やしている可能性がある場合、マインドフルネスは単に脳の働きを邪魔しているだけになる。

もちろん実際にそうであるという根拠はない。だがその可能性が想定される以上、またそれが否定できない以上、文献的事実1で述べているのは単なる相関であり、因果関係ではない。それをいつのまにか因果関係にすり替えて、作中人物に誤った結論を代弁させるというのはあまり関心できない。

この本を読む限り、この著者は相当に頭が回る方で聡明だと思う。また神経学分野における知識は豊富で、何が言えて何が言えないかを熟知している。ただ、それゆえ上記のような誤った主張を地の文の主張とせず、作中人物の主張とすることで責任から逃げている感は否めない。

本人は米国で磁気を使ったストレスを緩和するクリニックを開いており、特にその技術周りの主張は相当な利益相反があると思って読む必要があるが、マインドフルネスに関してはそこまでの歪みはないはずなのである程度は信頼して良い本と言える。


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