荒神弥哉

認知症研究者、脳神経内科専門医。 文字を書いたり読んだりが好きです。脳と神経の話をしよ…

荒神弥哉

認知症研究者、脳神経内科専門医。 文字を書いたり読んだりが好きです。脳と神経の話をしよう、いつかは心の話すらも。 お仕事依頼は→connectomancer@gmail.comまで

マガジン

  • NeuroNest

    • 8本

    脳と心の専門家が語る、ちょっと深くて濃い話。 疑似科学やインフルエンサーに惑わされず、「脳と心への理解を本当に深めたい人のためのマガジン」を目指してやっていきます。

  • ハイド博士とジキル氏の奇妙な往復書簡

    • 27本

    それぞれの人格がそれぞれに書いた手記。 気楽な日記帳として、ゆるく続けていきます。

  • 本と学びのミルフィーユ

    読んだ本とそこから得た学びをミルフィーユのように交互に積み重ねていきます

最近の記事

神経科学的に適切なアンガーマネジメントのすゝめ

皆さん、怒ってますか? 私はちょうど先週、数年ぶりに激怒しました。(後述) さて怒った時のお供、アンガーマネジメント、つまり6秒間の深呼吸するだけで怒りがおさまるというのは、多くの場面で有効とされています。 一方でドアを力いっぱい閉めたり、壁を殴ったりといった、物に当たる行為は怒りを増幅させると言われています。 それはなぜなのか、そしてアンガーマネジメントに有効性はあるのかについて、神経科学の観点から紐解いていきましょう。 怒りはなぜ起こるか感情の構造を説明する心理学の

    • ゴールは存在しない:人生戦略を静的構造ではなく動的構造で考える

      私達はあまりにも「物語」に慣れすぎている。何もこれは抹香臭い現代批判じゃない。サブスクやSNSでスナック感覚に消費する動画や漫画が出回るずっと前から、そう、我々が狩りをして焚き火を囲み、洞窟の壁に絵を書いていた原始の時代から、物語は我々とともにあった。英雄譚、喜劇、悲劇、教訓を与える物語やその集団のアイデンティティを与える神話は我々の古き良き友人たちだ。 複雑な世界を複雑なまま理解するのは、単純な脳を持つ人間には難しい。 そこでこの世界を単純に理解するために物語はとても有用

      • 不運にファックされたくなければ幸運をハックしろ:幸運を因数分解する

        ここのところラッキーなことが続いているな、と以前呟いたけど、その後ちょっとした波乱万丈もあって、ある事に気づいたので忘れないうちに書き記す。 運は一枚岩ではないまず、自分も最初は気づいていなかったけど幸運とかラッキーと一言で言っても、幸運というのは均質な一枚岩ではない。 たとえば自分が生まれた国が侵略されていないとか、先天的な病気を持っていないとか、親が偏った宗教や思想を持っていないとか、その手のタイプの幸運はもう自分の選択ではどうしようもない。まさに配られたカードでどう

        • 「成長」マニアが知るべき2つの視点

          成長マニアになっていないですか? 就活で「圧倒的成長」という言葉が持て囃されている。 「今日も成長できました」 「仕事を通して成長できました」 悪い言葉ではないが、あまりにもこれを神聖視すると、足元を掬われる。 かと言って成長以外にも大事なことがあるとか、スローライフをしようとかそういう話ではない。今日気づいたのは、成長速度と成長の加速度の話だ。 これについてはここ1年ほど、よく考える事が多くあり、いくつかのnoteを書いた。このノートではなにかに備える事について以下の

        神経科学的に適切なアンガーマネジメントのすゝめ

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          27本
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          6本

        記事

          君たちはどう生きるかー風立ちぬのエンドロールの向こう側

          宮崎駿の遺作は「風立ちぬ」にして欲しかったので「君たちはどう生きるか」は見るつもりなかったけど、どうせネタバレを食らうなら第三者よりはジブリから食らいたいので映画館に行ってきた。 以下、上記両作品のネタバレありの考察&感想です。 ↓ ↓ ↓ ↓ 結論から先に言うと、作品としては風立ちぬがまとまっていてキレイだけど、それを引退前に否定しておきたいという宮崎駿の意思を感じたので、思ったより誠実な人だな、と思った映画でした。 風立ちぬの最後のシーン、あるじゃないですか

          君たちはどう生きるかー風立ちぬのエンドロールの向こう側

          科学は案外フレンドリー

          科学が万人普遍の真実であろうとする限り、あなたの個性は蔑ろになる。 はたして、本当に? 前の往復書簡でハカセはこう指摘した。科学はある集団や現象の傾向や平均をもとに判断を下す。だから科学は最も平均的な人間に当てはまるようチューンされている、と。 科学の子羊この記事でハカセが提起した問題は2つ。科学の前に個性は排除・無視されるとして 1:科学は私に何を与えてくれるか 2:私は科学をどう見るか という問いである 1も無視できない問題だが、そうは言っても少なくともこれを読む人

          科学は案外フレンドリー

          卒業に代わるステージクリアという考え

          また今年も桜が咲き、卒業シーズンを迎えた。去年までは桜を見ると大学に入った当時を思い出し、時が過ぎる早さに感嘆するとともに、自分が大学にいられる残り時間がまた1年減った事に焦っていたが、今年はいつものような焦りを感じる事がなくなった。 ここ最近、「ステージクリア」感を強く感じる。おそらく、自分の卒業よりも先に、ステージクリアが見えてしまった、もしくは既にクリアしてしまったから焦りが消えたのだろう。それが何のステージかは後ほど考えるとして、なぜ卒業感ではなく、ステージクリア感

          卒業に代わるステージクリアという考え

          反出生主義に与しない理由【質問箱】

          以下のような質問をいただきました。結論は明瞭でしたが、考えてもみなかった質問だったのでその論拠を考えるうちに面白い結論になったのでnoteにしました。 生は苦しみに満ちている。かと言って死ぬことも苦しみだし、老いる事、病む事もまた苦しみである。それは若き日の釈迦が悟った四苦八苦でもあるし、地球の反対側でショーペンハウエルが論じたように、命とはキラキラしたものではなく満たされる事のない生存への果てしない暗い情念とも言える。 この主張は何も宗教や哲学に限った事ではなく、進化論

          反出生主義に与しない理由【質問箱】

          正解の人生を選ぼうとして最高の人生を捨てていないか?

          あけおめと老若男女が祝い合う令和5年のログインボーナスはそろそろ飽和してきた頃だろう。だから口直しに今日は正月らしくない話題、「失敗」の持つ有益さについて話そうと思う。 前回の往復書簡でハカセはこのように指摘した。「失敗の経験」は自分の経験からしか得られない。そして「『失敗』がその人の人生を唯一のものにする」、と。 これはその通りだと思うけど、この構造は失敗以外にもさらに一般化できるような気がするので掘り下げてみよう。 正解は多様性の乏しさゆえオリジナリティが透明化する

          正解の人生を選ぼうとして最高の人生を捨てていないか?

          過不足なく心と付き合い、好きを仕事道具として扱う

          肉体は精神の奴隷でもないし、精神もまた肉体の奴隷ではない。 感情を過大評価も過小評価もしない、これを理解した1年だったのでその理解を書き記しておこうと思う。 ある程度、脳について学び、神経科学の心得のある人なら、我々に自由な意志というものが無いことは常識になっている。脳の中の物質の連鎖反応がおき、それに従い我々は意思決定をする。感情や気持ちといったものは、その際の中間生成物みたいなものだ。 だが、この事実は、我々が感情を蔑ろにして良いことを意味しない。 そんな事で?!

          過不足なく心と付き合い、好きを仕事道具として扱う

          手に入れる前のが楽しかったと思う人が知るべき3つの価値ー芋粥を飲み干した君を救いたい

          あなたが憧れを終わらせなければ、憧れがあなたを終わらせる。 憧れは、身を焦がす。生き残るには、憧れを解体しなければならない。 解体する一番の方法は理解して、そして手に入れる事だ。手に入れたら最後、憧れの放つ怪しい輝きは急にその光を失う。 だが、本当にそれで良かったのだろうか。 夢にみた第一志望に合格する、憧れの異性と付き合う、一番入りたかった企業から内定をもらう――これらのイベントで、目標を目指していた時が一番楽しかった、という経験をした人は多いだろう。 最近アマプラ

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          正解を選べないという祝福を、我々はすでに受けている

          暗い海に氷山が漂っている。その上に一人座り、マッチを擦る。その光が届く範囲だけが、君が知ることの出来る世界だ。そしてマッチの燃える時間が、君の生きる時間だ。1本のマッチで、氷山のすべてを知ることはできない。 人類が生み出したコンテンツに限っても、我々が一生かけて消費できるのは氷山の一角にすぎないだろう。ハカセは前の記事で、だから人生において飽きる瞬間は来ないと、そう教えてくれた。ましてやコンテンツを作る側に回ればなおさら。 これは幾分明るいニュースだが、新たな宿題もまた照

          正解を選べないという祝福を、我々はすでに受けている

          人生、再入荷しました-JAXA宇宙飛行士受験を振り返って得られたもの

          JAXAの宇宙飛行士公募に応募していたが、次のセミファイナルには進めなかった。気持ちの整理をするためにこれまでを振り返る事にする。当初4000人以上いた応募者が4000→1000→200→50と減っていき、今後はおそらくは最終選抜に残るのは8-10人にだろう。ここからは椅子取りゲームの色彩も帯びてくる事に少し嫌な気持ちもしていたから、もうちょっと勝ち残れるかとも思っていたとはいえ、この知らせを見たときにほろ苦さの混じった大きな安堵を感じた。 これを見る限り、すべての項目はJ

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          NEO HUMAN【書評★2】ALS患者の夢だけが語られる

          ★★☆☆☆ サイボーグ化により難病を乗り越えた人の話という触れ込みで手に取ったが、技術書や学術書ではなく、自分がいかに素晴らしいアイデアを持っているか開陳するだけの期待外れな一冊。最後には実現結果が見られるのかと思って読み進めるも、「俺たちの戦いはこれからだ!」というオチ。ビジョンは立派なのでちゃんと実現して2冊目を出してくれたらこの文体も我慢して読むと思うので期待も込めて★1にはせず+1して★2とする。 独特なスタイル筆者がイギリスの上流階級でいることを強く憎んでいるが同

          NEO HUMAN【書評★2】ALS患者の夢だけが語られる

          効率化の果てに「仕上がる」危険とその打開法

          何か一つの勉強ができる程度では個性にはならないが、自分で複数分野を選んで学べば、その組み合わせが個性となり君を助ける、これは差別化や無個性に悩む人にとっての救いであるとハカセは前の記事で示してくれた。 この記事でハカセは「自分の物語を始める第一歩」のさらにその前段階を書いてくれた。これでみんなが物語を歩み始める。めでたしめでたし。。。 本当に? 始まりがあるものには全て終わりがある。(*1) だから、今日は物語の終わりについて話そうと思う。 (*1: Matrix R

          効率化の果てに「仕上がる」危険とその打開法

          自分の物語の始め方ーやりたい事が見つからない人へ

          生殺与奪の権を他人に握らせるな、とは鬼滅の刃の名言の一つだけど、もう一歩踏み込める。つまり、他人に委ねちゃいけないのは何も行動や意思決定の主導権だけではない。 快・不快のスイッチ、つまりは価値基準も他人に委ねちゃいけないんだ。 それらを他人に握らせれば最後、他人より秀でているかどうか、世間から評価されるかどうか、誰かと自分の差をアピールすること、つまりはマウントを取ることでしか快感を生み出せない人間になってしまう。 いや、もうそれは人間と呼ぶほどのもんじゃないね、ただの

          自分の物語の始め方ーやりたい事が見つからない人へ