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「砂漠世界」

私はラクダに乗って砂漠を旅している、過酷な旅だ
人の歩いた痕跡や道標などは、直ぐに消えてしまう

道も何もない小高い丘まで登った時、その丘を下った辺りにヨロヨロと歩く人がいる、どうやら遭難しているようだ

「大丈夫ですか?」と声を掛けたら、彼が言った

「一人はぐれて、水も食料も尽きました。私はもう駄目でしょう、これも人生ですよ…」微笑んだ彼の瞳には後悔など無く、さらに続けた

「私はこの砂漠を自分の足で一生懸命に歩いて来ましたし、その足跡の軌跡が私の生きた証です」彼は満足そうだった

「それに要所要所で私が成し遂げてきた、人生のしるしが残っているはずです。それがいつか誰かの道標となれば幸いです」彼は振り返りながら

「ほら見えるでしょう?私の歩いてきた生き様が」と、丘の上まで見える足跡を指差しながら「貴方もここまで来る道中に見たでしょう?丘の向こう側にも永遠に刻まれた私の足跡が有ったはずですよ」と言っていたが、私は曖昧に微笑んで彼と別れた

暫くして振り返ると息絶えた彼を砂が覆い隠している…この砂漠では足跡どころか、彼が生きていた事自体すべて綺麗に消してしまう

かつて私は、この砂漠世界の綺麗な秘密を知った時、虚しさの余り旅する事をやめてしまった時期がある。しかしただ膝を抱えてじっとしているのはとても退屈で苦痛だったので、また旅をする事にしたのです

遠くに見えるオアシスを目指したが大方は幻だった。それでも旅を続けたのは、いつかホントのオアシスにたどり着けるかも知れないと思ったからだ

いや見つからなくったって構わない、取りあえず歩いてさえいれば良い

私の歩む足跡など胸に刻めば充分だ
私の前にも後ろにも道は無いし
誰かの足跡など更に無い

それでも私は歩き続ける、ここは綺麗な砂漠世界

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