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「その男、清田五郎」

ひと月ぶりに清田さんを見た時は驚きました

目の下にクマを作り、瘦せてフラフラ歩く姿はまるで幽霊の様です!私は駆け寄り声を掛けたところ、虚ろな目をして話し始めました

あれからよぅ、「いんぐりっとばあぐまん」のキャッシュカードのよぅ、中身を見たくてよぅ、パソコンで銀行のオンラインサービスから残高照会してみたんだよぅ、そしたらやっぱり暗証番号でつまずくんだよぅ…

でもよぅ、一緒に捨てられてたものの中に履歴書だとか日記だとか色々有ってよ、きっと誕生日とか実家の住所だとかだろう?と思って打ち込んでみたんだけど、駄目でよぅ。あんまり違う暗証番号を入れるとカード使えなくなるから1日に3回までって決めて色々やってみたんだよぅ…

でもよぅ、やっぱりダメなんだ…どっかにヒントでもあるんじゃねぇかと思って、やつのいろんなものを調べたさ

あいつはよぅ、秋田から出て来て都会でホテルの支配人をしてたらしいんだ…生涯独身で唯一の楽しみは休日の映画鑑賞さ。従業員のシフトや料理長との揉め事なんか、つぶさに書いてあったよ…

やつの故郷も勿論ストリートヴューで何度も行ったよ、良い所だったゼ…俺はやつの初恋相手の誕生日まで暗証番号に入れて検索してみたがダメだった

そのうちによぅ、あいつが夢ん中に出てくるんだよぅ。写真も沢山有ったからよぅ、直ぐにあいつだって分かったぜ。背の高い短髪のやつさ…

やつが地元でくすぶってる頃に、むしゃくしゃすると行ってた町を見下ろす公園になぁ、俺とあいつで行くんだよ…

奴は「カサブランカ」の歌なんか歌いながら、将来の不安を口にしてたぜ!もう旅立ってるのになぁ!変な話しだぜ

あんまり深入りしねぇ方が良いなって思いながらも、やつに寄り添う日々を続けちまった…

そしたらよぅ、咳がとまんねぇのよ!何だか息苦しくってよ、暫くしたら拾って来た奴の本なんかをしまっておいた本棚がカビだらけなんだよぅ!ビッシリ緑🟢だぜ!俺は気持ち悪くなってよ、すぐさま拾って来た奴の遺品を焼却炉で焼いたのさ…

煙がよぅ、すーっと上がって行って、気持ち良さそうによぅ…。やっと成仏出来たって感じだったぜ

この夏はよぅ、あいつと過ごした夏だったんだな…

遠い目をして帰って行ったその男、清田五郎は今日もゴミを漁ってる

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