見出し画像

2023年、心に残った本(阿部)2023/12/27

今年もいろんな本に出会いました。1度読んだ後もカバンに入れて何度も開いていた本や、一気読みした本、じっくり読んだ本などなど。いろんな読み方ができたのも楽しかったです。
今年心に残った本をピックアップして感想とともにご紹介します。


未来をつくる言葉:わかりあえなさをつなぐために

たしか今年の1月に読んだ本ですが、今でもペラペラと読み返しています。今年一番触れていた本だったかなと思います。
『私たちのわかりあえなさ』について、哲学的、エッセイ的、歴史文化的など多様な視点から書かれた本です。
最初読んだ時はわかったような、わからないような….字面だけを追って読んでいる箇所もあったのですが、不思議なもので時間を置いて手に取ると「あ、もしっかしてこういうことかも」「それってこの前見聞きしたあれと同じかも」と再発見や思考が進む感じがあって、いまでも楽しく読んでます。

そうだな、深く納得した一節をご紹介。

結局のところ、世界を「わかりあえるもの」と「わかりあえないもの」で分けようとするところに無理が生じるのだ。そもそも、コミュニケーションとは、わかりあうためのものではなく、わかりあえなさを互いに受け止め、それでもなお共に受け止め、それでもなお共に在ることを受け容れるための技法である。
「完全な翻訳」などというものが不可能であるのと同じように、わたしたちは互いを完全にわかりあうことなどでけいない。それでも、わかりあえなさをつなぐことによって、その結び目から新たな意味と価値が湧き出てくる。

本書から抜粋

本を読む時は小説以外付箋をベタベタ、直接メモを書き書きし、読み終えた後は付箋をきれいにとってしまうのですが、まだ読み途中だ….と思っているのかこの本はまだ付箋がびっしり。きれいに付箋がとれるときがくるのだろうか。

暇と退屈の倫理学

より豊かに、幸せになるために世界は動いているはずなのに、果たして実際はどうなのだろうか。若いときにはよくわからなかった社会の閉塞感がより濃く感じられるようになってきたこの頃。

本書では、豊かさ目指すとはどういうことか。なぜ今の状況を喜べないのか。豊かになって得ることができた暇とはなにか。暇と退屈はどう違うのか…など言及しているのですが、「暇と退屈」とは全く違う刺激的で面白い。

中でも、「1万年以上前に人類はやむを得ず定住化した」という考察はおどろきでした。人類は定住を望んだのではなく、慣れ親しんだ遊牧生活を捨てざるをえなくなって定住生活を強いられた。つまり、苦労して食料生産術を獲得していったのだ….。全く逆の歴史観をもっていたので衝撃でした。
この調子で近代、現代まで豊かさを手に入れていく過程で表れる「暇と退屈」との関係が描かれていきます。

タイトルに「倫理学」とあるので難しそうですが、順を追って丁寧に話が展開されるので万人が楽しめる本だと思います。

D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略

主にD2Cブランドの海外事例を踏まえて、伝統的なブランドとの違いを明らかにし、今後一層進むであろうD2Cブランドの築き方を書いた本。
いわゆる『デジタルマーケティング』を扱うことが多い自分の仕事でも考え方が参考になりました。

とくに「優しいデジタル」の考え方はとても共感するとともに、日々の仕事を振り返って冷や汗が出ました。

本書で語られるのは、テクノロジーの本質はこれまでリアル接客ではできなかった顧客サポートができる点であり、データは顧客体験の向上のために使われなければならないということ。
顧客は「提供したデータが自分のために使われている」と感じられなければならないし、企業側は自社の営業効率化を目的として預かったデータを都合よく使うだけではダメ。

クライアントワークでデジタル活用を考えるときに、「顧客にとってどんな良いフィードバックを提供できるのか」に目を向けられていたか….。
企業側の論理が強くなりすぎないようにしたいと感じた一冊です。

今日は誰にも愛されたかった

本のタイトルと表紙のかっこよさで買ったのですが。正解でした。
谷川さん、岡野さん、木下さんの3者の連詩とともに感想戦が収録されています。

詩や短歌を読むにはそれ用の筋力が必要だなと思い、いつも手を出しては消化不良だったりするのですが、感想戦があるおかけで自分の感想とも照らし合わせながら読める楽しみがあります。
連詩なので、前の人が読んだ詩や短歌を受けて次の創作につなげていくのですが、それぞれの作品に対して三者三様の読み取り方をしていて、作り手の思惑とは違う解釈や想像の広がりから新たな作品が作られる過程が垣間見える。

「詩や短歌って自由な感じ方でいいんだ、誤読していいんだ」とわかり、これからの詩や短歌との出会いがますます楽しみになりました。

シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録

コロナ禍で一番最初に社会的な影響を受けて、日々ニュース映像で流れたのが飲食店だったように記憶しています。社会の風潮に乗り、自分も一時期飲食店に行くのを躊躇っていた時期がありました。

そんなとき、飲食店のシェフやオーナー、スタッフはどう知恵を絞ってお店を成り立たせていたのか。日本中どこでも起こっていて、身近なことだったはずなのに深く知ることがなかった。
改めて、「食」は生活の中心にあるものだなと思いました。食を中心にお店、スタッフ、生産者、地域の人、お客さん….それぞれの生活が交わる場所。

「食」を提供する人々が、何に喜びを感じ、何に苦しんでいたのか少し知ることができる。当時のことを思い出しながら、自分は何ができただろうか…と振り返ってしまう一冊です。

わたしは思い出す 11年間の育児日記を再読して

大地震後の11年を生きた、 ひとりの女性の育児日記。 その再読から始まる 30万字超の追憶の記録。 〈震災〉ではなく〈わたし〉を主語にする、 想起と忘却の生活史。

どこの誰かも知らない、誰かの日記を読む。それなのに、目の前で体験したかのようにありありと光景が目に浮かぶ。
おそらく、自分が同じように子育てをしているからなのか。日記に書かれた心情や育児の大変さ、うれしさがより一層わかる。
何万人の方が亡くなり、いくつの家が流され、経済損失がどのくらいあるのか、毎日流れる抽象化されたニュースから抜け落ちた、生きている記憶がありました。
いまの出会えたからこそできた読書体験。
たまに訪れる「いま出会えてよかった」と思える本でした。

さて、今年もあと少し。来年はどんな本に出会えるか。楽しみです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?