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切断(15首)

短歌の15首連作です。



 切断   丸田洋渡


人が死ぬニュース。知らない人がどこでどうやって死んだか分かる。人が死ぬニュース。知らない人がどこでどうやって死んだか分かる。人が結婚したニュース。見たことのある人たちが結婚している。人が死ぬニュース。知らない人がどこでどうやって死んだか分かる。

死に際して夜に動いていたはずの監視カメラも ごといかれてた

開演時、鍵が掛けられていたのは数人に確認されている。

誰かに追いかけられる夢を見ている。追いつかれたら殺されることを知っている。暗い部屋の中に入る。内側から扉の鍵をかける。鍵をかけても、扉ごと壊されるのだから意味が無いことは知っている。追いついた誰かが扉を壊そうとしている。扉は、壊れるのに数秒を要するだろうと想像する。私の運命はこの数秒にかかっている。自分が今できることを急いで考える。近くに金色の光るものが見える。扉が開く音がする。 

トロフィーは凶器になるから凶器にした 春は変に温かくて嫌だ

十五分隔てて浴びているものが血からお湯へと変わった それだけ

実際に人を殺すことと、人を殺す話を書くことの間に、どれほどの乖離があるだろうか。
実際に死んだ人を見ることと、人が死ぬ映画を見ることの間に、どれほどの乖離があるだろうか。
知っている人が死ぬことと、知らない人が死ぬことの間に、どれほどの乖離があるだろうか。

探偵の言うとおりに覗いてみれば細工がしてあった切断面

夢の中で起きたことを、夢の中だけで起きたと断言できるようになったのは、何歳頃だっただろう。悪夢から覚めて安心できるようになったのは、いい夢から覚めて悲しくなるようになったのは、いつからだろう。

トロフィーを上半身は握りしめ少し離れている下半身

愛のあるところに、殺人は起きるだろうか。
殺人のあるところに、愛は起きるだろうか。
愛に包まれながらする殺人もあるだろうか。
殺人に包まれながらする愛もあるだろうか。

切断の理由は切りたかったから 桜の切り株からいいにおい

切ったあと抱きしめたりもしたかったけど そこは 良心っていうか

月日が経ち、

見て、それを思いだして、書く
【それぞれの間で十五年が経っている】

芸人が舞台袖から見ているよ あなたが出来る人かどうかを

たっぷりのバックダンサーを引き連れ祠の地下に入っていった

愛情により作られた合鍵が眠るあなたの部屋をこじ開ける

もし、自分が殺されるとしたら、発作的に殺されるのと、計画的に殺されるのと、どちらがいいだろうか。どちらの方がより、愛があるだろうか。愛がより多い方がまだ、いいだろうか。愛がない方がまだ、いいだろうか。

よりつらい方へと票が集まった主催者の想定の通りに

(ニュースから)咲いている桜の様子(ニュースから)死んだ人の様子

自分がしてきたことの全てを、生きている間に思い出しきれるだろうか。
自分がされてきたことの全てを、生きている間に忘れきれるだろうか。

心は心がこもっている方へ傾く。こもっていると思われる方へ。




(他過去作品)

Empathize

幸運






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