Topple/Taupe (50首)
Topple/Taupe 丸田洋渡
雲が明るいと初めて見えてくる笹の一角 全能の夜
分からないようにしてある本心がおまえに、分かるはず、ないだろ
○
限界を自覚できないところまで来ている ゼニス・ブルーの岬
渦巻いて湯気が天井まで昇り、少し濡れ、少しして乾いた
木曜に木が来る木が来る気が狂う木が来る直ぐに植える時が来る
噴水をつくるホースの裂け目にはホースと同じ色のテープを
半透明の半袖の服 生きるのが楽しかったらいいな蛍も
妖精は筆記体のように踊って読むように私は目で追った
エンドルフィン・むずかしいむらさきの文・読み狂う・眼前に深海
黒い港〈ここに来るのはよっぽどの物好きか本物に限られる〉
泡不足(甘味料に沈没船が使われた炭酸飲料の)
秋色のバニラアイスを唇にそれから舌にそれから喉に
浴びながら秋の鋏を研いでいた 小雨と弱いブルーライトを
茹でられた蛸は切られて照らされた屋台のおでん色の明かりに
煮卵のような大人へ 帰ったらリビングで自分を寛ごう
一夜漬けのたくあんみたい なら月を見上げている米粒が私
蜂蜜の速度で蜂蜜は垂れた 監視カメラが見ている部屋で
山茶花の蛍光のきらめきが遂にとどめの一撃となった深夜
リモコンの電池のことは頭から無くなっていた 雪泳ぐ闇
○
悪童が不意に未来を想うとき落ちるヘリオトロープの小瓶
二十年前の雷一発を死ぬほど思い出す避雷針
エメラルド 温室が再現する亜熱帯のみどりの発情期
○
年々太っていくラブホテル(ラブよりもホテルの方がメインの方の)
いま傍にいてくれるだけでよかった cotton candy こころ 筒抜け
良い気持ちを明明後日まで保ちたい。保つのが癖になっていたい。
ゆめでみたきみは早熟の操縦士それゆえに我慢も多かった
中庭に缶の紅茶が立っている。あなたが置いてきみが取るまで
きみに似た人を探して好きになる ストロベリー味のピンク色
アイドルは絶え間なく点滅している テレビでも 炬燵で寝るときも
瞑ったらあなたの顔が曖昧に sapphire 生きることに病みつき
脱臼は骨あるものに/中毒は癖あるものに/愛あるものに
きみの期待に期待している。紅葉が枯葉と呼ばれるようになるまで
蜜柑から風の音が聞こえたから風の蜜柑なんだなと思った
○
ともばたらきの親ともだおれ 遠くから入道雲の音が聞こえる
ゆがむ思い 立ち眩んで掴んだ秋の窓のクレセント錠・解錠
生贄を私が決めていいのなら即答できる状態にある
わたしときみがあなたになっていく朝のベッドのカーテンみたいなシーツ
子どもごころを殺して歩く ひまわりの並ぶ公園 殺して歩く
爆撃のかなしいメロディ 想像のピアノを想像の指で弾いた
友だちと歩道橋で待ち合わせた来ないんだろうけど待つつもり
ライトが複数だからライツか 飛び飛びのライツを頼りに商店街の夜を抜けるまで
愛で救える命より愛が殺す命の方が イルミネーション
シャッターが子どものために開くのをかつての子どもたちが見ている
コースロープに右半身を当てながら浮かんでいる夢浸しのベッド
かがやく幼少ながいながい生活の倦怠と氷河期のリハーサル
想像が氷の橋を架けるとき橋脚の強度は無視される
宝物庫の鍵は存在していない 存在しないのが鍵だった
緞帳の金の模様に込み上がる黒い思いを必死に抑えた
蝶のかたちの爆弾がひらひらと私の首元に来たようだ
○
リフレイン・オブ・スプリング ぼくたちは衒うべき記憶をもっている
〈他過去作品〉
Whisper/Wistaria
Stir/Scarlet
Lie/Lilac
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