短歌50首連作

　Float/Fluorite　　丸田洋渡


三十円多く払ったのはメロンソーダにアイスがフロートするから

天秤がうすくらやみに傾いてあなたの半覚醒の寝返り

　○

恋のふりして洗脳はよくないな雨雲が雨落とさず通る

心は遥か上に浮かんでコンビニの監視カメラに当たって砕ける

わくわく眠りどろどろ覚める　妖怪は町中にいるような気がする

花札が踊って話しかけてくる夢をよく見たハマりたての頃

寝る前になって今更よく分かる浮世絵の言わんとすることが

　◇

MCが引いたボールに書いてある地域に飛んでいく交通費

　◇　〈たんぽぽ島〉

たんぽぽ島唯一のプリンターからイエローが零れつづけている

おかしな村のおかしな家で食べられる人のかたちをしたクッキーズ

目の前の呉服店の従業員があなたを睨みつづけているよ

電波悪ぅ／夜／電波悪ぅ／景／ここで何ができるの？／こんなしずかで……

醒めていてそうでない振りをしていた月の庭に誰かが立っている

村は新ファミリーで連日連夜賑わった　神の気が済むまで

助けを呼ぶ　駆けつけてきた人たちが助けか追い討ちか分からない

町ぐるみだったらしいよ　剥がされたらしいよ　全部返したらしいよ

ああアコーディオンが体内にあれば救えた命だったというのに

　◇　〈水晶街〉

水晶街の闇取引は奥の手に眼球を使えば上手くいく

小松菜が安くなってたから買った　みたいに全身を買い戻した

でろでろと口からトランプが出てくるまるでそういうマジックみたいに

めずらしい檻を撫でると店員が行けると思ったのか寄ってくる

全体に奉仕／全体に奉仕／液晶に光がつくる首脳会談

小学生はジャングルジムに弱いからそれを逆手に取った地下街

改札機が生まれるときに助産師はまだSuicaを握りしめていた

折しも、雷が落ちた／貸切のボーリング場で目を覚ました

客席のペンライトみたいと思う一時代のアイドルは夜空を

　◇　〈ぶどう港〉

ぶどう港　ここで買えないものは無く、でもぜんぶ紫色だった

烏賊殺しが人に発展しないよう誓ってもらいます　厨房で

三角形が降りしきる町出身の子どもは球に憧れている

図書館になりたかったらなりなさい　大変よ　検索されるのは

水ドレスのヴェールを上げて野うさぎはペンギンに永遠を誓った

コスモスをホルンの中に詰めながら何だこの仕事はと思った

　◇　〈めがね池〉

天狗のお気に入りの扇子が風を生み舞ったてんとう虫のトランプ

箴言好きの鹿が静かになっていく光は森を包み隠した

今日の夜ざりがには幽霊化する。それまでに僕ができることを……

〈水がこぼれつづける器〉これもまた庭の伏線だと思われる

山茶花が鯨の声を聞いているそれが鯨のものと知らずに

めがね池　度があってないから夜に乱視用レンズが開花する

時が止まり、流しそうめんは流れず、空いた口は空いたままだった

　◇　〈？〉

夢という付加価値のこと　めずらしくドリンクバーの列が長蛇に

全員の産後しか見たことがないフェスティバル・緑のスムージー

救えるいのち　と書いたのぼりが揺れている　救えるいのち　の揺れは止まない

ノクターン・オブ・チルドレン　開けてきた全ての窓に風が通った

月の棚田　町のカラオケ大会は次からここでするべきでしょう

恫喝を録る手の中の録音機　見えた　古びた宇宙船から

いつかまた飛行船でトランプしたい　地上のホットケーキにバター

雨雲の高さで回るオルゴール　目覚めるせかいじゅうの怪獣

夢もまた夢をみるから何事も無く帰宅するのは不可能だ 

Last verse　夢の全ては銀蘚に包まれている　夢の銀蘚に

　○

パフェ〈フローライト〉を食べるためだけに喉の宝石化手術をした

〈過去作品〉
カラー・シリーズ