Invasion Patterns (50首)
新作の短歌連作です。
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Invasion Patterns 丸田洋渡
震えの水 矯正された子どもなら十年後には結果が分かる
インターホンを覗くべきでは無かったと思ったんだったんだったんだ
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(囚人の好きだった)金木犀の北限について調べている。
ダムを見に来た それ以外することはない あってはならないとさえ思った
霧の都市で霧の恋愛していたい左ウィンカーのハイフラッシュ
湖が彼の霊感源だった。その湖は今はもう無い。
書けば書くほど細かくなると思いきや、海が無辺際に広がった
White on Grey 海を見るには一人だと多すぎるから帰ろうとした
風/二連目が異常な詩/つむじ風/私がこの家族の舵手だろう
白と黒のソフトクリームの陰影 噫 帰り道のスイッチ・バック
八月の光を不意に呑み込んで不意に排泄した 人として
可能性/金魚のことば/浮遊感/金魚のゆめ/統制不可能性
フルートがあるべき場所にサックスとクラリネットが二つずつある
窓からの冷気が裸体へと降りて綺麗に肌を表から舐めた
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これを書いている私の手の甲に、三つの酷い蚯蚓脹れがあるのを想像できていますか?
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隣人は狂気を隠すのが上手い 匂いたつ窓辺のヒヤシンス
何の話 百合が咲いたと思ったら暗い車の中が映った
アンテナ設置業者と話が合ったとき後ろからソーラーパネルが来た
球場の或る観客は或る投手に死んでほしいと心から願った
天使のケーキと名乗るからにはごろごろと天使が入っているんだろうな
食器から食器が生まれはじめたら大きな棚が必要になる
絶対音感・瞬間冷感・庫内からレのフラットで聞こえる悲鳴
こーーーーーーんなに本があっても意味ないよ皆もこれを読んでいないと
鯨の可食部……鏡の可食部……考えて浴びている青い夜のシャワー
二分間夜と思っていた黒が人の眼と分かったインターホン
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帆を立てて通過するのが喉で分かる昨日貰った月の粉薬
満月で狂うのはcheap ぷかぷかとお酒の海を渡る盃
サンダルで夜の桟橋に座って眺める八つ裂きにされる雲
月化する手前で室内に戻る あんなもの 釣られてはいけない
difficulty 線路は海に進入しきらきらと魚群が浮いている
太陽錠剤 ふしぎと青い地下室に閉じ込められていた頃のこと
公園は震撼のさなか〈新しく開発されたゲーム〉救急車
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爪切りとホッチキスとを間違えて、
〈何をどうしてしまったと思う?〉
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目に悪い光が舞って〈数分が経って〉光に悪い目が舞った
この中に戦争が好きで堪らない人が紛れています \えーーーー/
想像力で動く飛行機 乗客はとんでもない空想をしている
降ってくる逆子がみんな泣いていて傘を差す気にもなれなかった
垂 れ るインク どんな催眠を掛けても拭えない思考 ruin and wink
ローズ・ローズ・うずくまったらぴったりの白い箱・剣・剣・錆びた剣
ゾンビは走る〈足が挫けても〉ゾンビは食べる〈それが恋人だったとしても〉
脳に座って人間を走らせた夜、警察に無免許で捕まった
愉快犯はリング・ドーナツ食べながら縁側で花火など見ている
串刺し(笑)の砂肝(笑)を歯で噛みちぎる 暗喩みたいな美味しさだった
あなたのことは〈ハートマークが〉知っている〈雪と一緒に〉つもり〈積もった〉
愛が溶、愛が溶、愛が溶けて、舌が凍、舌が凍、
舌が凍らせた夢
恋愛に恋してるだけ ゆでたまご色の夕日をまじまじと見る
美しい内容の事物を抱え こんな日に限って雨が降る
Speedster 全世界同時の誤射が私の部屋に飛び込んでくる
ぴかぴかの死体のような泥団子あしたも自慢しようと思う
/
書き慣れた文字が歪んで見えたなら
それ以上のことが起こるはず
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〈過去作品〉
Lie/Lilac
Blue, Blue, Diamond
うつくし
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