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Acceleration(30首)

 第65回短歌研究新人賞 落選作です。噴水とAIの歌の二首が本誌で引かれていました。
 現在、個人のネプリ「Eternity」80首を公開中です。ぜひそちらの方を印刷よろしくお願いします。

セブンは6/22の23:59まで、その他コンビニは6/23の17:00頃まで。40円で印刷できます。
もし期限が過ぎたが読みたいという方がいらっしゃいましたら、私のTwitterのDMでご連絡頂ければ用意致します。


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 Acceleration  丸田洋渡


何もかも変わりつつある地下鉄は順調に混迷を極めた

〈都会から〉と〈都会へと〉とが入れ替わる蜻蛉の背中みたいなホーム

新幹線 この乗り物は宇宙へと繋がっている気配だけはする

鮫が出る海 海が出る街 木で出来たカフェに飾られている鮫の絵

水平線がどんどん傾いて見える昼のヒヤシンスと乳母車

ヘリコプターの腹を見上げて遠くから呼ぶ声がした 空の方から

噴水のあたりを顔が飛んでいるくすんだオリーブの木の林

閃輝暗点/天使のような偏頭痛/AMラジオにノイズが走る

崩れたラスク──ゴシック調の廃れた部屋、その屋根裏──角砂糖のダイアモンド

SFに出てくる家族関係を把握するのはもう諦めた

法律が必死の追い上げを魅せる 雲に突っ込む空飛ぶ車

AIが代わりにやってくれるなら代わりに死んでもらうのも手か

日進月歩 買うまでもなく銃声を聞きたいときに聞けるYouTube

加速した先に待っているレトロ化(その逆もまた)光る月球儀

出しすぎたトイレットペーパーを見てVHSを想う数秒。

レモンスカッシュ 油まみれのテレビから世界終末時計のニュース

人伝いの怪談を聞く薄暗いキッチンの調味料横の嵌め殺しの窓

一昨日を推敲すれば今日になる 鯖の部分が秋刀魚になって

詐欺と分かる詐欺ならむしろ好ましい、かもしれない銀杏の並木道

まるで鰻屋 継ぎ足し継ぎ足し雪が降り過去が分厚くなっていくばかり

雪折れの枝を集めていつからか心に歯止めが効かなくなった

内側が凍っていると気付くとき車の空調は政治的

Acceleration 透かせば新しい文字がわんさかわんさか出てくるカーテン

五年かけて言葉の意味が腑に落ちる 誰のことだか忘れたころに

氷漬けのヒーローインタビュー 雪に不法投棄されたテレビから

飛行機を飛ばせるという快感がコックピットを漏れだしている

Telepathy 昨夜の夢を思いだすあなたは磨りガラスの向こう側

地下鉄に理解が及ばなくなったらあなたに読ませたい本がある

トーストして待つ。四枚切れの食パンを、四枚とも。跳ね上がるハネムーン

数万年後。宇宙に浮き上がっている防犯ブザーがひとりでに鳴る

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 本作は、笹井賞に応募していた「Slow Speed」の時期に同時に制作したもので、加速、について考えながら作ったものです。違和感、をイメージして作りましたが、ふつうの読者にはただ読みづらいだけに映るかもしれません。思えば、受賞作なるものを読んだときに、読みづらかったこと、はあまりありません。読みやすくて爽快、読みやすい悲痛。もう少し読みやすく書くべきなのだろうと、毎度毎度落選する度に思います。
 でも、自分は読みやすいもの、にあまり魅力を感じません。読みやすく書くのは簡単なことだからです。逆に、読みにくく意味を切断してランダムに書くことも、同じくらい容易です。理屈が通っているのに、何故か読みづらく、ふつうでは無い違和が意味や言葉や立ち上がる光景で生じる、そこに真理というか、僕の書きたいものがあるなと思います。
 目標ばかり書いていても意味が無いので、こつこつ作品を書いて示していきたいと思います。とりあえずネットプリントの80首〈Eternity〉を読んでいただきたいです。第三滑走路13号に載せた100首〈Ephemerality〉と対をなすものとして書きました。永遠であること、時間が続くこと、その上で生きるということ、垣間見える違う世界の時間のこと、などなど色々考えながら書きました。本当は、「Slow Speed」と「Acceleration」の加減速とセットのつもりです。誰もそこまで全て読んでくれる人はいないと思いますが。

 長くなってしまいましたが、読んでくださった方、本当にありがとうございました。すぐにまた作品をあげると思います、よろしくお願いします。

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〈他過去作品〉

Blue, Blue, Diamond

うつくし

MOONLIT

Stir/Scarlet



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