Blue, Blue, Diamond (50首)
新作の短歌連作です。
何卒よろしくお願いします。────────────
Blue, Blue, Diamond 丸田洋渡
殺す夢 殺される夢 生き返る 殺される夢 殺す 殺す夢
○
起きたてのひとさし指で眼球を目蓋ごと擦った十五分
奥二重〈水辺を発った水鳥の〈逆光〉群れが崩れていった〉
睡魔さえ眠りに落ちる夜が来る港に咀嚼音ひびかせて
○
記憶から夜がさっぱり抜け落ちて二本の 歯ブラシが二本ある
○
夜のあなたは、あなたじゃないみたい。生まれ変わったみたい。怖かった。とても。
今のお前の方がいいよと言ってくる口が過剰に湾曲している
駅前にいた親友に手を振ると首を傾げて走っていった
友だち
嫌なことがあったなら聞くよ 一昨日の夜とか大変だったんでしょ?
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〈一昨日〉
低音が胎動になって生まれるかと思った春の冷たい車内
*
やっと起きたか、もうすぐ着くぞ 昔から君が行きたがっていた場所だ
目隠しを外す
〈睡蓮の部屋〉に時計は七つあり、七つとも好き勝手動いた
彼・彼女たち
名乗ろうとしなくていいよ 本名を知る前に死んでしまうんだから
明日はよろしく ウィンクをして去っていく彼が入った〈梔子の部屋〉
○
巨大洗濯機の異音 外は雷雨 監視カメラは故障中ときた
○
起きたての世界はブルーかホワイトかグレー 上昇するハートレート
''彼''
せっかくの眠りが水の泡(一人減ったところで……)血の海の匂い
探偵より探偵役が必要だ 色としては夕暮れの丸窓
*
これはまだ初歩的な密室だから君が解くといい 氷・糸・窓
犯罪に美醜など無い 銀色のアクアリウムの偽の太陽
缶詰のカレーを(あいつさえ)湯煎してくれて(いなければ)いいのに
彼・彼女・彼・彼女
眠いので寝ます。 彼らはぐらぐらと〈文目の部屋〉へ歩いていった
○
陶芸は狂っているか冷静かその二極 夢に指紋が残る
○
罪人のシルエットは天使 シーリング・ライトが照らす四つの死体
Best Before (豹が脳裡を駆け抜ける)死斑がまだ美しかった頃
彼女
夜に歩いて何をしていたの? 私には(夜の)あなたが(夜ごと)怖い
そう言われても
二人になっても恋愛の可能性は零。運命的な出会いではあっても。
かがやきで見えなくなっている詭弁 失神は神を失うと書く
象に鼻(取ってつけたような言い訳)麒麟に首(みやぶる)人に口
愛したいクリプトグラム 麻雀のルールで将棋をチェスしてみよう
アクア リウム テトロド トキシン 漲って 遮った サイレン ユーフォリア
*
君がいつか死に相応しくなったとき、そのときのために取っておきなさい
Luminously 推理を披露するまでの時間をたっぷり眠りに使う
最終局面 なりふりなんて構わずに生に淫していたかった。
地下室の扉のように見えていた屋上への扉 Sunset
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アムネシア 愛の技術が手に残り手は愛の対象を探した
謎のまた奥に大きな謎がある謎解きの憎いテンプレート
金平糖のピアスがあった百貨店(潰れたが)ピアスは売れたかな
空中の意表を突いて鳥が飛ぶゼリーごと飲み込む飲み薬
Figure out 注射器を水鉄砲の代わりに遊んでいた小五・秋
''友だち''
繚乱のあなたがくれた花の絵は私の嫌いな花だけだった。
あの硝子の先にあなたの母がいる あなたのことを話しているよ
非現実的現実が押し寄せるアイスは喉で食べ頃になる
どうせまた折れる傘でも 繰りかえす私のひどく慎ましい夜泣き
*
敢えてまだ話していないことがある。聞かずして先に死なないように。
そのときを静かに待っていた夏は秋の奇襲へと身を委ねた
変に肩が凝るのはつまりそういったことなのだろう love my world
利き手では無い手でドアを開けたとき転がってくる私の死体
○
空はブルー 憂鬱が気化していって未来を夜が庇ってくれる
夜
足音が聞こえる(私はダイアモンド、)揺れる空気(ダイアモンドだから……)
了
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〈他過去作品〉
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