「死ぬまへの花」より
[自選20句]
星も死ぬこと鉄鎖それぞれに冬
腰に触れた手そのままに冬終る
殺すからしっかり死ねよ泣くなよ
水死した水も在りけり秋の海
紅葉重なるように息がしづらい
夏が来て魔法唱えられなくなった
先生も浴衣になってゐる夜だ
水がはねている触れていないのに
知らない名前の鳥の死苺食う
大瑠璃や鬼の歩ける遠野郷
みづの輪郭おだやかに海月しぬ
食べづらい紫陽花青が多すぎる
百合潰し結び直してしまひけり
たんぽぽが好きでここまで逃げてきた
大人しくしろ春の海鳴りが くる
手のひらのなか初蝶のすぐ狂う
海が嫌い ときどき話すくらいなら
気まぐれに花を撫であう遊びかな
胎動は咲かない花の息切れ
死ぬまへの花の震へを止めてをり
[自選17首]
紫陽花がくずれる前に燃えなさい 青い湖水は火種となって
静脈の弁を気にして水門の開放少しためらっていた
潔く爆ぜた花火のしだれゆく ああ、友だちの家が燃えそう
花びらをちぎる戯れかわいそうだからやめよう言おうとはした
美しい花瓶の水のように君そろそろ腐っていくよ静かに
階段の途中必ず踊らなきゃ通れない場所 夏の踊り場
木でできた小舟を借りていいですか簡単に沈んでいくやつを
もう壊せない本棚を組み立ててもう壊すときのことを思う
殺したいから赤くなる夕焼けへ 遠慮はせずに私を選べ
かくれんぼ上手に隠れすぎちゃってまだ誰も来たことがない夢
気がつけば過去の記憶は美化されてああ生きるって綺麗、かなしい
コスモスに埋もれて死んでゆくふりを二人でしたね曇っていたね
愛すとは赦すことだと知っていた。グレープフルーツやっぱり苦い
ことばには賞味期限があるようで切れかけのしあわせはどうしよう
消すよりも忘れられるほうが後でマーガレットはひかりつつ咲く
これからも会わないために会う場所がこんなに綺麗だとどうしよう
もうこれで最後といわれても私どこがはじまりなのか知らない
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