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不都合な真実 カッコいい自衛隊に気をつけろ7 愛国者学園物語149

ジェフの熱弁は続く。

(中略)


 自分の意見を主張することをためらいがちな日本人や、あるいは私のように米国人でありながら日本を愛する人間は「カッコいい自衛隊」にこだわって、不都合な真実に目をつぶっていないだろうか。自衛隊を応援しようと思うあまり、その問題点を無視してはいないだろうか。もし、自分たちを守ってくれる自衛隊に『問題』があるとしたら、国民はどうそれを正せばいいのか? 組織の自浄作用に頼るのか。暴露報道を得意とするメディアに記事を書かせるのか。それとも、自衛隊がその問題で大きな犠牲を出してから、やっと、誰かがそれを修正しようとするのだろうか。

自衛隊の失敗談を公開せよだなんて、彼らに対して無礼だ。
そういう要求には、情けというものが感じられない。
日本人ならそういう失礼なことはしない。

 私はウニの寿司を愛する親日家として、流暢に日本語を話す人間として、日本にはそういう「義理と人情と浪花節(なにわぶし)」あるいは「空気を読む気持ち」があることを理解している。それが良い人間関係を構築することは事実だが、度が過ぎて、失敗や犯罪を隠す原因になることもわかっている。

 だが、失敗を語れない社会や組織は必ず腐敗し、それはさらに大きな失敗をもたらす。もし国家が大きな失敗を隠蔽すれば、それは大量の国民の命を奪うか、国家の破綻につながるであろう。それではダメなのだ。

 自衛隊が健全な軍隊であるために、また、日本が健全な民主主義国家であるために、自衛隊の情報公開は重要だ。

 

 残念なのは、自衛隊に関する情報公開だけでなく、日本政府の情報公開制度は不十分で、決して満足出来るものではない。その情報公開制度を利用して政府の文書を取り寄せても、それが黒塗りされていることが多い。

それが、広げた海苔のようだから「のり弁」というニックネームまである。

 または、日本政府の公文書管理とその公開制度は欧米のそれに比べて貧弱である。それは日本社会に文書資料などを管理・保管する専門職アーキビストがほとんど見当たらないことからも、そうだと言える。ついでに言えば、司書も学芸員も、日本ではその数が少なく、社会的地位も経済的地位も一部を除いて低い。残念なことであるが。彼らのような専門家が文化を支えているのだが、日本社会は彼らをほとんど育てようとしないし、その重要性も理解していない。

 それではいけない。かつて、自衛隊のイラク関連日報を集めた本が出版された。それを読むと、イラクで自衛官たちがどんな日常を送っていたか、わかる。私には、その多くは隠すほどの内容だとは思えなかった。

(中略)
 問題はそれだけではない。日本人の多くは批判を非難だと思い込んでいて、それを好まないうえに、社会的立場が自分より上の人間の意志や集団の多数意見に流されやすい。日本社会には同調圧力があることは事実であり、日本人は多角的な視点で物事を見て判断する批判的思考が弱い。だから、彼らは怪しげなインフルエンサーや、テレビのコメンテーターの話を信じ込んでしまうのだ。自分で考えるよりも、誰かの意見を鵜呑みにした方が楽だからである。

 加えて、日本のマスコミは記者クラブで政府とつながっており、政府の意向に左右されやすい。そのためか、

報道の自由度ランキングで日本は先進国の中で最低レベルである。

2021年度のそれは、180の国のランキングで67位であった。これはブータン、モンゴル、コートジボワールと同じレベルである。米国のそれは44位で、韓国や台湾は米国と同じレベルであった。だから、日本人の批判精神やジャーナリズムには期待出来ないかもしれない。

 厳しく言えば、「キレイな自衛隊」「カッコいい自衛隊」「強い自衛隊」「だけ」を欲しがる日本人たちは、真実をゆがめ、事件を隠蔽しかねない。

 そのような態度は結果として、自衛隊と日本社会に大きな損害をもたらすだろう。その損害がカネの問題なら、どうにか解決出来るかもしれない。しかし、兵器の性能やその運用、戦略に問題があれば、それは自衛隊と国民に大きな犠牲をもたらすことは明白である。


 私は自衛隊を馬鹿にするために生きているのではない。人を馬鹿にするために生きる人生は無意味だ。私はジャーナリストとして、あるいは民主主義の社会で生きる人間として、当然の権利である、政府や軍隊への疑問を素直に口にしているだけだ。世の中の自衛隊ファンは、自衛隊を愛するあまり、その問題点を隠す手助けをしてはいないだろうか。自分たちに都合の良い話だけを選んではいないか。

 21世紀の今はインターネットによる情報発信が全盛の時代である。だから、自衛隊のsnsは自衛隊関係者の見た目の良さとか、爽やかな話、任務に励む様子を熱心に発信している。しかし、それが爽やかさを追求すればするほど、現実との落差が開くであろう。もし関係者に悪意があれば、彼らは爽やかな自衛隊のイメージ『だけ』を世間に流し、自己反省や問題点については口をつぐむかもしれない。なぜなら、『爽やかな自衛隊』に不祥事や問題点はあってはならないからだ。

 結局、自衛隊の問題点を公表して考察を加えるのは、いつも、暴露系メディアにたまに出る記事か、かつて自衛官だった人物が何十年か経ってから回想まがいにする話だ。防衛省の各組織や自衛隊各部隊のツイッターアカウントは無数にあるが、そのどれに、自衛官の不祥事や情報公開の問題について語るものがあるだろうか。日本には「朝雲」「防衛日報」「防衛ホーム」「MAMOR」(まもる)などの防衛省・自衛隊関連の情報メディアがあり、盛んに情報発信をしているが、

それらは自衛隊の不祥事や問題点などを報道「出来る」のだろうか。

 軍隊はなんでも機密に出来る。だから、兵器の問題点も、将兵の不祥事もなんでも隠そうと思えば、隠せるのだ。そして、それが結局、国民の知る権利を損ない、軍隊に対する信頼をも傷つけるのだ。そして、それらの問題点を放置すれば、それは将兵の犠牲を生むことは書くまでもあるまい。


(中略)
 これは自衛隊に限った話ではないが、社会に爽やかな印象を与えるSNSばかり見ていると、その発信者の実像を見誤る。情報発信者が、自分に都合の良い情報だけを世間に流し問題点は無視するか、メディアに圧力をかけて報道させない手法は、世界のあらゆる国、あらゆる組織が行っている。

 また企業や組織の広報担当部門は、自分たちに都合の悪い情報を公表しなければならないときは、手の込んだ手法を使うことがある。だから、広報担当者の言動が必ずしも信じられるとは言えまい。例えば、芸能関係の広報担当者は、例えば、自分たちの事務所のタレントの不祥事について情報を出すときは、金曜日の夜にすることが多い。週末の前なら、それに関心を持つ人が少ないことが経験上わかっているからだ。


 ホライズン・メディアの記者たちは、世界各地のあらゆる組織の広報担当者たちに会ってきた。彼らの多くは親切だったが、そうでない人間たちも多かった。広報担当者たちが嘘をついたり、ノーコメントを繰り返したり、こちらが質問をすると、相手がヒステリーを起こすこともよくあることだったからだ。だから記者たちは傷ついて戻ってくるのだが、私はいつもある言葉を言って、彼らの苦労をねぎらうことにしている。それは、「真実をつかむということは大変難しい。君たちの苦労は無駄にはならない」と。

(中略)
 ジェフは話をまとめ、自分たちに「好ましい情報」だけを集めることがいかに危険であるかについて語った。

 そして、「結局、そのような態度が大きな犠牲を生む。それが、過去の歴史や失敗談から学んだ私の持論である。

 私がここで長々と綴った『カッコいい軍に気をつけろ』『カッコいい自衛隊に気をつけろ』は、重要な問題を提起していると自負する」と結論した。


続く


これは小説です。

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