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神軍と戦場の真実 カッコいい自衛隊に気をつけろ3 愛国者学園物語145


 次にジェフが題材にしたのはヒットした1987年のドキュメンタリー映画「ゆきゆきて、神軍」だった。後に、ある読者は以下の文を読んで気分が悪くなったので、ジェフに直接抗議したが、彼は冷静な声で言った。「あれが戦争の真実なのです」と。読者はジェフの落ち着いた顔を見て、それ以上何も言わなかったそうだ。
(中略)


 この映画は、旧日本軍の元兵士が、現在のパプアニューギニアで遭遇した「ある事件」を追求するという内容なのだが、その元兵士が破天荒な人間なのだ。

 戦後、彼は傷害@@事件で有罪になり、10年以上牢獄で過ごして出獄。その後は@@を侮辱するようなビラをばら撒く、あるいは、正月に皇居での一般参賀で@@にパチンコ玉を発射した等々。彼は、左派の一種である無政府主義者=アナーキストであり、@@@@の戦争責任問題を叫ぶ、右派と公安警察からしたら嫌な人間である。

 そんな男、奥崎謙三が追求する「ある事件」とは、終戦直後、つまり、戦争が終わったのに日本兵が処刑されて、飢餓に苦しんでいた仲間たちが@@を食べたというものである。当時のパプアでは旧日本軍は飢餓のため壊滅的状態にあり、奥崎たちの部隊もほとんど全員が@んだというこの世の地獄であった。だが、仲間たちは生き延びるため、敗戦後にも関わらず若い兵士を@@して、@@@。あるいは、@@@@などの@を食べたという。

 このショッキングな出来事は、それから40年ほど経過した、この映画の撮影当時でも奥崎や関係者を苦しめていた。奥崎は部隊の関係者たちの元を訪問しては真相を話すよう説得し、時には乱暴までして、その事件の真実を明らかにしようとした……。だが、彼は関係者の家族を銃撃して重体にしてしまい、また投獄されたのだ。

 このような内容にもかかわらず、この映画はヒットし、日本だけでなく、世界各国の映画祭なので数々の賞を受けた。制作総指揮が、カンヌ映画祭の最高賞「パルムドール」を二回獲得した今村昌平だったから、成功したのかもしれない。
(中略)
 この映画を見たジェフは以下のように感想を述べた。こういう映画を作り公開出来る社会には、民主主義があると私は信じる。だから、私は日本を称えたい、と。そして、奥崎が暴力沙汰を起こしたことは残念であり、それは許されるものではないとも書いた。ジェフの感想はそれだけにとどまらず、ある2つの話題について、長々と書いた。
(中略)

 この映画で印象的なのは、ある戦死者の母親の場面と、奥崎の墓参りの場面だ。

 その母親が歌う曲、それは戦後に流行した「岸壁の母」である。対ソ連戦争に参加したことで彼の地に抑留された我が子。歌は、京都府の舞鶴港で、彼の帰還を待ち続ける母親の気持ちを歌ったものだ。戦後、我が子があの寒い国から船に乗って帰ってくるのではないか、そう思う母親は港の岸壁で待ち続ける。それは当時の日本では決して珍しい光景ではなかった。二葉百合子が歌って大流行したその曲を、今の時代の日本人は知っているか。サバイバルゲームの愛好者や、自衛隊が好きな若者たちはその曲を知っているだろうか。

 この映画に登場する母親も、南方諸国の戦線で戦っている息子の帰宅を待ちわびたのだろう。だが、それは叶わなかった。乱暴者である奥崎も、この母親の前ではとてもおとなしく、まるで自分の母親に接するかのような態度を見せたことが印象的だ。
 奥崎は戦死者の墓参りで、墓前に飯ごうで炊いた白米とおかず、それに梅干しを供えていた。その昔は、白米だけの食事は珍しく、「銀シャリ」と呼ばれることもあった。銀シャリという言葉は今でも使われることがあるが、白米のご飯を珍しいという人なんて、21世紀の日本では少ないだろう。しかし、戦争のころは、白米100%のご飯はいつも食べられる物ではなかった。昭和天皇ですら、白米に麦や乾燥野菜などを混ぜたものを食べていたのだ。

 奥崎たちは@@を食べるほどの飢餓に苦しみ、部隊の兵士の大半が@ぬほどの極限状態を生きた。そういう地獄から帰還し、戦友の墓前に銀シャリとおかずと梅干しを備えるということが、奥崎たちにとってどれほど辛いことだったのだろう。旧日本軍の将兵たちは、飢餓や病気で死んだ者が多かった。旧日本軍が兵たん・補給をしっかりと実行していれば、彼らの多くは助かっただろうに。
(中略)

 そして言うまでもないが、白米に梅干しを添えた物は、日の丸弁当である。日本の国旗を模したものであり、戦時中、日本国内にいる国民は決まった日に日の丸弁当を食べて、戦地で戦っている将兵のことを思ったそうだ。そして、奥崎のお供え物も、日本のために死んだ仲間を思う、日の丸弁当だったのであり、彼なりの精一杯の供養ではなかったか。私は奥崎の乱暴な行動には賛同はしないが、彼には戦友を思う優しい気持ちがあることは、この場面を見て感じた。

(中略)

 私が自衛隊に対する批判に、この映画を例として取り上げた理由。それは、今を生きる日本人に戦場の真実に向き合う覚悟があるか、ということだ。

 自衛隊も今後、海外での戦争や紛争の現場において戦闘に巻き込まれ、相手を死傷させるか、隊員を失うだろう。爆弾を抱えて接近してきた子供を、やむを得ず正当防衛のため射@すれば、それはスキャンダル的なニュースになろう。世界には、少年兵は少なくない数、存在するからだ。だが、もし、現場の人間が大事になるのを恐れて、その事実を隠したら? あるいは、また、現場で不祥事が起きたら、幹部たちはそれをどう扱うだろうか。米の作家、ネルソン・デミルによる「誓約」(1985)は、ベトナム戦争で米軍部隊が引き起こした@@事件と、その隠ぺいに関する小説であるが、それを同じようなことが自衛隊に起きるかもしれない。それが発覚した時、自衛隊、あるいは日本社会はどうなるだろう。

 政府や自衛隊関係者はその不祥事を黙殺しても、もし当事者が口を開いたら? 彼、ないし彼女は防衛に関する機密を口外したとの理由で処罰されるのだろうか。そして、政府はそのような出来事を無かったものか機密扱いにし、記者クラブで政府と密着している、日本のマスコミもそれに同調するのだろうか。もし、海外のマスコミの報道や、相手国の人間による告発で、その不祥事が世界に喧伝(けんでん)されたら、その時、日本はどうするだろうか。

(中略)

 ジェフのこの感想文には、無数の非難が浴びせられた。海外に派遣された自衛隊が飢餓に苦しむというのか? 自衛官が@@を食べるとでもいうのか? 自衛隊に関する文章にこのような映画の感想を混ぜることはおかしい、岸壁の母と自衛隊は関係ない、奥崎のような人間と自衛隊を絡めることは自衛隊に対する侮辱だ、などであった。加えて、ジェフを馬鹿にする言葉が無数に届いた。だが、彼はそれらに負けなかった。

続く

これは小説です。私はこの145話で「ゆきゆきて、神軍」を取り上げましたが、奥崎に共感しているわけではありません。彼は左派、私は右派。

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