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ジェフへの怒り            愛国者学園物語150

 ジェフはこの「カッコいい軍隊に気をつけろ」と「カッコいい自衛隊に気をつけろ」で、日本人の友人を数多く失った。日本人からすれば、彼は知日派の米人で、日本語が大変に上手で、寿司が、特にウニが大好きだから親しみやすかったのだ。だから、ジェフは多くの日本人に囲まれていたのだが、そういう人たちの大半は姿を消してしまった。

 ある者は、この一連の文章が日本人と自衛隊を侮辱した、戦没者を馬鹿にしたと、繰り返しSNSに投稿した。彼いわく、「特攻以上に崇高な行為があるか! 特攻隊で散った英霊たちは祖国を守った神だ。あの方々を否定するのは侮辱するのと同じこと。許さない。戦没者を馬鹿にするのは許さん、恥を知れアメリカ人め」。

 政治家たちも腹を立てた。某国会議員は、自衛官たちに対して無礼極まりないと激怒した。彼は自分の派閥の集会で、「こいつの首を獲れ!」と叫び、外務大臣は米国大使を呼び出して、ジェフへの怒りをぶちまけた。総理大臣は米国に媚びる人間だったので、この話を無視した。

 ジェフに対する非難で多かったのは、自衛隊関係者と名乗る人物たちからだった。いわく、この外人は自衛隊のことを知らない、部外者に部隊のことはわからない。お前は外国のスパイだ、日本語が上手だから、とか、自衛隊の評判を傷つけて貶める工作員だ、などというものだった。また、ジェフに対し、そういう言動をする人間は反日勢力だ。私は自衛隊の高官だから、自衛隊の防諜機関である

自衛隊情報保全隊

に、お前を監視するよう命令した、という内容の手紙を送ってきた者、SNSのあらゆる媒体に同様なことを書いた者たちもいた。

 無数の批判者の中には、わざわざ動画を作って自衛隊がいかに素晴らしい軍隊かを論じる者たちや、ブログで反論らしき文を公開する者、ジェフの文章が長いことを皮肉る連中も多数出現した。

 彼がよく足を運んでいた寿司店からも出禁をくらった。それは、店に抗議の電話などが殺到したからだが、それでもジェフは挫けなかった。それは彼には世界的なマスメディアを仕切る代表者としての、そして、日本をこよなく愛する人間としてのエネルギーがあった。だから、ジェフは社会で無数に生まれた侮辱的発言に、あるいは、彼の殺害を公言して逮捕された人間たちの存在にも負けなかった。

 彼への反発は日本だけで済まなかった。ホライゾンの欧米各国の支局に所属するジャーナリストたちからも、強い非難が湧きあがった。その多くは、ジェフが、つまり国際的メディアグループのCEOともあろう者が、特定の国・日本にあまりにも入れ込んでいることに、怒りを感じたもの。あるいは、第二次世界大戦で米国と戦った日本の戦争映画を題材にするなど正気の沙汰ではない、というものだった。

 特に激しく反応したのは、ホライズンの米人記者アマンダ・シュナイダーである。

 彼女はジェフの姿勢を厳しく追求した。彼が日本の戦争映画について長文を書くことは、マスメディアの代表にふさわしくない。日本の戦争映画は日本人を賛美する内容であることは明白だ。日本のプロパガンダなのだ。そういう映画を新入り記者の教材にするとは、当時の大日本帝国を、世界を戦争に追い込んだ枢軸国の一つを支持することと同じである。

 ジェフが日本の被爆者の映画を支持するなら、彼は、原爆投下で救われた無数の人命についての映画を作るべきだ。原爆投下を決断したトルーマン米大統領やB-29の乗員は、無数の人命を救ったのだ。彼らが原爆を投下しなかったら、大日本帝国は国民を数千万人も動員して、地獄のような戦争を続けただろう。だから、米国とジェフはトルーマン大統領たちの決断や行動を讃える映画を作るべきなのだ。そうしなければ、私はジェフを日本の工作員とみなす。とまで言い放った。

 そして、ジェフへの非難を公言してから半年もしないうちに、彼女は仲間たちを連れて、ホライゾンを退職し、新天地を目指した。やがてシュナイダーは、米東海岸のある大学で20世紀の歴史を教える准教授のポストについた。そして、米国による日本への原爆投下に賛成との立場を大々的に公表して、「救世主トルーマン 原爆投下で世界を救った大統領」を出版した。
その題名にある「救世主」という言葉に世間は驚いたのか、その本は良く売れて話題になった。シュナイダーは自らが白人至上主義者であることを隠さず、米国を世界最高の国であり、世界で唯一の超大国であり、リーダーであると賞賛した。様々な思想や人種、文化を受け入れている米国社会は彼女の増長に危機感を感じたが、政治家たちの多くが乱暴なトランプ主義と米国至上主義にとらわれていたので、シュナイダーへの危機感は社会問題にはならなかった。

 このように、ジェフへの怒りは様々な場所で爆発した。それを目の当たりにしたジェフの妻は青ざめたものの、夫を信じる気持ちは微動もしなかった。しかし、夫と同じく親日家である彼女の心は、日本を想う心は揺らぎ始めた。ジェフは彼女が好物のステーキを食べる時、いつものように大好きな霜降りの和牛ではなく、米国やオーストラリアの脂分が少ない牛肉を選ぶようになったことで、その心中を察したのであった。


続く

これは小説です。ジェフについては、以下をどうぞ。

「カッコいい軍隊に気をつけろ」は、


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