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21世紀の零戦 カッコいい自衛隊に気をつけろ6 愛国者学園物語148

 ジェフは続けた。

 例えば、海上自衛隊の哨戒機P-1だ。これはエンジンも含めて全て国産の飛行機である。それなら、日本人の誇りになるのだろうが、実際の稼働率は異様に低いことが報告されている。しかし、その事実はWikipediaの日本語版には書かれていない。そのような都合の悪い情報は、誰かが消してしまったのだろうか。また日本政府はこの飛行機を諸外国に売ろうとしたが、それらの国はみな米国の哨戒機を採用した。P-1はエンジンが4発、米国のそれは双発である。つまり、P-1はメンテナンスの手間がかかるということだ。開発当時の防衛庁長官はこの飛行機の開発推進に異議を唱えたが、自衛隊関係者の強い反発に遭い、押し切られたという。

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 陸上自衛隊は、3種類の戦車と1種類のタイヤ式戦車(16式機動戦闘車)を運用している。つまり、陸自全体で4種類の戦車を運用しているわけだ。それはメンテナンスのコストや、現場の隊員の手間が増えることを意味しているのではないか。

 そして、最後は、21世紀の零戦ともF-3戦闘機とも言われる、日本の次期戦闘機開発計画だ。

 これは2035年ごろの実用化を目指して、新しい戦闘機を導入しようという計画である。だが、それを日本が自主開発するのか、他国と共同開発するのか、共同開発なら、どの程度を日本独自のものとするのか、まだ議論は尽くされていないようだ。果たして、日本が独自の戦闘機を開発する必要があるのだろうか。日本が操縦席やエンジン、戦闘機の脚部をゼロから開発する必要があるのだろうか。日本がそれを製作しても、予定される必要な機体の数はわずか100機ほどだ。だから、大量生産によるコストダウンは無理であろう。それは価格の上昇をもたらし、国民の税金を浪費することにつながる。私は英国のまわし者ではないが、日本は、英国の「テンペスト」戦闘機開発計画と手を携えて共同開発するのが良いと思う。


 私が気になるのは、政権与党のある政治家の演説である。2018年3月に、吉沢友康議員が行った演説は驚くべきものであった。

 彼は、この戦闘機の開発について、製造費が1機につき300億、400億円かかろうと構わない。

 政府はいくらでも予算を投入出来る。それに戦闘機の開発には無数の企業が関わるので経済的な恩恵や技術的な波及効果は大きい。だから、政府はいくらでも予算をつぎ込むべきなのだ。

 21世紀の零戦を、世界一の戦闘機を作り、世界にメードインジャパンの素晴らしさと、恐ろしさを見せつけるべきだ。

 私たちが次期戦闘機計画を推進することこそが、私たちが愛国者であり愛国心を持つ人間であることの証明になる、などと主張したのである。彼は日本人至上主義者なので、そういう愛国心を鼓舞するような演説をしたことは容易に理解出来る。だが、メードインジャパンの恐ろしさを見せつけるなどという主張には、悪い意味で驚いた。同議員はそういう「愛国的」な発言をする人物だとは知っているが。

(中略)
 日本が最近導入したF-35戦闘機ですら、価格が150億円から170億円程度なのに、その2倍、3倍近い戦闘機を日本が作る必要があるのだろうか。F-3に過剰な性能や機能を要求しているだけではないのか。

 (ジェフはここで、かつてある政治家が、日本のスパコン開発に対して言った、2位ではだめなのか、という話を紹介した。そして、この国産戦闘機開発も、間違いなく『世界一』という文言に踊らされて、高価で過剰な性能を思い求めるに違いない。そして、開発計画が肥大化して、その製造コストが激増しても、誰もそれを止められず、結局、とんでもない代物が出来るに違いない、と断言した。そして、多くの航空機開発計画で、その開発期間の度重なる延長と製造コストの増大が、実際に起きていると付け加えた)
(中略)

 私は吉沢議員の演説を聞いて、F2のエピソードを思い出した。F-3戦闘機の先代であるF-2支援戦闘機は、米国のF-16戦闘機をもとに日本が開発した飛行機だ。だが、これはエンジンが単発で機体も大きくないので、兵器や電子機器の装備の拡張性に欠けるなどの弱点があったそうだ。それゆえ、ある防衛庁長官はその製造中止を決定したが、彼のもとには、「平成の零戦とも言われる国産戦闘機の開発をやめるなど愛国心に欠ける」という非難が届いたという。

 国民の命の問題につながる兵器開発が、事実をもとにした冷静な判断ではなく、愛国心という、私に言わせれば『激情』が支配する。

 それは危険なこと、あってはならないことだ。愛国心が事実や論理的思考に基づく議論、それに倫理を駆逐するような社会は危険としか言いようがない。愛国心のような冷静さに欠ける精神は、敵国の挑発や自国民の空想的世界観、あるいは敵に対して抱く被害妄想のために『燃上しやすい』。愛国心という激情が支配する社会において、私たちの理性はどこまで耐えられるだろうか。

(中略)
 私は日本には、零戦神話があると確信している。それは、日本は物凄い工業国であり、どんな製品でも作ることが出来る。その象徴が零戦だ。そして、それは世界最高であり、それを作る日本人も世界一なのだ、というものだ。私に言わせると、そのような神話も、日本と日本人を世界最高のものとし、そうでない人間たちを見下す日本人至上主義の一つだ。だが、それを理解している日本人は少ない。そして、零戦神話も日本人至上主義も、21世紀になって大きく育ってきたのである。
(中略)

 自衛隊や日本製の武器を絶賛する人は愛国心にあふれる愛国者に違いない。だが、もし自衛隊に誤りがあったら、日本の武器に問題があったら、そういう愛国者たちは、それらを無視するのだろうか。

 それらの問題点のせいで、自衛隊に多大の犠牲が出た、あるいは膨大な額の税金が無駄になったとしたら。それでも愛国者たちは、自衛隊や日本製の武器を絶賛するのだろうか。犠牲が出ても、税金を無駄にしても、愛国心のため、祖国防衛のためなら、なんでも許してしまうのだろうか。私は米国人だから、私にはそういう問題は関係ない、どうでもいい問題なのかもしれない。だが、私は日本が好きなのだ、だから、こうして書いているのである。


続く

これは小説ですが、登場する兵器は実在します。F-3戦闘機(F-2後継機)は現在開発中です。

P-1哨戒機の写真は私が2018年に撮影したものです。

この意見を述べているジェフとは、主人公の三橋美鈴(みつはし・みすず)が働いているホライゾン・メディアのCEOです。


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