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【映画雑記】「偶然完全 勝新太郎伝」を読んでブルース・リーを想った。

 勝新太郎の評伝「偶然完全」を読んだ。

 ブルース・リーが六本木の勝プロダクションに来て、今度自分が出る映画に悪役として出演してほしいと直談判しにきた、という逸話が前書きでさらっと出てくる。ブルース・リーファンの間では有名なエピソードだ。当の本より詳しく書くと、事務所に来たブルースに勝新が座るように促したら、大好きな座頭市を演じた俳優の前で座ることはできないと尊敬のまなざしで直立不動で立ってたという続きがある。当時のブルースのスケジュールを丹念に追った熱心(ヒマ、とも言う)なファンがいて、多忙を極めたブルースが日本に来ることは不可能だったらしい。ことの真贋はともかく、俺はブルースが勝新に会っていたということにしておいてもらいたいなぁ。そのほうが面白いじゃないですか、単純に。だって座頭市とドラゴンですよ。中学生の夢かなっちゃいますよ。

 この辺のエピソードは映画秘宝「ブルース・リーと101匹ドラゴン大行進」掲載の橋本力氏のインタビュー内で詳しく述べられている。実際は「座頭市 破れ唐人剣」でジミー・ウォングと共演した縁からゴールデンハーベスト経由で勝プロにオファーがあったらしい。橋本力は、元野球選手の俳優で、大映時代はガタイの良さから「大魔神」の着ぐるみに入った。大映倒産後は勝新の誘いで勝プロに所属した。ある日、勝新から「麻雀やってるから3万もってウチに来い」と電話がかかってきた。どうせまた巻き上げられるんだろうと勝の所へ駆けつけると、麻雀なんぞやっていない。そして勝はいきなり「香港に行ってほしい」と切り出した。あれよあれよと勝の弟子である勝村淳と二人香港へ渡ることになった。そしてそこで参加したのが「ドラゴン怒りの鉄拳」の撮影だった。勝新らしい大雑把なエピソードですが、ブルース・リーの傑作の影に勝新がいるというのがなんだかジワっときますね。当の橋本力も「3万円っていうのが意味わからないよね」とそこじゃねぇよ!というツッコミをしてて面白いです。また勝村淳も、撮影現場でブルース・リーは「リー・シャオロン」と呼ばれ、自分もそう呼んでいたので、「燃えよドラゴン」大ヒットの真っただ中でも「ブルース・リー」が「リー・シャオロン」であることに気づかなかったと証言している。師匠にも増して大雑把な弟子の皆さんも最高です。

 話は斜め上の方向へすっ飛びますが、自分は夢の中で勝新太郎に会ったことがある。忘れもしない、2012年5月のある朝に見た夢だ。

 会社の仕事として1日京都へ行けと言われ、指示された場所へ行くと時代劇の撮影をしていた。最初は見学ということで、準備が仕上がっていく現場を眺めていた。しかしどういう理由でか、切られ役がバックレてしまったと現場が俄かにざわつき始めた。そこでADが自分のほうへ駆け寄ってきた。なんと顔つきが昭和という理由で、監督が視界に入った俺をピンチヒッターに指名してきたのだ。ちゃんとした先生が殺陣をつけますので、お願いします!と言われた。なんだか現場の流れに抗えず、衣装を着て待機しているところに出てきた「先生」が勝新太郎!ビビる俺。何回か稽古をつけられるが、何かが足りない。何回目かのリハーサル中、突然のタイミングで勝新太郎がバーン!と大きい音を立てた。ビックリして勝新を凝視する俺。すると勝さんは大声で笑い、「その表情だよ!忘れんなよ!」と言いました。
このあと勝新と俺は2人にされてしまい、俺は気まずさを払拭すべく「俺、勝さんがセルフリメイクした「座頭市」大好きっす!」と頑張って声をかけたところ、「どのシーンが好きだ?」「誰の芝居が良かった?」「どこがおもしろかった?」と質問攻めにあい、地雷を踏んだかと冷や冷やしながら必死に答えていたら、最後は「そうかそうか」と大変うれしそうに笑ってました。

 「偶然完全」を読み終わって思ったのは、
この夢に出てきたのは本物の勝新太郎だったんじゃないかと。
こういう話がいっぱい出てくる。たぶん、この夢の続きがあるとしたら、

 東京に戻ったあと「こないだの君、今夜空いてるか?空いてなきゃ別にいいんだけど」と飯に付き合わされる。そしてある日、「麻雀やってるから3万円もってウチこい」と自宅に呼び出され、「実は香港に行ってほしい」といわれる。言われるがままに香港に行くと、そこにいるのはブルース・リー!!

なんて素敵な夢なんだ!
ありがとう勝さん!

※だいぶブルース・リーに寄ってしまいましたが、「偶然完全 勝新太郎伝」は晩年の勝新太郎の間近にいた田崎健太氏による力作です。一読の価値ありです。ぜひお読みください。

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