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【映画雑記】『イグジステンズ』は素晴らしい変態SFです。

今年の映画初めはおウチで。

デヴィッド・クローネンバーグの『イグジステンズ』。

公開された頃以来20年ぶりの再見。

新作ゲーム「イグジステンズ」を巡って繰り広げられるゲーム開発者とその命を狙う現実主義者との攻防を描く。当時は現実と仮想を行き来したり、その境がふとした瞬間に曖昧になるなど先行した作品『マトリックス』との共通点が多々あったため、どうしても比較されてしまっていたように記憶する。CGの贅を尽くして既視感はありつつも視覚的な驚きに溢れた『マトリックス』は映画以外に与えた影響もインパクト大だったため、こじんまりとした佇まいの『イグジステンズ』は世間から不当に過小評価されていたと思う。自分がこう思うのも今回の視聴で認識を改めたからで、この度もし観ないままだったら同じことを思っていたかもしれない。


当時わからなかった一番の理由は、劇中のゲーム「イグジステンズ」が一体どういうゲームなのか説明がないからだった。いちおうクリアすべきポイントはあるようなんだけど、なんだか方向性がわかりづらくて急に「終わったー!」みたくなってた。

話はそれますが、私もご多分に漏れず、コロナ禍でSwitchを買って「あつまれ!どうぶつの森」や「マインクラフト」をやったのですが、用意された世界の中でウロウロして好きなように振る舞うゲームをプレイしました。そのおかげか、今回の視聴で「イグジステンズ」がどんなゲームなのかなんとなく理解できた。おそらくクリアすべきポイントはあるが、基本的には行動がプレイヤーに任されているいわゆる「オープンワールド」なゲームなんだなと。この一点が理解できればあとはするすると固くなってた結び目がほどけていく快感があった。自分が作品に追いついたことを実感した。

『マトリックス』と異なるのは、現実と仮想の合間を能動的に移動できるかできないかという点かもしれない。主人公が基本的に事態に巻き込まれているので、行動の選択が消極的、もしくは逃避的。それゆえ『ドグラ・マグラ』のような入れ子構造が発生し、観るものをミスリードし、認識を揺さぶってくる。そしてそれが快感に変わっていくというクローネンバーグらしさ。これは筋金入りのクローネンバーグSFでした。観たことがない人にはぜひおすすめしたいです。

まぁ…でも理解できるまでに20年かかった。映画って難しいねぇ。

今回知ってひっくり返ったのだけど、クローネンバーグの着想の原点は「仮想現実」とか「ゲーム」などではなく、『悪魔の詩』の作者、サルマン・ラシュディ氏との対談がきっかけだったと本人がメイキングで語っていたこと。創作物を作り出す行為によって特定の権威から死刑宣告をされる恐怖から編み出した物語とのこと…。

それを現代の寓話に置き換える手腕。

これが作家ですよ…。

余談

『イグジステンズ』の日本版ポスターに書かれた「背中から始めて、脳でイク。」っていうキャッチコピー。物凄く90年代っぽいペラいセンスだなと感じいるけど…このコピー考えた人も映画の中身がよくわかってなかったんだろうな…。


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