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【CASE STUDY BOOK4より 座談会企画01】「FM×断熱による都市経営に挑む」後半

11/11よりamazon販売開始NPO法人自治経営の“実践者による”公民連携事例紹介の書籍CASE STUDY BOOK4」に掲載されている「自治経営FMアライアンスメンバーによる座談会」を特別に公開いたします!

座談会の後半では、複合化施設の問題点、組織体制などについて語っていきます。
座談会前半 https://note.com/jichi_keiei/n/n41aaac52e2d1
Amazon販売 https://amzn.asia/d/371oDwE


CASE STUDY BOOK4

【対談者】
三宅香織
倉敷市教育委員会学校教育部参事
NPO法人自治経営理事・中国アライアンス・ FMアライアンス

洞口文人
株式会社L • P • D代表取締役
NPO法人自治経営副理事長 FMアライアンス

川口義洋
津山市総務部財産活用課参事
NPO法人自治経営中国アライアンス(これらの肩書き取材当時のものです)

複合化施設の問題点

川口
津山市では、14ヶ所あった幼稚園を廃止して、2つの園を建てたんですが、維持管理費は、1ヶ所につき18ヶ所分あるという結果になっているんです…。

洞口
施設をただ単に集約してしまうという、よくある施設複合化の問題ですよね。縮小する目的で複合化したはずなのに、結果的に財政負担を大きくしてしまうということが起きてしまいます。複合化事業に関わる人たちの要望を聞いていたら予算が膨らんでしまったり、複合化するメリットでもある、施設の共有部分で予算を小さくできるのに、していなかったり。断熱についても、財政負担削減というお金の話につながるということを理解してもらう必要があると思っています。環境的な側面は理解を得やすいが、お金の問題を断熱で解いていくということが大事だなと思います

事業を進める上での組織体制の課題

−私も市役所の建築職として勤務していますが、どの部署が断熱を主体的にやっていくのか悩ましいことがあリます。営繕部署は基本的に予算を持たないため、公共施設のFMや断熱といったことを考える場合、その分の予算化が難しい。営繕部署が積極的にやっていく必要性があるとは思いますが、悩んでいる人も多いと思います

川口
津山市では、営繕の組織を丸ごと無くしたんです。FM部署の中で営繕をやっています。そうすると目指す方向が統ーできるので、動きやすくなリましたね

三宅
津山市は、財政の中に営繕が入っているので、断熱だけでなく、PPPなど資産価値の活用など都市経営に資する取り組みができることが強みだと思います。

川口
政令市など大きい自治体は、営繕だけで多くの職員を抱えていると思いますが、津山は小規模だったため、組織編制を変えることができたと思います。

津山市ではFM推進係と建築営繕係を統合し、財産活用課を発足。断熱を始めとした方向性や意識の統ーが図られていった@川口作成

技師に求められるマネジメント能力

三宅
これからはマネジメントできる技師がいることが強みになると思います。倉敷市は建築課・設備課合わせて100人を超える技師がいますが、今まで積極的に断熱にコミットしていません。なので、断熱の必要性を理解している環境部署が、施設担当の技師とどう連携すればいいか模索しています。環境部署は、国からの補助メニューがたくさんあって、市もカーボンニュートラルの宣言もしているんですが、環境部署だけでは事業を動かすことが難しいんです。建設局をどう口説けるかという話でストップしています。技師自身が、都市経営という視点を持って、マネジメントする能力を身につけて、部署横断で事業を進めていくことが求められていると思います。

−設計する側も、建てる側も、営繕側も、断熱の価値を理解する必要があります。営繕もちゃんと知識を持って、それを伝えるスキルが必要です。そうしないと設計事務所の言うことに左右されてしまいます。本当は、市が建築に関する条例を作れるといいのですが、それが難しければ、営繕での基準を作れるといいと思います

洞口
仙台市だと、公共施設に関する部署は、環境局と財政局と都市整備局(公共建築部:公共施設マネジメント推進課、営繕課設備課)の三つの局にまたがっていています。公共施設マネジメント推進課は、プランを進捗管理するだけで、営繕課や設備課がプラン通りやっているかという見張リ役でしかありませんでした。そんな中、営繕課で学校の断熱実証実験の企画を作ったときに、「なんで営繕課でやらなきゃいけないの?予算もってないでしょ?」「学校でやるなら、学校施設課でやればいい」と周囲から言われたんです。なので、まず最初に財政局を口説きました。市の財政削減という観点で企画資料を作成して説明したら、「まずやってみよう」と財政課のお墨付きがついたんですよ。予算取るときには、環境局も無視できないのですが、環境部署の難しさは、事業が「環境のことだけになっている」ということだと感じました。財政面というか、都市経営の視点で環境を考えるという思考が必要なのだと思いますね。

三宅
倉敷市では、公共施設はそれぞれ担当課が予算要求を行うため、営繕担当は、「担当課が決めることだから自分たちが決めることではない」というスタンスでした。そのため、倉敷がFMに取り組もうとして、一番最初にやったことは設備と建築の技師の企画財政部への配匿でした。工事と修繕を分けて、FMにかかわる修繕の部分に対しての予算と権限を与えたんです。当時、財政部署としても、内容を査定しようとしても査定できる専門知識をもっていなかったというのが正直なところです。「単に一番安ければいい」くらいの見方しかできてませんでした。そのため、予算の権限自体を技師に渡せたことで、財政課としても助かったと言ってくれました。断熱で言うと、環境が主体となって建築関係の担当部署と連動してやっていくのは調整が難しいと思います。自治体のサイズもよりますが、倉敷でFMでやったような、環境、財政、技師が連動する仕組みが必要だと思います。

川口
建築基準とか建築制限フォーマットを作ることは手っ取り早いと思います。「U値を○○以下にする」とか。それが、今までの組織体制だと、財政と連動していないため、建築コストが上がるということにしか目がいかず、話が頓挫してしまう。やる目的やメリットを理解して進めるためには、三宅さんが言うように、全庁的な横ぐしをさした部署を作る必要があると思います。

洞口
ルールや基準を作るという点では、財政と連動している公共施設マネジメントの部署が財政のこと、環境のことも踏まえて、基準を作ると良いと思います。作った基準が技師に広まるような仕様書となれば、広がっていくのではないかなと思います。

川口
技師は、やることが決まると、それをきちんとやるということに長けていますもんね。

洞口は仙台市在職時に財政上の効果を視覚的に分かりやすく比較し、内部での説明を重ねた

自治経営が行う、技師の人材育成

三宅
当法人の自治経営としては、技師の少ない自治体に支援するのが早いかもしれないですね。

洞口
分かる技師を数人でも良いので育てた上で、自治体が直営で動くモデルが必要だと思います。自治経営として、伴走型支援をしながらも、自治体自身が外部がいなくてもできるように、自立していく支援が必要です。自治体や技師をどう育てていくかということがNPO自治経営としてのミッションだと考えています。

川口
技師には特性があると思います。例えば、建築技師に「公民連携事業をやれ」というより、「マニュアル作れ」という方がすぐに取り掛かれると思うんですよね。

洞口
国交省が作成している「公共建築工事標準仕様書」などのルールはきっちり頭に入れている技師が多いですもんね。役所の営繕の人はルール通りきっちりやれるのが強みですね。

自治体職員自身が当事者意識を持つことの重要性

三宅
自治体職員は自分自身の家を建てるときには、二重サッシにしたり、太陽光パネルを設置したりしているのに、公共施設を建てることに関しては当事者意識が相当に薄いと思います。公共施設に対して、「自分たちの財産である」という意識を持つことが大事だと思っています。

洞口
本当に自分事かどうかって大切ですよね。今思えば、僕自身が自分の自宅を断熱したことで、住みながら断熱の効果をはっきり分かったことも大きかったと思います。今、うちの設計事務所で計画している賃貸住宅もペレットストーブを入れようと思っていますし。メンテナンスは少し面倒ですが、地元から材料を調達することで地域にもお金が落ちることになります。そもそも、「自分たちの暮らしがどう豊かになるか」ということを創造することが大事だと思います。もし断熱に興味のある自治体が声をかけてくれれば、FMと連動して、断熱をどうやれるかということをお話することができます。僕自身、仙台市職員時代には、低炭素指針や計画等も作ったりもしていました。そういうことに興味がある方はぜひ自治経営に連絡ください。

自治経営で取り組むFMアライアンスでの伴走型支援

三宅
今年、FMの講座を開催しました。前半はFM中心に、後半は断熱中心のプログラムでした。自治体に、技師があまりいなかったり、FMのことがよく分からないという自治体は、自治経営が力になれると思います。

洞口
公共施設マネジメントは、FMと断熱のセットだということを理解してもらえたことが良かったと思いますね。

三宅
ちょうど、自分の町の庁舎建替えの審議会委員の方が受講されていて、「今の計画ではダメだ」と気づき講座で得た知識を元に資料を作ってプレゼンし、建替えを止めたというケースがありました。NPO自治経営は、公務員で実践経験のあるメンバーが多く、庁内でどう進めていくのかという相談は得意です。職員研修や議会対応を含め、一緒に考えることができますので、ぜひご相談ください。

(聞き手 佐倉市 榊田大輔 取材日2021年10日)

CASE STUDY BOOK4での今回のFM対談では、前半の断熱についてからはじまり、そもそもFMを手がける組織体制の課題や技師の能力や人材育成まで切り込む内容になっています。NPO法人自治経営では、このように自治体の課題に向き合い、一緒に考えることに挑戦しています。

過去のCASE STUDY BOOK1〜3はこちらで購入できます。

2022年 11月のイベントのお知らせ
仙台都市圏 高断熱建築の暮らし
-建築家・不動産開発・自宅づくり・行政・住み手から見た脱炭素社会-
主催 NPO法人自治経営南東北アライアンス

仙台都市圏で高断熱建築にかかわるメンバーによる、セミナーイベントを開催いたします。高断熱高気密建築を設計事務所視点、不動産開発視点、住まいづくりの視点、行政的視点、住み手視点、さまざまな視点から議論を深めていきます。
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