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データヘルスは進むのか

もうかれこれ13年、実務とコンサル両面で医療IT(当時)、データヘルス(最近)と呼ぼれる領域に、遠隔画像診断の新規事業立ち上げや大手企業とのアライアンス推進、医療機器メーカーの新製品のIoT実装、ウェアラブルデバイスを用いたB2Bビジネスアイデアの創出、それに直近では大手IT企業のデータヘルス事業成長戦略策定まで様々な形でかかわってきたが、では「日本でデータヘルスは進むのか」との直球の質問には即答が難しいというのが本音だ。

最近の日経電子版の記事はなかなか良いポイントを衝いている。データヘルスに限らず、伝統もあり既得権益も強く、かつ規制が厳しい業界において、「開国」とか「黒船」というのは変革のドライバーの一つである。

ここでいう「開国」とはどういうことなのだろうか、とあらためて問うてみたい。裏を返せば、いま日本はデータヘルスにおいて鎖国状態なのであろうか。

データヘルスをドライブする大きな要因はウェアラブルデバイスの普及である。なぜならば高血圧にしても糖尿病(およびその重篤になり得る合併症)にしても、バイタルの連続・長期測定は未だ臨床的な因果関係が十分に立証されている訳ではないとはいえ、行動変容には不可欠であるし、そもそも研究材料としてこれまで得られなかった貴重なデータ・情報である。

で、だが、ウェアラブルデバイスとして普及しているものはどこの国が作っているのかといえば、AppleでありFitbitでありGarminでありいずれも外資ではないか。しかも彼らはデータホルダーでもありアナリティクスも提供している重要なデータヘルスの担い手に既になっている。

精神・神経疾患においては、既にdigital therapeuticsが認可されており、創薬もデジタル化が着実に進んでいるし、血糖値や血圧の連続測定、さらには脳波など、バイタルの種類も確実に増加している。

つまり言いたいのは、開国云々ではなく、データヘルスがその価値を日本人の健康を維持・増進させる上で如何に具体的に提供するのか、がイシューだということである。

そして、データヘルスはマネタイズが難しいと言われて久しく、それは日本だけでなく米国でも欧州でも各社が直面しかつ誰も解決できていない問題なのである。これまで画期的なビジネスモデルと言われた企業が凋落していった事例は内外問わず枚挙に暇がない。

筆者の主張は、データヘルスの価値は、従前からの医療の主たる担い手である医師やコメディカル(あまり医療資源という上から目線の言葉は使いたくない)のみなさんが得る便益、および我々一般個人のヘルスリテラシー向上によって得られる長期的な、予防面での「利益」(病気になるということは、今はユニバーサル・ヘルスケアの日本でも今後ますます個人の経済的負担を増す)が本質であって、もはやデータがどれだけビッグかということではなく、因果関係の立証とそれに基づく不要な規制や事務の削減、それに多様なデータを単に統計的に処理して「疫学的」な知見を充実させるのではなく、「自分の健康」をマネージできる形でのサービスを追求すべき、ということである。

Marketing myopiaに陥りがちな民間にはかなりハードルが高いとは言え、いくつかスタートアップも含め有望な芽は出てきているし、行政の側もここにきてかなりドライブがかかっている。彼らがChasmを超えることに直接間接に関わっていきたい。


#日経COMEMO #NIKKEI

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