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【参加レポ】今年の新語2023meets国語辞典ナイト

本記事は2023年11月30日に行われた今年の新語2023meets国語辞典ナイトのレポートです。(大遅刻)
今年の新語をLakkaが、国語辞典ナイトをふずくが担当いたします。


前半戦!今年の新語2023

Lakkaです!
私からは辞書界隈の一大イベント、今年の新語についてご紹介します。

今年の新語とは?

辞書の三省堂が、この2023年を代表する言葉(日本語)で、今後、国語辞書に採録されてもおかしくない言葉を募集します。ご応募くださいました言葉などから選考委員が厳正に選考の上、「今年の新語2023」ベスト10を選出し、国語辞典としての言葉の解説(語釈)をつけて発表します。

「今年の新語2023」特設サイト

多くの辞書を発行する出版社・三省堂によって2015年から開催されているイベントです。前身は飯間浩明先生(『三省堂国語辞典』編纂者)が独自に行った今年からの新語2014。2018年からは、後に紹介する国語辞典ナイトとコラボした選考発表会を行っています。
その年に流行ったことばを選ぶユーキャン新語・流行語大賞とは異なり、「今後辞書に採録されてもおかしくない言葉」を選ぶことが特徴です。

大賞は「地球沸騰化」

結果は以下の通りです。1語ずつ見ていきましょう。解説したりコメントしたりしています。お利口な解説は特設サイトの選考結果と選評をお読みください。

🥇大賞「地球沸騰化」
私にはあまり聞きなじみのないことばでした(家にテレビがないからかも…)。2023年7月27日に国連のグテーレス事務総長が「地球温暖化の時代は終わった。地球沸騰化の時代(the era of global boiling)が始まった」と会見で発言したのが始まりだとか。少し前に「地球熱帯化」ということばをよく見た気がするのですが、ついに沸騰し出しましたね。投稿数もかなり多く、第8位だったようです。大賞としては意外なセレクトでした。

🥈2位「ハルシネーション」
人工知能(AI)が事実とは異なる情報を生み出すこと。「幻覚」「妄想」を意味する”hallucination”から取られたと言われています。今年よく見たというよりは、これから見る機会が増えそうなことばですね。個人的に大賞候補のひとつでした。

🥉3位「かわちい」
「かわいい」の俗語的表現です。TikTokを中心に流行したと認識しています。本当に辞書に載ってもおかしくないのか…?という疑問は拭えません。

4位「性加害・性被害」
ジャニー喜多川氏の問題を受けて、ニュースやSNSで多く見聞きしました。「性被害」ということばはこれまでにもありましたが、「性加害」ということばが使われるようになったのは2023年からのように思います。

5位「◯◯ウォッシュ」
「グリーンウォッシュ」は聞いたことがある気がします。テレビがない生活になってから本当に時事用語がわからない。

6位「アクスタ」
「アクリルスタンド」の略称です。辞書に載ってもおかしくないと感じるものの、正直今更感は否めません。2022あたりで入れておくのが良かったのでは…

7位「トーンポリシング」
トーン”ポリシング”なので指摘することが着地点にあるべきなのですが、「論の中身ではなく、その口調や態度などを問題として指摘し、話を本題からそらすこと」という語釈になっており、本来目的である話題をそらすことが着地点になってしまっています。どうなんだろう。

8位「リポスト」
2023年Twitterの「リツイート」がブランドの改名に伴い、「リポスト」(再投稿の意)に変更されました。Instagramでは元々「リポスト」だったので、主要なSNSでの呼称が揃ったことになります。ちなみにここ数日で利用者が激増しているBlueskyでも、「リポスト」が使われています。発表時は本当に定着するのだろうかと思っていたのですが、今後浸透する可能性が高くなってきました。

9位「人道回廊」
戦闘地域から民間人を避難させる脱出ルートのことを言います。古くから使用例があったことばですが、ここ2年程の報道でよく知られる概念となったようです。こちらも初めて知ることばでした。やっぱりテレビ買ったほうがいい?

10位「闇バイト」
公式の語釈はさせる側目線で書かれているのですが、実際に「闇バイト」ということばを使うのはさせられた側(被害者側)だと思うので、何となく違う気がします。ことば自体は確かによく聞いたものでした。

選外となった5語

「蛙化現象」
投稿数最多の「蛙化現象」はSNSを中心に流行したことばです。意味にまだ揺れがあり、選外となりました。
元は”好きな相手と両思いになった途端、相手のことが、童話「かえるの王様」のカエルのように気持ち悪く感じられる現象”のことを言いましたが、意味が広がり、交際相手などの言動が気になり幻滅してしまうことにも使われるようになっています。

「生成AI」「オーバーツーリズム」「グローバルサウス」「近しい」
10月に改訂された『三省堂現代新国語辞典 第七版』に掲載されていたため、選外になったことばです。三現新7の仕事が早すぎる。特に「生成AI」は投稿数第5位と、多くの人がよく見聞きしたと感じることばだったようです。

それぞれの選考委員が選出したことばに注目する

特設サイトにそれぞれの選考委員が選出したことばも載っていました。
この中だと「社不」「ビジュ」あたりがランキングに入っても良かったのでは…?と思います。「むにむに」もかわいくて好きです。新しめのオノマトペのようなので、どこかでぬるっと辞書に載っていてもおかしくない気がします。

■『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生
朝ウナ/蛙化現象/ちいかわ/地球沸騰化/○○散らかす/ニキ/ハルシネーション/無理/闇バイト/沸く

■『三省堂国語辞典』飯間浩明先生
アクスタ/○○ウォッシュ/かわちい/社不/人道回廊/性加害/性被害/トーンポリシング/ハルシネーション/ペッパーミル

■『新明解国語辞典』編集部
あれ/推し活/生成AI/セルフレジ/ChatGPT/デコ活/呪い/マイナカード/むにむに/闇バイト

■『大辞林』編集部
アーバンベア/アンコンシャスバイアス/蛙化現象/グローバルサウス/ステルス値上げ/生成AI/地球沸騰化/ビジュ/フェムテック/闇バイト

総評

全体的にあまり納得できない結果だったように思います。そもそも今年の新語は「今後辞書に採録されてもおかしくない言葉」を選ぶイベントのはずなのですが、「地球沸騰化」はユーキャンと被っていますし、時事用語の割合が高かったように感じます。
ちなみにこっそり予想をしていたのですが、「ハルシネーション」しか当たりませんでした…悲しい…「共感性羞恥」とかAIに学習させる意の「食う、食わせる」はわりと自信があったんですが、まだ時代が私に追いついていないんですかね。「アクスタ」も2022年に応募してたし。

クレームだらけになってしまいましたが、直前に三現新の改訂があったことを考えると仕方がないのかなとも思います。三現新7、まだしっかり読んだわけではないのですが、少し見ただけでも相当いろいろなことばを拾ってきているので…

今年の新語2024に向けてさっそく用例採集を始めたよという方も多く(?)いらっしゃると思います。私も例年「今年本当に何もない!」と言いながら終わったとたんあれもあったこれもあったと言い出す流れを繰り返しているので、今年こそしっかりメモを取っておきたいものです。

では後半戦にバトンタッチしますね🤝

後半戦!国語辞典ナイト

やあやあどうも、ふずくでございます• ᴥ •
ここからは、辞書マニアの辞書マニアによる辞書マニアのためのイベント、国語辞典ナイトについてご紹介します!!!!

国語辞典ナイトとは

とくに紹介ページ的なものは見当たらなかったので、少し前のものですが飯間浩明先生のことばを引用します。

「国語辞典ナイト」って何、という人のために。2014年から続くイベントです。国語辞典を笑い倒すのがコンセプト。来場者の層は広く、ことばに少しでも興味があれば楽しめます。私たち登壇者が忖度抜きでトークします。ことばへの見方が変わること請け合い。

飯間浩明先生 X(旧Twitter)

ちなみにふずくさんは今回が初参加。
ずっと参加したかったイベントだったので、終始ソワソワしていました。

パネラーの皆さま

飯間浩明先生:AIとつくる三国

トップバッターは辞書編纂者の飯間浩明先生。
内容は、AIに「右」の語釈を書かせてみようというもの。

アホそうなChatGPTくんかわちいね。

全部のスライドのインパクトがすごい。
イラストがかわいいのが印象的でした。

ちなみに、AIに語釈を書かせようという取り組みは語彙・辞書研究会でも紹介されていました。このときは「手がける」が題材でしたね。
語彙・辞書研究会については辞書尚友のレポをどうぞ。

さてさて、大学でレポートの代筆をしまくっているChatGPTくんですが、国語辞典の語釈を書くにはちょっと力不足のようで……。
ここには載せきれませんが、何度もやりとりをしているうちに、なんだか訳の分からないことを言いだしてしまいました。

飯間先生にガン詰めされて涙目のChatGPTくん

うーんやはりChatGPTは役立たず?期待外れ?
いえいえ、そんなことはありません。
ChatGPTの発言を吟味することで、より言いたいことが明確になっていく。
この意味でAIは大いに役立っているとのこと。
よき助手として、AIが活用されていく可能性を感じるご発表でした。

稲川智樹さん:校閲者VS.ChatGPT

お次は校閲者の稲川智樹さんのご発表です。
最初はChatGPTとしりとりをしている様子から。

知らない単語を出してきたり、ル攻めに敗北したり、漢字限定にしたとたんしりとりができなくなったり……。

最強のしりとりマスターとは

だんだんChatGPTがなんでこんな間違いをしたのか推理するのが楽しくなってきました。
そして、話は本題のChatGPTに校閲をさせようという試みに。

ChatGPTくんの赤とその評価(赤の赤)

おお!合っているところもあるぞ!
すごいぞChatGPT!!
いや〜〜しかし、3.「乞う」のような真偽不明の赤もチラホラ。
このあとも稲川さんの秘蔵データを食わせての実験の結果も公開されました。

今はまだ丸投げとはいきませんが、いずれはできそうだと稲川さん。
出力が安定せず、毎回違うことを言ってくるのがネックだそうで……。
まともなデータをたくさん食わせる必要があるとのことでした。

個人的にすっげ〜〜!と思ったのはこのあと。
用例採集を効率化しようという試みの紹介がありました。
ChatGPTに教えてもらいながら一緒に作ったという「タンザク」がコチラ。

ほしい。

なんだこれ!!!!!!めっちゃいい!!!!!!!
ほしい。ほしすぎる。
これがあれば中央辞(ふずくさんが作っているキャンパスことば辞典)の用例採集ももっと楽だったろうな。
というか今年の新語2024候補の採集もはかどるんだろうな〜〜!
私もChatGPTを触ってみたい……!と強く思ったご発表でした。

見坊行徳さん:辞書AIとは”辞書●●●AI”である〜未来の辞書のインターフェイス〜

3番目は国語辞典マニアの見坊行徳さんです。
AIをインターフェイスとして活用しようというお話でした。

実は辞書尚友では隔週で辞書学勉強会をしておりまして、「仰っていることが分かる……分かるぞ……!」となっていました。

どこのご家庭にもある B. T. Sue Atkinsと Michael Rundellによる辞書学の教科書『The Oxford Guide to Practical Lexicography』(Oxford Univ Pr on Demand、2008年)を開いてみましょう。
2ページ目の上部にはEvidence:linguistic data、Linguistic theory、Users’ needs, users’ skills、Dictionaryの4点と、それに関連するTechnology(1)〜(3)を結ぶ図が示されています。

この図は辞書編集の過程を示しており、見坊さんの図と意図するところは異なりますが、やはりことばに対する情報や問題・辞書・読者というのが辞書を構成する重要な要素であることが伺えます。
そのうえで、AIを辞書そのものではなく各点のそれぞれの間で、インターフェイスとして機能させるというのが今回の主張です。
これまでの方はAIに何かしら「書かせる」系の内容だったので、新鮮です。

となると、辞書についてよく知っていて、使い方にも詳しい存在である必要があります。
あれ、それって……。

辞書AIはおれたちだった

そう。ご発表のタイトルの●●●に入るのは「マニア」だったのです。
発表は「辞書メーカー各社は辞書マニアAIを作るべし」と締めくくられました。
いつかどこかの出版社からリリースされることがあるのでしょうか。
今後の動向が楽しみです。

西村まさゆきさん:国語辞典の語釈だけでAIはどんな挿絵を描いてくれるのか

最後はデイリーポータルZのライター、西村まさゆきさんのご発表です。
国語辞典の語釈から画像を生成させようという試みです。

かなりカオスな写真ばかりで面白かったです。
いくつかご紹介します。

宗教が絡んでいるためか、「コンテンツポリシー違反」と拒否される「七福神」、やっと出力できたのがコチラ。

エルフ感がすごい七福神

そして「猫」で書かれたのがコチラ。

今流行りの猫ミームの予言だったのかもしれない(違う)

このほかにも、三省堂国語辞典の「右」を雰囲気だけで乗り切ろうとしたり、「ロンパース」を赤ちゃんや子どもをコンテンツポリシー上の理由であまり描きたくないと拒否されまくられたり(でもなぜか最終的には出力できた)と、なぜか三国に反発的なChatGPTくん。

これはやはり「右」の語釈作りでガン詰めされたのでへそを曲げているのか……!?

いつか国語辞典の挿絵にAIが生成した画像が使われる日は来るでしょうか。

国語辞典ナイトまとめ

以上、非常に濃い4つの発表でした。
楽しすぎて時間が一瞬で過ぎていきましたね。

個人的には、もっとバチバチした議論も見てみたいな、なんて……。
すでに次回が待ち遠しいです。

国語辞典ナイトはおもしろ寄りの企画が多いので、国語辞典に詳しくない方も楽しめる内容になっており、非常にオススメです。
ではでは• ᴥ •

イベントを終えて

大遅刻のレポートとなってしまいましたが、とても楽しい1日でした!
これから今年の新語2024に向けて用例採集を頑張ろうと思います。大賞を当てられたためしがないので、どうにかしてそろそろ当てたい。
国語辞典ナイト、本当に楽しかったです。個人的に飯間先生に詰められて元気がなくなっていくChatGPTくんが大好きでした。ひとつだけ文句を言わせていただくと国語辞典ナイトの開催数が少なすぎます!!!!!2023年はこの1回しかなかったので、2024年はもっと開催してもらえると嬉しいです。

和解した飯間先生とChatGPTくん

ではまた次の記事でお会いしましょう‪‪!(Lakka)

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