紫蘭の花嫁 【男女サシ劇】

※必ず利用規約の一読お願いします

男性1:女性1

約45分台本

紫蘭の花嫁(しらんのはなよめ)
登場人物
:日月 陸(たちもり りく)・・・事故に遭い胸椎12番目を損傷して下肢が麻痺して車椅子生活になってしまった青年
涼風:星月 涼風(ほしづき すずか)・・・陸の恋人、事故に遭った陸を支え、車椅子になっても陸のことを愛し続ける献身的な女性

――――本編――――
陸:「はぁはぁ(走っている) 今日は涼風にこの結婚指輪を渡す。早く帰って結婚を申し込むんだ!」
陸N:「この時の俺は急いで帰ろうと走っていた。その時、視界の端に写ったトラックと飛び出した子供の姿が見えてこのままでは轢かれるだろうと思っていた。俺はいつの間にか無意識に子供を助けようと身体が動いていた。」
陸:「危ねぇ!!」
陸N:「子供を突き飛ばした後、腰辺りに強い衝撃を感じた。それが下半身で感じた最後の感覚だった。そして自分が道路に突っ伏しているのがわかった。俺はそのまま意識を手放した。」

――――自宅にて涼風が鼻歌交じりに料理を作っている――――
涼風:「~♪~~♪~~  (ここの鼻歌はなんでもいいです)」
涼風:「今日は陸、何時に帰ってくるのかな~?帰ってきて喜んで貰うためにも、うんと美味しいもの作らないとね!よ~し、頑張るぞ!」

――――電話が鳴る――――
涼風:「はい、もしもし日月です。」
涼風:「あっお義母さん。こんばんは、夜遅くにどうされました?」
涼風:「えっ(受話器を落とす)」
涼風N:「この時、お義母さんに聞かされたのは陸が事故に遭って、今、緊急手術を受けているという報せだった。」
涼風N:「私はその報せを聞いた瞬間、部屋着のまますぐに家を飛び出し、タクシーを捕まえて、陸が緊急手術を受けている病院に向かった。ずっと、嘘だと信じたくないと思っていたが病院に着いたとき無慈悲にも手術中のランプが付いており頭が真っ白になっていた。」
涼風N:「そんな私に先に着いていた陸のご両親が気づき、私に近づいてきてお義母さんに泣きつかれた。その間私はずっと立ち尽くして涙で前がぼやけていた」

――――陸の夢の中――――
陸:「う、うぅん・・・んん?えっと・・・ここはどこだろう?」
陸N:「俺が気がついた場所は周りが霧に包まれており湖に立っているのか水面(みなも)の上に立っている。だが、右を向けども左を向けども同じ景色が広がっており自分がどの方角に向いているのかわからない。そしてそのわからないまま歩き進んでいるが進めども進めどもずっと同じ景色なため進んでいるのか戻っているのかわからない。どれくらい進んだのだろうか?時折、どこかで誰かが泣いている声が聞こえる。聞き覚えのある声だ・・・そうだ、この声は俺が愛している人の声だ」
陸:「涼風?涼風なのか?どこにいる?涼風!!」
陸N:「俺はその泣いている声のする方へ走っていった。すると、一筋の光が見えてそこに飛び込んだ」

――――病室にて―――――
――うっすらと目を開ける陸――
涼風:「!! 陸!目覚めたの!?」
陸:「ん?んん・・・涼風?」
涼風:「うん!私だよ!涼風だよ!」
陸:「ああ、おはよ・・・」
陸N:「見知らぬ天井、朝なのか昼なのか太陽の光と照明の明かりが眩しい、そして身体に違和感があり、俺はそれを尋ねた」
陸:「なぁ・・・涼風、俺の身体おかしいのかな?その・・・腰から下の感覚がないんだ・・・」
涼風:「っ!(驚きのような悲しいような感情で口を押さえる)」
陸:「あと俺は・・・どうして知らない場所のベッドでなんか寝ているんだ?」
涼風:「そ、それは・・・」
陸:「なぁ涼風教えてくれ俺の身に何があった?」
涼風:「・・・わかったわ、落ち着いて聞いてね」

陸:「あ、あぁ」
涼風:「あの日、陸は道路に飛び出していた子供を助けようとして車道に飛び出た。そして、子供を突き飛ばした後、直ぐ近くまで迫っていた車に轢かれた・・・」
陸N:「涼風は俯きながら淡々と俺の身に起きた出来事を話す。だが、その表情は今にも泣き出しそうな顔だった。」
涼風:「お医者さんが言うには轢かれた拍子に陸の12番目の胸椎って所が潰れたそうなの・・・それで・・・」
陸N:「涼風はその後の言葉を言いにくそうに、言いたくなさそうに口をつぐんでいた。でも、きっと俺は聞かなくちゃならない事だと思いその先の言葉を促した」
陸:「それでの続きは?」
涼風:「・・・それで、お医者さんが言うには12番目の胸椎が潰れたことにより、そこから下の神経が機能してないって・・・つまり・・・」
陸:「つまり?」
涼風:「もう・・・一生・・・歩けないだろうって・・・」

陸:「・・・(驚きで言葉を失い声が出ない)」
陸:「えっと・・・つまりこの脚動かないのとか腰から下の感覚がないのってその胸椎の12番目が潰れた後遺症ってことか?」
涼風:「(頷く)」
陸:「そうか・・・」
涼風:「り、陸・・・」
陸:「ごめん・・・少し独りにさせてくれないか?」
涼風:「う、うん、わかった また明日来るね」

――そっと病室を出る涼風――
陸:「うっうっ(ベッドの上で泣く陸)」
涼風N:「その陸の泣いている声を私は病室の外から聞いて壁にもたれかかり崩れるように私もひっそり泣いた。ひとしきり泣いた後、私は呟いた」
涼風:「私が陸の生きる希望を見つけてあげないと・・・」

――自宅に帰ってきた涼風、そこに電話が鳴る――
涼風N:「あ、お義母さんからだ。どうしたんだろ?」
涼風:「はい、もしもし涼風です。お義母さんどうしましたか?」
涼風N:「その時、お義母さんは私に『陸と別れてくれないか』と言った。そして続けざまにお義母さんは『あの子は将来、きっと介助が必要になってくる。そうなった時、あなたにそこまで負担はかけられない。あなたにはあなたの人生がある、だから・・・あの子と別れてくれませんか?』と言った。」
涼風:「いいえ、お義母さん。私は陸と別れるつもりなんて微塵もありません。だって、私は陸さんをこの上なく愛していますから。身体に障害が出来たからって彼を好きだって。ずっと隣にいたいって想いはなくなりませんから。介助が必要なら私が陸を支えます。だから、私は陸とは別れません。」
涼風N:「私がそう言うとお義母さんは『そう、涼風さん・・・あの子をどうかよろしくお願いします』と言った。お義母さんが電話越しに泣いているのがわかった。」

――次の日、リハビリ室にて平行棒で立位訓練をする陸――
陸:「っ!はぁはぁ!くそっ!」
涼風N:「陸がリハビリ室で立位訓練をしている。立てないことが悔しそうに何度も何度も立ち上がろうと挑戦をする。そして、何度も崩れる。その姿はまるで自分の身体を受け入れたくないという鬼気迫るものを感じた。」
陸:「なんで立てないんだよ!くそっ!くそっ!」
涼風N:「そして、二十分間リハビリをしたあと、理学療法士の先生に『今日のリハビリは終了です。お疲れ様でしたと告げられた。』そして、陸を車椅子に乗せて私が病室まで送り届ける。」
涼風:「陸、お疲れ様。頑張ってたね!かっこよかったよ」
陸:「かっこいいなんてあるもんか・・・(ふてくされるように)」
涼風:「え~そんなことないよ~陸の頑張ってる姿すごくかっこいいよ」
陸:「うるせぇよ・・・(ぼそっと呟くような感じ)」
涼風:「え?」

陸:「うるせぇんだよ!!そんなこと言って涼風だって陰では笑っているんだろ!あんな風に歩けもしない立てもしない、一人でトイレすらも出来ず、ただただ無様に床に這いつくばる姿を見て笑っているんだろ!」
涼風:「陸、落ち着いて!」
陸:「涼風だってこんな俺なんかと一緒にいないでさっさと俺なんかと別れて他の奴のところに行けよ!」
涼風:「!!そんな・・・」
陸:「くそっ!こんな脚!こんな脚!(脚を殴る陸)くそっ!なんっで動かないんだよ!!」
涼風:「陸!やめて!」
陸:「なんで・・・なんでだよ・・・こんなに力一杯殴ってんのに・・・痛みもない、殴られている感覚すらないんだよ・・・なんで・・・なんで・・・(悔しくて泣いている)」

涼風:「陸!(ぎゅっと陸を抱きしめる)」
陸N:「本当は涼風に当たるつもりなんてなかった・・・あんな酷いこと言うつもりなんてなかった。本当は別れてなんて欲しくない。でも、この行き場のない悔しさを・・・怒りをどこにぶつけていいかわからなかった。わからなくて涼風の優しさに甘えて彼女に当たってしまった。あんなことまで言ってから俺は自責の念に駆られた。」
涼風N:「私には陸の本当の辛さも歩けない悔しさもわからない。だから陸にあなたの気持ちわかるよなんて無責任な言葉をかけられない。でも、自分が今まで出来ていたことが出来なくなる辛さや悔しさは想像できる。想像したら・・・涙が、止まらなかった・・・」

――涼風が泣いているのに気づいて我に返る陸――
陸:「!!涼風・・・ごめん・・・自分でもここまで言うつもりなくて・・・自分でもわからないけど気持ちが抑えられなくて・・・」
涼風:「ううん、いいの。私の方こそ泣いたりしてごめんね・・・陸の今の辛さを考えたら涙が止まらなくて、何も力になってあげられない自分が不甲斐なくて・・・非力な私でごめんね?」
陸:「そんなこと、そんなことないよ・・・俺の方こそすぐそばで支えてくれているのに考えなしの言葉を吐いて、涼風を傷つけて、心配かけることばかりしてごめん・・・」
陸:「俺、本当は涼風と別れるのは嫌だ。でも、こんな状態の俺じゃあ今後、絶対に涼風に迷惑をかける・・・それは・・・それは、俺が耐えられない。だから・・・(俺の側から)」

涼風:「(被せ気味で)馬鹿!バカバカ!ほんっとうに馬鹿!私が迷惑?そんなこと絶対にない!だってどんな状態どんな姿であれ、私が愛した人は陸!あなたなのよ。」
涼風:「あなたが私に迷惑をかける?ええ!上等よ!かかってきなさいよ!喜んでなんでもやるわ!だって私はあなたを一生支えるって誓ったのよ!だから、私は陸と別れない!」
陸:「でも・・・」
涼風:「もう!こんだけ言ってもまだわかんないの!?陸が私に何を言っても絶対私は別れないから!(ぷいっと顔を背ける)」
陸:「涼風・・・」

陸N:「俺はこんなに自分の事を想ってくれている大事な人が居るのに向こう見ずな言動や行動ばかり・・・なんて、なんて格好悪いんだ・・・もう自分の中の底辺を一番大切な人に見せた。だったらもう、あとはがむしゃらに頑張るしかない」
陸:「(涼風の手を握る)涼風、こっちむいて。多分、俺はこれからも弱音とか吐くし泣き言も言うと思う。でも、涼風が側に居てくれるなら俺は頑張れると思うし、かっこいい自分で居続けようと思う。これは、俺が涼風に掲げる誓いだ。だから見ていて欲しい。これからの俺を・・・涼風が愛した男のこれからを・・・」

―――間―――
陸N:「涼風は自分の涙を拭いた後、僕を見た。そして・・・笑った」
涼風:「ぷっ!あははは!陸がそんなキザな台詞言うなんて似合わないね!」
陸:「なっ!うるさいやい!」
涼風:「ふふ、陸・・・うん、わかった。私はずっとあなたの側にいるし弱音でも何でも聞くから。だから、私にかっこいい陸の姿を見せてよ」
陸:「ああ!もちろん!」

―――三ヶ月後―――
涼風N:「あれから三ヶ月、陸はリハビリに一生懸命取り組むようになり出来ない事を嘆くことは無くなった。むしろ、今では出来るようになったことを見せびらかすようになった。例えばこんな風に」
陸:「涼風!ほら見てくれ!車椅子のキャスター上げずっとキープし続けられるようになったぞ!」
涼風N:「陸は義肢装具士の人に作って貰った車椅子の前側を上げて前、後ろに操作しながら器用にキープしている。」
涼風:「おお~すごぉい!確かに前に理学療法士の先生に出来るようになった方が良いって言われてたもんね!」
陸:「ああ!だから何回も練習してやっと出来るようになったんだよ!何回、後ろにこけたことか」
涼風:「全く・・・練習するのは良いけど怪我しないでよ?」
陸:「大丈夫!大丈夫!」

涼風:「あ、そういえば、今日やっと退院だね!」
陸:「そうそう!やっと美味しくない病院食からおさらば出来るよ!」
涼風:「あれ?最近の病院食って美味しくなったって聞いたけど違うの?」
陸:「これが初めての入院だから美味しくなったって言われたって不味いものはまずい!」
陸:「だからさ、帰ったら美味しい料理作ってよ」
涼風:「仕方ないなぁ(ニヤニヤした感じ)」
涼風:「任せて、うんと美味しいもの作ってあげる。それに今日は退院祝いもかねて豪勢にしちゃいましょうか!」
陸:「お!ほんとに!?楽しみだなぁ」
陸N:「こうして俺は退院することになった。そしてずっと涼風にあの事故にあった日に渡す予定だった指輪をいつ渡そうか考えながらそのまま月日が流れていった。そんなある日」

―――自宅の食卓での会話にて―――
陸:「なぁ最近、やっと車椅子の生活に慣れてきたと思わね?」
涼風:「そうね~私も最初は違和感があったけどずっとこうやって過ごしててこの生活が当たり前になったかなぁ」
涼風:「ごほっごほっ(咳き込む)」

―――咳き込んだ後の手を見てハッとする涼風―――
陸:「ん?大丈夫?風邪ひいた?」
涼風:「ん?ううん!大丈夫、ありがとね」
陸N:「この時の俺はいち早く涼風の異変に気づくべきだった・・・」
涼風N:「この時の私は陸に心配かけさせたくないと咄嗟に嘘をついて手のひらを後ろに隠してしまった。手のひらに付いた血を・・・」
陸N:「初めは咳き込む回数は少なかったが段々とその回数も増えていった」
涼風:「ごほっごほっ!」
陸:「涼風!最近ずっと咳き込んでるじゃん・・・さすがに病院行こう?一緒に行くからさ」
涼風:「大丈夫大丈夫!なんのこれしき!」

陸:「涼風・・・」
陸N:「涼風が心配かけまいと無理に僕の前では笑って見栄を張るんだ・・・それが僕には耐えられなくていつも何にも言い表せない気持ちが俺の胸を締め付ける。そして、そんなある日とうとう・・・」
涼風:「うっ!ごほっごほっ!」
陸:「涼風!おい!しっかりしろ!涼風!」
陸N:「涼風が倒れた・・・俺はいち早く救急車を呼んだ。普通なら一緒に救急車に乗れるのだろうが俺は車椅子だから救急車に乗せてもらえなかった・・・そんな自分の身体を心底恨んだ。俺も車で涼風の病院に向かった。」
陸N:「病院に着くと手術中のランプが赤く光ってるのが見えて俺は言葉を失った・・・」
涼風:「ん?うぅん・・・あれ?ここどこ?」
涼風N:「私は気がつくと見知らぬ場所に立っていた。」
涼風:「ここは・・・う~ん・・・霧がかってて何にも見えない。」
涼風:「・・・ん?うわっ!私、水面に立ってる!?」
涼風:「そういえば、陸から事故に遭って眠っている間霧がかった世界にいたって聞いたなぁ。ん~ここがそうなのかな?・・・あっ!そうだ!陸!陸は!?」

涼風:「私、陸の所に戻らないと!」
涼風N:「そして、私も陸と同様に歩き始めた。陸からお話を聞いていたおかげか動揺は少なかった。」
涼風:「光の筋が見えたって言っていたよね・・・ん?」
涼風N:「どこからか声が聞こえる。その声がする方角に向かうと光の筋が見えた」
涼風:「あれが陸の言っていた光ね!ここに飛び込めば!」

―――病室―――
涼風:「ん?う~ん・・・」
涼風N:「見知らぬ天井が見える・・・そして、手に温もりを感じてそちらを見ると見慣れた安心する顔が眠っているのが見えて嬉しくて涙が零れた」

―――起きる陸―――
陸:「ん、う~ん・・・」
涼風:「陸、おはよう」
陸:「涼風!?涼風!良かったぁ・・・もう目が覚めないかと思って心配したんだぞ」
涼風:「うん、心配かけてごめんね?」
陸:「今、医者と看護師さんに知らせてくるから待ってて!」
涼風:「あっ!陸!(溜息)行っちゃった・・・」
涼風N:「その後、医者と看護師が病室に入ってきて神妙な面持ちで私に伝えなければならないことがあると言った」
涼風:「ごめん陸、少しだけ席外してくれる?」
陸:「え?」
涼風:「ごめんね?」
陸N:「涼風が寂しそうに微笑みながら言うためそれ以上は強く言えなかった」
陸:「・・・わかった、終わったらまた呼んで」
涼風:「えぇ」

―――部屋を後にする陸―――
涼風:「すいません、続けてください・・・」
涼風N:「医者から伝えられたのは余命一年という無慈悲な宣告だった・・・」
涼風N:「陸に伝えるのは・・・」

―――扉からノックの音が響く―――
涼風:「どうぞ」
陸:「話は終わった?ほら、飲み物買ってきたよ。」
涼風:「うん、ありがと」
陸:「どんな話だった?」
涼風:「ん?あ~身体の調子はどう?とかの話しただけだよ」
陸:「嘘」
涼風:「えっ?」
陸:「嘘ついてるよな?」
涼風:「そっそんなことないよ」
陸:「じゃあ俺の目を見て言える?」
涼風:「・・・」
陸:「ほんとは何の話をしてたの?」
涼風:「じつは・・・えっと、病気の話をしてた。」
陸:「それで・・・結果は?」
涼風:「肺腺癌 (はいせんがん)・・・つまり、肺癌だって・・・」
陸:「えっ・・・いや、でも治療方法あるんだろ?」

涼風:「ううん、もう末期だから治療法がないんだって・・・」
陸:「そんな・・・」
涼風:「お医者さんが言うにはもって一年生きるのが限界だろうって・・・」
陸:「は?嘘だろ?」
涼風:「うん・・・ごめんね?私・・・陸を置いて死んじゃうんだって」
陸:「っ!そんなこと言うなよ・・・なんでだよ・・・俺を置いていくなよ、涼風・・・」
―――手を握って泣く陸―――
涼風:「陸・・・」
―――陸の頭を撫でながら涙ぐむ涼風―――
陸:「・・・決めた、この一年たくさん思い出作ろう。色んな所出かけて、色んなもの見て。あっそうだ、涼風この前花畑が見たいって言っていたよな!そこにも行こう!」
涼風:「うん・・・そうだね。いっぱい出かけてたくさん思い出作ろう」
涼風:「(病室の天井を見上げながら)ふふっ・・・花畑、きっと綺麗なんだろうな・・・楽しみ」
陸N:「涼風はそう言って眠った」

陸N:「二、三日入院した後、涼風は退院した。その後、涼風とたくさん出かけた。温泉や遊園地、美味しいものを食べたり、もちろん一番行きたがってた花畑にも行った。時間が許す限り一緒に居た。身体も痛みや辛さだってあるだろうに俺の前では一切辛い表情を見せなかった。だけどそんなある日」
涼風:「ごほっごほっ!ごほごほ!」

―――倒れる涼風―――
陸:「涼風!!涼風!しっかりしろ!」
涼風:「り・・・く・・・(意識を失う)」
陸N:「倒れて意識を失った涼風は救急車で病院に運ばれた。そして、緊急手術が開始された。」
陸N:「そして、緊急手術が終わって医師から告げられたのはもう死期が近く、もって数日という残酷な言葉が告げられた。」
陸N:「俺は医者にせめて最後は家で看取らせてくれないかと頼みこみ涼風を家に連れて帰った」

―――ベッドで目を覚ます涼風―――
陸:「涼風目覚めた?(優しく微笑む感じ)」
涼風:「ここは・・・家?」
陸:「うん、そうだよ。」
涼風:「私いつの間にか眠ってたんだね」
陸:「あぁまったく、涼風は寝ぼすけだな」
涼風N:「そう言って寂しそうに笑う陸を見てあぁもう私はきっと長くないんだろうと悟った。」
涼風:「不思議だね。私ねこの癌を患ってからずっとあんなに痛くて苦しかったのに今はね、何にも痛くもない苦しくもないの。むしろ今は身体がふわふわしていて心地良い感じ。」
陸:「そっか・・・」
涼風:「ねぇ陸・・・こないだ行ったお花畑すごく綺麗だったよね。」
陸:「あぁ色鮮やかで凄く綺麗だった」
涼風:「私ねその中でも紫蘭の花が好きだったなぁ・・・陸は紫蘭の花言葉って知ってる?」

陸:「・・・なんだろう。わからないな」
涼風:「紫蘭の花言葉はね『変わらぬ愛』だよ。ねぇ陸・・・私はずっと陸のこと愛しているよ」
陸:「あぁ、俺も愛してる。」
陸:「涼風・・・涼風に渡したいものがあるんだ。」
涼風:「何?そんな真面目な顔して」
陸:「これを受け取ってくれないか?」

―――指輪を涼風に見せる陸―――
涼風:「これって・・・指輪?」
陸:「そうだよ・・・俺と結婚してくれないか?涼風・・・」
涼風:「そんなっ嬉しい、嬉しいけど私はもうっ!」
陸:「ううん、俺が涼風じゃないとだめなんだ・・・だからこの指輪を受け取ってくれないか?」
涼風:「陸・・・はい・・・お願いします・・・」
陸N:「涼風は泣きながらも優しく微笑みながらそう言った。」
陸:「じゃあ指輪嵌めるね?」
涼風:「お願いします」

―――涼風は指輪を見つめながら・・・―――
涼風:「ありがとう、陸・・・すごく嬉しい」
涼風:「ねぇ・・・陸、私の最期のわがまま聞いてくれる?」
陸:「最後なんて言うなよ・・・涼風のわがままだったら何度でもなんだって聞いてやるさ」
涼風:「うん・・・ありがと。でもね、これが最期なの・・・私のわがままはね私が死んだあとは花畑が見えるところに私の遺骨を撒いてくれないかな?」
陸:「そんな死ぬなんて言うなよ」
涼風:「ううん、自分の死期ぐらいわかるもん。だからさ私の最期のお願い聞いてくれない?」
陸:「うん・・・わかった。」

陸:「涼風、俺・・・涼風がいないと寂しいよ。俺を・・・独りにしないでくれよ・・・」
涼風:「陸、ごめんね・・・独りにしちゃって・・・」

――間――陸は泣いている―――
涼風:「ねぇほら、最期ぐらい笑ってよ」
陸:「・・・あぁ、そうだな。」
涼風N:「陸は目を腫らしながら私に微笑んだ。」
涼風:「少し眠たくなってきちゃった」
陸:「ずっと側に居るからな、眠たかったら眠りな?」
涼風:「うん・・・ありがとう、そうするね。おやすみ陸・・・愛してます。この世の誰よりも愛してます」
陸:「俺も愛してる。誰よりも、愛してる」
涼風:「ありがとう・・・」
陸N:「その言葉を最期に涼風はそれから目を開けることはなかった。涼風は俺のその言葉が嬉しかったのか表情は微笑んでいた。」
陸N:「涼風の葬儀は内々で執り行われた。俺は葬儀の人に頼み込んで涼風が入っている柩(ひつぎ)には紫蘭の花を入れて花嫁の衣装を着せてくれないかと頼んだ。」
陸N:「柩には紫蘭の花が涼風の周りを飾っており、とても綺麗にお化粧をされ花嫁衣装を着た涼風が寝ていた」
陸:「うん、涼風良く似合ってる。とても綺麗だよ」

陸N:「そして葬儀は淡々と執り行われた。最期のお別れを言うために涼風の友人、恩師、親戚など大勢来てくれて皆泣きながら『ありがとう』や『あの時は楽しかったね』など思い出を語っていたり、花嫁衣装を褒める言葉もあった」
陸N:「涼風の火葬後、涼風の願いであった花畑の見える場所に遺骨を撒いて欲しいという願いのため花畑の見える丘に来た。」
陸N:「そして、そこから骨粉を撒くと一緒に紫蘭の花も一緒に撒いた」
陸:「涼風・・・知ってるか?紫蘭の花言葉には『変わらぬ恋』の他にも『あなたを忘れない』って言葉があるんだって。だから、俺もこの花の花びらを君と一緒に撒いて君に送るよ・・」
陸:「涼風・・・俺は君を忘れない・・・だから涼風そっちで俺が行くまで待っていてくれよな」

―――涼風、死後の世界・・・湖(?)の上にいる涼風―――
涼風:「ん?ここは・・・青い空にどこまでも広がる湖・・・あの時と違って霧が立ちこめてないすごく綺麗・・・」
涼風:「そっか・・・私、死んじゃったんだね。陸には悪いことしちゃったな・・・はぁ陸に会いたいなぁ・・・」
涼風N:「そう呟きながら上を向いて空を眺めていると空から紫蘭の花や花びらが降ってきてそして、どこからか陸の声で」
陸:「涼風、俺は君を忘れない・・・だから涼風そっちで俺が行くまで待っていてくれよな」
涼風N:「そんな声が聞こえた。だから私は・・・」
涼風:「うん!待ってるよ!でも、直ぐ来ちゃだめだからね!出来るだけのんびり来てね!私はいつまでも待ってるから!」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?