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玉米软糖、蕎麦とヒエのディド、奈良漬と菜の花のキンパの日。

午前十時、月に一度通っている市ヶ谷の漢方薬局に薬を処方してもらいに行く。先生とのカウンセリングで脈を診てもらうと、今の私の体は心と肝の連携が若干うまくいっていない状態とのこと。ここ最近気を巡らせてくれる食材を欲していたのは、恐らくそのせいだったのだろう。毎月ここに来て先生と話すと、今自分が本当は何を考えているのかが分かって面白い。自分の体について質問をいくつもされる中で、自分の答え方、瞬間的な反応から、自分が今何から目を逸らそうとしているのかを突きつけられる。今回は診断の結果、冬の補腎薬に加え心を沈め気血を巡らしてくれる生薬を一緒に処方してもらうことなった。薬を個別包装する間、先生から「これでも食べてて」と中国のお菓子「玉米软糖」(とうもろこしのゼリー)をいただく。見た目はとうもろこし型の小さな消しゴムみたいな感じのそのお菓子は、食べてみるとまるでコーンスープをそのまま固めたような素朴な味。思いの外気に入ってしまった。先生の故郷・哈尔滨は寒い時はマイナス30度ほどにもなる寒冷地だけど、中国国内の観光客で今年久方ぶりのブーム再来となっているらしい。北海道のニセコも物価がまるで欧米並みになっていると噂で聞くほど人気のようで、パンデミックを経て人々は極寒の地に何か救いを見出したのかもしれない。

煎じ薬を詰め込んだリュックを背負って薬局を後にし、昼ごはんを食べるため総武線に乗って大久保まで移動する。何かスパイスが効いたものが食べたくて、新大久保駅前の路地を入ったネパール雑貨店の中にある小さな食堂「Solti KHAJA GHAR」に入り、ヒエ入りの蕎麦がき「ディド」とマトンのカレーのプレートを注文。私はいつもカレーなどのスパイスがたっぷり使われている料理を食べる際、主食はお米か全粒粉、蕎麦粉の中から選ぶようにしている。スパイスは体の熱を上げるものが多いので、同じく体を温める精製小麦粉を使ったナンなどを一緒に食べると、私の体質的に熱性に偏り過ぎて感じるからだ。一概には言えないけど、普段お酒をよく飲む人や、体に痒みやニキビ、鼻詰まりなど炎症による症状が起こり易い人、イライラしがちな人なんかは、そういう些細に思えるところから気をつけてみると、日々の積み重ねで体にも変化が表れて来るんじゃないかと思う。

夜、夫のリクエストでキンパを作ることにし、蜂蜜を加えて焼いた卵焼き、茹でた菜の花、奈良漬、稲荷寿司用の油揚げを細長く切って具材の準備。あとはレモン汁と胡麻油を混ぜたご飯を海苔の上に広げ、さっき切った具材を立体的に乗せて巻き簀で一気に巻いたら出来上がり。包丁で切った出来立てのキンパを味見すると、菜の花、奈良漬、レモンの香りが口の中に広がって実に爽やか。キンパと言えば、二月の初めの一番寒い時期にソウルにまた行く予定なので、最近少しずつ防寒グッズを買い集めている。これまで三月から十一月までの時期にしかソウルに行ったことがなく、本格的なソウルの冬を体験するのは今回が初めてということになる。まずは足首まであるロングダウンコートを買い、痒くならないコットン素材の防寒下着を上下数セット買った。そしてAmazonから今日アウトドア用のボタンで装着するマフラーと音が聞こえる仕様のイヤーマフが届き、ひとまず安心。でも、考えてみれば私自身も十八まで極寒の北海道の冬をサバイブしてきた成功体験があるわけで、本来そんなにビビらなくても良いはず。そう自分に言い聞かせ、真っ白な息を吐き鼻先を真っ赤にしながらソウルの맛집(美味い店)を巡っている自分の姿を想像する。

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