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13.化学療法

治療が始まった。
先ずは、数日に一度点滴で薬を体に入れる。その後、2週間に一度の間隔で投与を続ける予定だった。

投与を始めて数週間が過ぎた頃から体調に変化が現れた。洗髪のたびに髪が抜け始めた。覚悟はしていたものの、現実となるとやはり悲しいものだ。治療が終わればまた生えてくるのだからと思っても、こんな時に限って私の中の乙女がメキメキと顔を出してくる。髪は女の命と昔の人が言う意味が分かる。鏡に映った自分を見ると涙が溢れた。

そんな私に気づいていたのか、夫は枕に抜け落ちた髪を、私に気づかれないようにそっと拾ってくれていた。最近になってあの時は悲しかったと夫が話してくれたことがある。

その後酷い吐き気に襲われた。毎日、車酔いとつわりが一度に来たような感じだった。寝ても覚めても続く吐き気と倦怠感。私の精神も崩壊寸前だった。

私は子供の頃から車酔いが酷くて、車に乗れば5分待たずして車酔いしていた。これは今だに変わらない。しかしながら不思議なもので、自分で運転すれば大丈夫という、何とも変わったところもある。

そんな感じなので吐き気に関しては弱い。妊婦のときもつわりが半年も続いた。吐き気に敏感で自分で自分に暗示を掛けているところがあるのかもしれない。

それからしばらくは、ソファーに朝から晩までへばりつく生活をしていた。食欲もなくゼリー飲料やバナナなどで、何とか栄養を取っていたがみるみる痩せていった。

そんな苦労も報われず、腫瘍に全く変化はなかった。投与前には副作用を調べるために血液検査をする。それをクリアしなければ化学療法は続けられないのだが、白血球の数値が悪くなり続けられなくなっていった。それから治療期間を置いたが回復が難しくなり、3ヶ月で化学療法は打ち切りとなった。


14話目へ続く…



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