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パニクッた定員にコンフュされて月の女王になった話

危機管理能力。
何が起こるかわからないこの世の中で、身に降りかかる災厄から逃れるには常に警戒を怠らず、慎重に判断を下し、冷静に行動する必要がある。
平和に見えるこの日本でも、一歩外にでると窮地に陥ることがある。
そんな時にこそ、自身の危機管理能力が遺憾なく発揮される。

ちなみに僕の危機管理能力は、ずば抜けて高い方だ。
車を運転する際にはかもしれない運転を心がけているし、
マクドナルドでホットコーヒーを頼んだ時は必ずフーフーしてから飲むようにしているし、
爪を切るときは反動で飛んでくる爪の破片が目に刺さらないように目を細めているし、
フランクフルトは付属のケチャップとマスタードを付けるときにベヤァァってなることを考えて、何も付けずにそのままでいただく。

この様に日々の些細なことにも細心の注意を払い、危機的な状況になることを未然に防ぎながら生活している。

しかし。どうしても避けられない時がある。
この前もそうだった。

先日夕方ごろに家から少し離れたスーパーで一通りの買い物を済ませて、家路についた。その車内で「トマト缶」を買い忘れていることに気が付いた。
流石の危機管理能力。こういった事態の為に買い物帰りにはチェックを欠かさないようにしている。
幸い道中に最寄りのスーパーがある。そこでトマト缶だけ購入すれば問題はない。…はずだった。

トマト缶購入に立ち寄ったスーパーは、所謂「業務用スーパー」的な立ち位置で、沢山買うときやビッグサイズのものを買うときには重宝している。
それはもちろん近所の方もご承知で、夕食前のスーパーは多くの人で賑わっていた。

僕はお目当てのトマト缶を一つ手に取り、颯爽とレジへと向かう。
1~10の番号が書かれたレジの中で、
7番だけがやけに空いていて、前に一人並んでいるだけだったのだ。

ラッキーとばかりにその後ろに並んだのが運の尽き。
なんとその前の人のカートには同じ商品が山盛りなのだ。
おおよそ50個~70個はある、その商品は4本入りの1パックの茄子。

どうやらお店さんか業者さんで茄子がなくなって慌てて買いに来ているみたいで、「ちょっと早くしてほしい、急いでるから」的な催促までしているのだが、そんな時に限って間の悪いことにレジ担当のお兄さんの胸元には「研修中」のプレートが。

目の前には大量の茄子。お客様からは急ぐようにとの指示。
「研修中」の彼もどうにか早い方法はないかとレジの画面をピッピっと操作しているが、うまくいかず、最終的には1パックずつバーコードを読み取りだした。

誰がどうみても取り乱している彼だったが、その後は何とか大量の茄子を処理しきってみせた。
そんな大仕事をやり遂げた彼の次なる相手はトマト缶を一つだけの僕。

おそらくその高低差にパニックになったのだと思う。
僕にお釣りを渡す際に、しっかりと僕の目をみて大きな声で

「いらっしゃいませ!」
と言った。

その時である!
僕の危機管理能力が発露し、一瞬で思考を巡らせる。

ー--いらっしゃいませって言ったか?
ー--もうお会計しているのに?
ー--「いらっしゃいませ」はこのタイミングでは言わないよな…
ー--じゃあ、彼は今なんと言った?

ー--「いってらっしゃいませ」か?
ー--そんなメイド喫茶みたいなサービス聞いたことないが…
ー--しかし、こんなにも誠実な彼に返答しないのも無礼だろうか…
ー--どう返すのが一番いいだろうか。

ー--そうか!こんな時は!

遺憾なく危機管理能力が発揮された僕は、
店員の彼の目をじっくりと見つめ返し、右手の平を彼に見せるようにして

「よしなに」

と言うのだった。

事程左様に危機管理能力というのは大切で、
日々の中であらゆるシミュレーションを想定しおくことをお勧めする。

いつか僕のように月の女王になる日がくることだってあるのだから。


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